Depth

@uhyo_ojisan

第1話 平成徳政令 ~梵毛孫太夫、折田幸之助と出会う(前編)

『Depth』とは、一体なんだったのか?

それは一言でいえば『戦争』である。

壮大な海原を舞台とした覇権をかけた熱い漢たちのドラマ。

そして俺、日本一路歌(にほんいちろうた)は、超弩弓戦艦山兎(ちょうどきゅうせんかんやまと)の艦長である。

と同時に、水雷長でもあり、航海長でもある。

そしてお腹がすいたら、総料理長を務める。

まあ、カップラーメンくらいしか作れないけどね。(テヘッペロッ)

そう、これこそが、皆も驚く勿れ、あの超弩弓戦艦山兎のたった一人の乗組員である俺の、俺一人の世界を守る戦いの記録なのだ。

敵の名前は、『世界征服公団』という。

世界征服を企むくせいに、秘密結社でも、宗教団体でもなく『公団』なんだね、これが。

これは、俺の偏見なんだが、なんか『公団』っていかにも悪いことしてそうじゃないか?

石油公団とか、道路公団とか、霞ヶ関からの天下りのじじいとか沢山いて、血税使ってくだらないプロジェクトやって、企業からわんさと賄賂を受け取っている。

これが、俺の『公団』のイメージなんだ。

だから、俺的に言って、俺の敵は、死ね死ね団でも、尼子一族でもなく、あくまでも『世界征服公団』なんだな。

ちょっとこの点は、譲れない。

で、SF好きの皆さんは、早く超弩弓戦艦山兎を大活躍を読みたいと思うだろ。

しかし、ちょっと待ってくれ。

その前に、この物語の背景とか、俺を含めての関係者の色々な事情を理解してほしい。

そんな理由で、ちょっと、寄り道させてくれ。




20XX年11月中旬。

 本格的な冬の寒さが忍びよる頃、ついにというか、またというか、とにかくこの国のバブル経済は、崩壊を迎えた。

中国経済の落ち込みに加え、中東での米国とイスラムの戦争が、本格化して、石油価格が高騰したことも大きな原因である。

日経平均は、同年7月から1/3まで落ち込み、証券取引が事実上STOPした。

どのテレビ局でも、緊急特番を組み、著名人が論戦を飛ばしていた。

そして、その男もテレビのスクリーンの中にいた。

テレビ東京の公開討論番組で、権威ある経済評論家のリチャードブウの説明を無理やりさえぎり、話に割り込んできた。

彼は、梵毛孫太夫孫輔(ぼんげまごだゆうまごすけ)と名乗っているが、これは、もちろん、偽名である。

彼は、熱く語る。

『わが国は、米国に対して輸出超過である。否、日本に関わらず多くの国が、米国に対して輸出超過となっている。であるにも関わらず、米国は、未曾有の好景気に沸いている。それを内需主導というが、実は違うのだ。ここに米国が他国に対して隠匿している重大な事実がある。それは・・・』

孫太夫は、ここで言葉を切った。場内は、静まり返り、全員の視線が、孫太夫に集中した。

『それは、米国が宇宙貿易を独占していることだ!すなわち、宇宙人との貿易によって多大な利益をせしめているということなんだ。』

ここで、場内からどっと笑いが起きた。観覧席から罵声が飛ぶ。

『け!宇宙人との貿易だと、馬鹿かよ、あいつ』

『誰、あの人?矢追純一?』

『なにおお!俺を知らないのか。JDKの梵毛孫輔を!』

孫太夫は、頬を紅潮させ、客席に向かい怒鳴り返す。

『ああ、あのインチキ商売の・・・』

一人の観覧者が、そう言いかけると、孫太夫のテンションはさらに上がった。

『何を言うか!このうすらトンカツが!』

この言葉で、再び会場からどっと笑いがおきた。

『う、うるいさい、うすらトン吉!』

しまった!!今度は、間違わないように気をつけて言ったのに・・・

それに誰だ、トン吉って!

孫太夫は、思わず顔を赤らめて、うつむいた。

会場は、哄笑の渦に包まれていた。

・・・ちくしょう・・ちくしょう・・・俺は、天才なんだ、すごい金持ちなんだ・・

心の中でそう叫んでいる。

テレビを局を後にして、重い足取りで家路につく男。そも梵毛孫太夫孫輔とは、何者ぞ?

本名、世羅田孫輔。31才独身。

新進のインターネットベンチャー『日本デジタルノウレッジ』(通称JDK)のCEOである。

そもそもしがない一介のサラリーマンであった彼を時代の寵児に仕立て上げたのは、紛れなくインターネットバブルそのもの。

そして、現在、その崩壊が彼の短い栄華を収束させようとしている。

今をさかのぼること4年前。

彼は、『インターネットバーチャル朝廷』を開いた。

自らを南朝系天皇の末裔を称し、(その時から、梵毛孫太夫孫輔と名乗った)自分の口座に入金した人に対して官位を授けるというものであった。

もっとも官位といってもただ電子メールで『従五位下上野介を授ける』とかいったものがくるだけだが・・

ところが、世の中には、物好きというか、頭のおかしい人がどうも沢山いたようで、気がつくと彼の普通口座には、数千万の金がたまっていた。

そこで、彼は、勤めていた会社を辞めて、起業したのであった。

最初の成功体験で彼は、日本人というものは、やはり、どうして権威に弱い民族だということをあらためて実感した。

彼は、今度は、宗教団体に目をつけてジョイントベンチャーを働きかける。

しかし、それは、本当にプアな内容であったにも、関わらず、急成長していた『人類皆幸福の会』が、彼の話に興味を示した。

それは、こうである。

『人類皆幸福の会』の会員は、会専用のパソコンを購入させられる。

もちろん、普通のパソコンに幸福の会のシンボルマークをはりつけたものだったが、これを市場価格の3倍で売りつける。

すでに、これだけで、相当な儲けがあったが、会員は、毎日、一定の時間、幸福の会のホームページにアクセスしなければならない。

JDKは、インターネットプロバイダーをやっているので、また、金が落ちる。

さらに会員からのお布施の集金やグッズの販売にもJDKの電子商取引の仕組みが利用されたので、その手数料も馬鹿にならない。

こうして、JDKは、有力なインターネットベンチャーの一つと目され、ナスダック市場にも上場し、資本市場から多額の資金を調達した。

すでに年商は、10億に達して、従業員も30名を超えた。

しかし、いつもまでも幸福の会頼みでは、しょうがない。

『ECの次は、UCだ!』

これが、最近の彼の口癖だ。

UC、すなわち宇宙取引。

まだ、人類史上誰もやったことのない宇宙人との貿易。

もし、それが可能となれば、巨大な富ならず、歴史的な名声を手に入れることもできる。

まず、コアとなるWEBサイトである『UFO.NET』を設立。

さらには、宇宙取引についての標準プロトコルや、宇宙取引のための次世代言語の開発を行うための『UFOシステム』などの新会社を設立していった。

しかしながら、やはり彼の荒唐無稽なアイデアに市場は、全く反応しなかった。

しかし、彼は、それは、宣伝が少ないからだと思った。

『もっと、宣伝しなくちゃあかん』そう思いつつも、次に打つ手を思いあぐねていた。

実際、UFO.NETを通じて、大量の情報を取得することができたが、いまだに宇宙人にコンタクトできていない。

UFO.NETにしても、UFOシステムにしても具体的なものが何一つとして産み出されない状況で、金は流れる一方であった。


・・・早く、宇宙人とコンタクトせんことにはな。それにしても腹減ったな・・・

何気なく、カレー屋に入る。

初めて入る店だ。

店内は薄汚れ、彼のほかには、学生風の男が、一人。カウンターでカレーをほうばっていた。

おもむろに出された水は、やはりぬるい。

しかし、彼は気落ちしなかった。

結構、こういう汚くて、客サービスが行き届かない店のほうが、うまいカレーを出すこもある。

手元には、メニューがないので、店内を見渡し、黄色い紙に黒の油性マジックでなげやりに書き付けられたメニューを眺めた。

・・・特製カレー 650円 大盛り100円まし

しかし、その横の文字に思わず、自分の目を疑った!

・・・当店お勧めイカフライカレー

違う、逆側だ!

・・・宇宙人のお客さん半額サービスにします。

宇宙人のお客だとう!

『マスター!マスター!』

長髪で汚い髭の男がカウンターから首を出した。

『何にしますか!』

『いや、この店には、宇宙人はよくくるのか?』

『よく、くるかと言われても、まあ、ぼちぼち・・』

『どうなんだ、来るのか!来ないのか?』

『はあ、正直、自分は、どうかと思いますけどね。時々、どうしても、自分は、宇宙人だと言い張る人がいれば、仕方なく半額にしますけどね。お客さんもその筋の方で。。』

『じゃあ、お前は、お客が宇宙人かどうか、わからないんだな』

『へえ、まあ、そんあとこで。ここのオーナーが変わりもんでしてね、これは、宇宙人を集める計画の一環だそうですけどね』

『宇宙人を集める?計画?オーナーは、どこだ、すぐに会わせてくれ!』

『え!ちょっと』

『オーナーは、どこにいるんだ!』

『ここには、いないっすよ。今場所教えますんで、暫く、、』

そういって、マスターは、奥に下がると薄汚れた名刺を1枚差し出した。

『これ、オーナーの名刺ですよ、事務所にいるかどうかまではわかりませんが。。』

オリコーグループ総裁 折田幸之助

名刺に書かれたその文字を孫太夫は、凝視した。

自分以外にも、宇宙人をコンタクトしようとしている人間がいる。

それも、自分が思いもよらぬ方法で。

この男には、是非とも、会っておかなくてならない。

孫太夫は、体を貫くような衝動を感じていた。

『お客さん、カレーは。。』

『すまんな、感謝するよ、それじゃな』

孫太夫は、店の外に駆け出していった。

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