第2話
史佳と別れてから、家に着くと、母が電話を片手に俺に詰め寄ってきた。
「史佳ちゃんとどこまで一緒に帰ってたの?」
「は?関係ないだろ?恋愛に口出さないのは自分で言った事だったろ?」
「いいから答えて!!」
その目は真剣そのもので、何かを信じたくない、信じさせたくないという目だった。
「いつも通り、学校近くの駅までだよ。それがどうしたんだよ?」
「アンタ今すぐ史佳ちゃん家に行きなさい」
「は?なんで?」
「良いから早く!!」
全く状況が分からない。史佳が家で襲われているのか?けれど、あの家族はとても仲が良くて、俺達が付き合ってる事も反対どころか応援してくれていたほどだ。
「分かったよ。行けばいいんだろ。行けば」
「もし、誰も家に居なかったら、ここに書いてある所に行きなさい」
メモを渡されると、母はふらふらと奥に戻っていった。ホント、一体何があったんだよ。
史佳の家に向かう途中、一応千華に電話を入れた。いくら部活中だからって、あんな顔をした母を見ると、アイツは何か知っているかもしれないと思ったからだ。
けれど、電話には出ず、何故か不安と焦燥感に駆られていった。
「ホントッ何なんだよ!誰か何かを教えてくれよ!!」
そう言っても誰も何も教えてくれない。だけど、史佳の家に近付くにつれ妙な胸騒ぎがし始めた。それと同時に、考えたくもない事が頭をよぎった。
「まさか……な……」
史佳の家の最寄り駅に着くと、沢山のパトカーが史佳の家付近に集まっていた。その光景を見て、俺は察した。何故あんなに母が焦っていたのか。何故渡されたメモが近くの総合病院を指していたのか。何故母が知らせずに自分で見て確かめろって事を遠回しに行ったのか。全てが繋がった。
史佳の家に行って確かめなければいけない気がした。でも、足は思う通りに動いてくれなかった。それでも、史佳の家に辿り着くと、見たくないものが視界に入ってきた。
「嘘だろ……なぁ……こんなの嘘だって……誰か言ってくれよ……!!」
「君は……確かうちの娘と付き合っている……」
「弥刀です……お久しぶりです……」
「弥刀君。私に付いてきなさい」
「嫌です」
「付いてくるんだ」
「嫌です」
「付いてこいって言ってるんだ!!」
「嫌だ!!」
そこまで言って、史佳の父親がついさっきまで今の俺みたいに、現実を受け入れず、泣いていた跡が見えた。
「お願いだ。娘に会える最後なんだ……頼む。現実を受け入れられないのも分かる。見たくないのも分かる。もっと一緒に居たかったのも分かる。結婚したかったのも分かる。大事にしてくれていたのも分かる。でも、だからこそ、頼む。死んでしまって、体だけの娘を最後に見てやってくれ……」
その言葉が俺や自分に対してまでどれだけ辛い言葉なのかを理解した上で発した言葉だというのはすぐに分かった。本当は見たくない。でも、これ以上断って今より史佳の父親を傷付けたくない。だから、俺は史佳の最後の姿を目に焼きつけることにした。
「史佳はなんで死んだんですか……?」
「交通事故だ」
「轢いた奴は?」
「先程、無事逮捕された」
「なんで……なんで何も悪くない史佳なんですか……?」
「……それはこっちが聞きたいぐらいだよ……」
それはそうだけど、俺も納得はできない。
「犯人はなんて言ってたんですか……?」
「それは分からない。けれど、絶対に有罪にする。それは約束しよう」
「捜査の過程と裁判の日時が決まったら、教えてください。裁判は見に行くので」
「そうか。分かった」
「後、少し席を外してもらえますか?」
「……分かった」
史佳の父親は意図を理解してくれたのか、席を外して、俺と史佳だけにしてくれた。
「なぁ、なんでお前なんだよ……なんでなんだよ……俺だけなんで残したんだよ……」
「……」
当たり前だけど、死体が話すわけが無い。
「答えてくれよ……何か話してくれよ……」
「……」
俺はまた泣いてしまった。
泣きやみ、最後の挨拶をし、霊安室から出ると、千華が顔をぐしゃぐしゃにし、俺に文句を言いたそうにしながら俺を睨んできた。
「……」
「……」
だが、何も言わず、霊安室に入っていった。
後日、親族と俺達のクラスと過去のクラスの人間、関係者が集まり、ひっそり葬式が執り行われた。
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