始まりの魔法

霧槻 柊

序章

プロローグ

 さつきが初めてギターに触れたのは3歳、幼稚園の年少組で毎日泣いていたときだった。

 父で人気ロックバンド『Dream of indigo』のギタリストでもあるりょうの影響以外の何物でもない。

 何となくギターの弦を触り、遊びでペグを回し、適当に音を出していた皐に亮は嬉しそうに「ギターに興味あるのか!?」と言い、皐がうんと頷くよりも早く子供用ギターを持たせて教えてきたのだ。



 そこからは早かった。天才と言っても過言ではないスピードでコードをマスターしていき、10歳になる頃には亮にも負けない腕前になっていた。

 皐は自分の才能に気が付き、音楽で生きていくことを決意。周りのバンド関係者に媚を売って将来的に楽になるようにする作戦を決行。

 幸い、音楽関係者レーベルの人達はその作戦に乗ってくれて皐は内心ほくそ笑んでいた。



 けれど。中学に進学して出来た友人たちと見た10代限定のバンド/シンガーコンテスト。

 そこでステージに立つ同い年のギター少女に皐は目を奪われた。

 お世辞にも美人とはいえない顔だが、きらきらとしたオーラを身に纏い、綺麗な声で歌う少女は迫力も技術もあった。それを間近で見た皐は無性に悔しくなって、一緒に来ていた友人達に言ったのだ。



「俺らもステージに立つぞ」



 友人達は、遊び感覚で了承した。けれど後々皐の本気さに気がつき、必死で楽器を練習した。

 皐も曲作りを勉強し、いよいよ結成となった時。




 皐は交通事故に遭った。




 違法薬剤を使用し、酒を飲んで運転したとして逮捕されたのは19歳になったばかりのDream of indigoファンだった。

 幸いにも皐は一命を取り留めたが、左腕を失ってしまう。

 周りの家族や友人、バンドメンバーは悲しみ、けれど生きているだけでもよかったと笑った。

 でも、皐が媚を売っていた音楽関係者レーベルの人達は明らかに落胆し、顔も名前も分からない未成年の犯人ではなく皐に当たったのだ。



「なんで怪我なんてしたんだ」

「不注意とか自業自得だよな」



 その言葉は皐の胸に深く刺さり、傷ついた。

 初めて媚を売ったことを後悔したが時既に遅し。もちろん言動を取り消すことは不可能だ。

 さらに皐はギターも弾けなくなり、全てを失った気分に。

 そして追い込まれた皐は————————






  した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る