第10話 ラブブック~♥ 10

「お、お、おはようございます!」


ここは渋谷の、

スクランブル交差点のツタヤの本のフロア。

お客様が商品を持って、レジにやってきた。

レジの女の子がお客様に挨拶をする。


「い、い、いらっしゃいませ!」


どこかぎこちない。

黒い制服を着ているスタッフ、

渋井谷子は初めてのアルバイトの初日だった。


谷子は手に汗を書きながら、

ドキドキしながら、レジ業務をして、

商品の本を袋に入れて、お客様に手渡した。


「あ、あ、ありがとうございました。」


お客様が帰って行った。


「ふ~う。」


谷子は胸をなでおろす。

初めてのお客様を無事にこなすことができた。


谷子は本が大好きで、

ここでバイトしようと運命の出会いを果たした。


「なかなか、よかったよ。」


隣で見守ってくれる店長が、

笑顔でほめてくれた。


「ありがとうございます!」


谷子は大きすぎる声で言う。


「渋谷子ちゃんは元気がいいね。」


渋井谷子は、

バイト先では渋谷子ちゃんと呼ばれている。


早くバイトに慣れれるようにと、

愛称を決めるのは店長の気遣いだった。


店長は新人のレジ業務を見守りながら、

ペンで紙に何かを書いている。


「店長、なにをやってるんですか?」


バイト初日の谷子には、

なんでも不思議に見える。


「ポップを書いているんだ。」


「ポップ?」


ポップと言われても谷子には分からない。


「本を読んで、本の内容を気軽に書いてるんだ。

 これを本の側に置いておくと、

 見たお客様がおもしろそうな本と思って、

 手に取ってくれるかもしれないだろう。」


「そうなんですね。

 店長、すごい!」


谷子は店長の説明に感心した。


「すごいだろ!」


店長はバイト初日じゃ仕方がないと、

谷子に合わせてふざけてくれた。


こうして谷子のアルバイト初日は、

終わっていこうとしていたが、

帰り際に谷子が初めてポップを書く本に出合う。




「お、お、お疲れ様でした!」


谷子のアルバイト初日の仕事が終わった。


今日1日、初バイトのプレッシャーから、

谷子が解放されることはなかった。


「はあ・・・疲れた。」


売り場を後にし、

バックヤードに入る。


気遣いから解き放たれた、

フラフラ歩いている、

谷子は疲れ切っていた。


「あれ?」


ふと谷子の目が、

奥の棚に本があるのが気づく。

棚には「返却・廃棄」と紙が貼ってある。


まだ新しい本が置いてある。

谷子は側にいた、

返却担当の年配のおじいさんに聞く。


「この本はどうなるんですか?」


「売れなくてね、

 業者が返品を拒否してるから、

 誰も読まないから、捨てるしかないね。」


「そんな!本に罪はないのに!

 作品やキャラクターがかわいそう!」


「渋谷子ちゃん、読むかい?」


バイト先で谷子は、

渋谷子ちゃんという愛称で呼ばれている。


「いいんですか!?」


「いいよ、どうせ捨てるだけだし。」


谷子は本を受け取る。


「私、本が大好きなんです!」


谷子は笑顔で興奮している。


本を救えたこと、

まだ読んだことが無い本を読める喜びに、

幸せを感じていた。


「ありがとうございます。」


谷子は1礼して、

笑顔で本を持って帰って行く。


アルバイトをしている時は、

右手と右足が同時に動いていた谷子だが、

本のことになると、

自然に振る舞えるのだった。



つづく。

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