彼と薬と飛びたい私

千秋静

第1話

 隣に住んでいた女の頭を砕き続けて一時間が経った。


 首から切り落とした頭は血と肉と骨をミキサーで荒く砕いて髪の毛を絡ませたようなドロドロの液体になっている。部屋の床には血や細かい肉が飛び散っているが気にはならない。それよりも邪魔者を消し去れた満足感の方が勝ってとても清々しい気分だった。


 ここまで手荒なことをする必要はなかったかもしれないけれど、この部屋に遊びに来るアキトを隣の汚らわしい女がしつこく誘惑してくるものだから堪忍袋の緒が切れてしまった。

 

 今朝、隣の女が出かける時を狙って私の部屋に引きずり込み、玄関で紐を使って首を絞めて殺した。迷いはなかった。アキトのまわりをぶんぶん飛び回る小蝿を一匹殺したところで罪悪感も後悔も何も無かった。もし私が行動を起こさなかったらこの女は自分の部屋にアキトを連れ込んだかもしれない。汚い雌豚がアキトを誘うなんて笑ってしまうけど、魔がさしておかしな展開になる事だってありうる。そうなってからでは遅いから早めに手を打っておきたかったのだ。


 彼氏のアキトはとても素敵だから女がいくらでも寄ってくる。恋人の私は彼が浮気していないかいつもハラハラしていた。そのため、どこに行ってもまわりの女の存在が気になった。少しでも彼を見ている女がいると腹が立って殺意を覚えた。そんな私を見てアキトは嫌そうな顔をして考えすぎだと怒る。私が何か言い返すと一層怒って殴りかかってきた。


 この間、コンビニに二人で行ったときにちらちらとアキトの方を見てくる女がいた。不愉快だったので駐車場に連れて行って殴ってやったら私がアキトに殴られて叱られた。ラーメン屋に行った時は注文したものを運んできた女の店員がやたらアキトに愛想を振りまいて体をクネクネさせていたので出来立てのラーメンを店員の顔に思い切りぶっかけてやった。店員は顔を手で覆って悲鳴を上げた。店長だという男が警察に通報すると言ってきたので店員への不満を店長に訴えたが聞き入れられず、店の中でアキトに殴られ、その上警察まで呼ばれてしまうという事件になってしまった。気持ちの悪い女どもから守ってあげたのにどうしてこうなってしまうのだろう。


 愛しても愛しても、その思いが届かない日々が続いて私は苦しかった。

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