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 星野くんと電話で喋った後で出たシフトを見ると、七月中は、ラストまで一緒の日は一日もなかった。お互いテスト期間で元々いつもより少な目に申告していたからだろう。切りがいいからと雑に決めた日付だったが、八月一日はどちらも入っていなくて、日付を決め直すという野暮なことはせずに済んだ。

 私はその日にちゃんと告白の返事をするつもりだった。当日まで大きな気持ちの変化がなかった場合は、その日のデートを自分が楽しいと思えれば、細かいことは考えずに付き合ってしまおうと。そう言ってる現時点で、十分細かいこと考えてる方なんだろうけど。

 そんな心持ちなので、まあちょっぴり、浮かれてはいた。三回生になると語学も終わっているので、試験を受ける科目で重要かつ難関なものはあまりなかったが、その分書かなければいけないレポートが多かった。パソコンに向かっては、息抜きにとデートスポットを検索してみたりした。どこに行くかは決めていなくて、どちらが決めるという話にもなっていなかったが、一応私が誘ったので、提案はしておかなければと。きっと、星野くんの方が良さそうな場所の引き出しは多いのだろうけれど。

 私は七月三十日で最後の試験が終わり、残りはレポートを提出する科目のみになった。締め切りまでは結構あったので、最後の試験を二限で受けた後、久しぶりに十四時からラストのシフトに入っていた。星野くんはおらず、夕方までは奈保さんと一緒だ。奈保さんにはまだ、星野くんとのことを一切話していなかった。変に囃し立てられたりお膳立てされるのが苦手だから。けれどさすがに、付き合ったら言った方がいいのかな、店長にはどうしよう、でも逆に隠した方が良いものなんだろうか……と呑気に考えているうちに奈保さんはあがり、月曜にも関わらず客入りは盛況になっていた。

 最近は、パプリカと共にオリーブオイルであえたタコのガリシア風、塩レモンの味付けをしたナスのピンチョスなど、季節物のメニューがよく出る。冷やした白ワインが飲みたいな。スパークリングもいいけど、本当に暑くてうだるような時は、わたしは果実味系の白がいい。星野くんとワインを飲んでみたいし、明後日はそういう店を提案してみようか。そう思っていた時に丁度、一番高い白ワインのオーダーが入った。ドリンカーをやっていたので注いで持って行ってもらった先をカウンターから見ると、いつの間にか都さんがこの間の男性と共に来店していた。今のが一杯目だったようだ。

 三十分ほどして客足が緩やかになってきた頃、ドリンカーを離れて少し声をかけた。

「夏メニューいろいろ増えてるね。さっきのタコすごい美味しかったー。お肉系が食べたいんだけど紗耶香ちゃんのお勧めはどれ?」

「そうですねー。ローストビーフのソースに今ならハニーマスタードが選べるんですけど、個人的には結構好きです」

 じゃっそれで、と言われたのでハンディに打ち込む。男性は都さんと私のやり取りを見守ってはいたが終始何も言わず、スマホを気にしているようだった。この間は壁際のカウンターだったが、改めて顔を正面から見てみると、やはり都さんよりも十五歳ぐらいは上のように見える。私は二人が一緒に来店したあの日以来だったが、星野くんはあれから、都さん一人の時と二人の時と合わせて三度ぐらい見かけていると言っていた。店長も認識している常連さんになっている。よく飲んでよく食べてくれるので、ありがたいことだ。

 お客さんの数も減ってきて、ホールの一人はキッチンの洗い物の手伝いに、私は前菜の片づけをしていた。レジの方で呼びかけられたので急いで行くと、都さんの連れの男性だった。背広を腕にかけ、鞄を持っている。

「すみません、ここまでの分だけ支払っていいですか?」

「あ、はい。大丈夫です」

 カードで支払いを済ませると、男性は都さんの元に一度戻り、一言二言告げた後で店を出て行った。

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