伴奏曲

necropsy

第1話エピローグ

 ひとは移ろいでいくものだ、

 変わらずにいることは自らで気づいていないだけで変わっていっている。


 いつしか疎遠になってしまう。

 あのときはよかったが今ではどうであろうか、

 重ねていく年月はときにひとを醜いまでに歪ませきる。

 それが想い出でもあれば思い出でもある。


       ※


「ジョン!」

 あずさの声にジョンが振り向いた。

 相変わらずのぶっきら棒なジョンの言い草ですらあずさは気にしない。

「あのね」

 今日はなにを話そうかと思いながら丸々敷地ではなく領土になっている屋敷内への入り口は途方もなく遠い。

「国境を越える」

 あずさは薄れゆく意識のなかで海原かいばらの声を聞いていた。

 あのとき凄い爆音がした。

 ハイジャクされた船内の出来事がなぜ今に繋がるのか、

「殺さずにおいてやったのだ」

 その声もあずさの記憶のなかにあった。



       ◆



「それで」

 取材にあたる安藤は年老いた神父に身を乗り出した。

 有名なリゾート地のある島で逸話を通りこした神話にすらなっているエピソードを聞き、堪らず安藤は取材に訪れていた。

 神父は目を細め、懐かしさに記憶を辿っている。

 三流ジャーナリストである安藤といいたいが自称に近い。

 これといった経歴もないままにいつしか安藤はジャーナリストになっていた。

 収入が不安定ではなく収入がないに等しい。細々としたサイト収益のみが安藤の年収といってもいい。

 荒くれていた安藤がジャーナリストになったのはたまたま投稿した記事がニュースサイトに掲載されたことがライティング歴の始まりであった。

 まさにビギナーズラック。

 なかなか史実を報道しようとしないメディアに安藤はブログを作ることで今のなにかを伝え続けるが幸運はそうも続かない。

 ほとんど来訪者もいないブログを更新しながらのその日暮らしだ。

 なんの目的意識もなくただ流されるように生きてきた安藤にとってはそれでもよかった。

 たった一人でも今の惨状を伝え続けるのはただの自己満足でしかない。

 たまたま訪れたIPがおかず探しであったとしてもそれが今のインターネットだ。

 日本には裕福な暮らしがある。

 しかしこの島にはない。ただ圧倒される自然しかないこの島を狂気と恐れられた海原を変えた日本人女性がいた。

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