第3話 僕と君とで魔王と対峙

 最初に紛れ込んだ時は正直言って何の違和感も無くって、全く気付かづにぼんやりと過ごした。

 どうやら垂直世界は元の僕らの世界と点で交差している訳ではないらしい。

 面、というか、円柱のような範囲でぽっかりと僕らの世界に突き刺さり、僕の周辺の空間をそのまま吸い上げてしまったようだ。


 僕と一緒に移動したのは高校の同級生、シハナ。年は僕より一つ上で16歳になったばかりだ。


「ペロ、10分しか歩いてないのになんでこんなに疲れるんだろ」


 比呂ヒロという僕の名前を彼女はペロと呼ぶ。そんなことはどうでもいいけど、シハナがそう言って、ようやく僕は疑い始めた。


「10分を何セットも繰り返した、としたら疲れるかな」

「え?」


 いつもの高校前の大通りを2人で並んで歩く。徒歩20分で着くはずの距離の半分まで来ているだろうと思うけれども、着かない。


「そういえば、誰も歩いてないね」


 シハナの言葉に改めて周囲を見る余裕が生まれる。

 大通り脇にある寿司屋の前も、和菓子屋の前も、誰もいない。

 普段賑やかな声を立ててちょこまかしてる幼稚園児もいない。


 代わりに前方に牛のような容姿の動物、なのか、人なのか、判然としない生き物が佇んでいる。


 夢か?とも思ったけれども余りにもリアルな肉感だ。


 牛、と言えば西遊記の牛魔王を思い出す。


「あれって、魔王、なんだろうな」


 僕はシハナにぼそっ、と囁いてみた。

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