サンタクロースになっちゃった
久環紫久
第1話
今年の冬は、あれだけニュースで猛暑酷暑と騒がれた夏と打って変わって日本中どこもかしこも雪が積もるほど深々としていた。
空を見上げると、月が夜空にどでんといて、街を照らしている。月に照らされた霙雪は街中を粉砂糖というより生クリームのようにデコレーションしていて、こんな夜は外を歩く人も少ない。
九郎は軽ワゴンのエンジンをつけて暖機をした。タイヤの空気圧も問題ないし、メンテナンスはばっちりだ。道順の確認もした。それにナビもある。最近のカーナビはハイテクでマイクで音声入力もできるし、妙な回り道を通らされることもない。
助手席の窓を開けて、都中井が「そろそろ時間だな」と顔を出した。うなずいて車に戻る。
車に乗り込んで、目的地を確認する。都中井が、助手席を少し後ろに倒しながら白い息と煙を吐いた。いつも通りの都中井を見て、少しほっとした。しかし不安は消えなかった。何せ初めての仕事だ。寒さでかじかむ両手をこすり合わせて息を吐いた。
「行きますか」
九郎がハンドルを強めに握ってアクセルを踏み込んだ。タイヤが雪をかみしめて、ゆっくりと前進し始めた。がしがしと雪がつぶれていく音が少しずつ遠くなって、車は宙へ浮いていく。月夜に一台、空飛ぶ軽ワゴンが現れた。
夜空にうかぶはまん丸満月。
夜空にひかるは冬の大三角。
夜空にすすむは四角い白の軽ワゴン。
今宵はクリスマス。サンタクロースが君のもとへやってくる。
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