第21話 迷宮都市 その4

 宿に入ると、夕食前に全員で一度エミリーの部屋に集まって会議を行った。

 「あのまま行っても攻略は十分可能だったと感じるのだが、わざわざ一晩待つことにしたのはどういうわけなのだね?」

 エミリーが明日香に問いかける。


 「ええ、エミリーの言うことはもっともだわ。『時間を重視』するのであれば、昨日そのまま突っこんでいっていた方がよかったでしょうね。

 でも、『魔神ニビルを確実に仕留める』ためには一日待って、迷宮の主たちを強化しておいた方がいいと判断したの。

 何しろ、ここの迷宮は『学習して自らを強化する迷宮』だから、その後でこの迷宮を打ち破った方が私たちがより強化できるからね。

 私の飼っているレインボードラゴンは喰らった相手の力を吸収することができるし、哪吒子の扱う斬妖剣は強敵と戦えば戦うほど強化される神剣だからね。」

 明日香の言葉にみんながうなずく。


 俺も哪吒子の剣のこと、そして明日香の飼っている竜のことを聞いた時はビックリした。

でも、明日香の元々の人間性と、哪吒子が竜のことを保証してくれたことで、何とか納得することができた。

 多くの人の心を支配下に置いて『おもちゃ同然に扱う』ような邪神をみんなで確実に倒そうとさらに心に誓った。




 翌日、万全の態勢で最下層の転移門に移動した。

 再びエミリー、シャリー、ライピョンさんが前へ出ようとすると、哪吒子がそれを制して言った。


 「ごめん、そろそろ体を温めておいて、万全の態勢でラスボスとりあいたいから俺が前面に出ていい?」

 哪吒子が強烈な意志をたたえた視線で頭を下げるので、エミリーたちは快く譲った。


 「哪吒子?」

 今までにない、真剣な表情をしている哪吒子に明日香が思わず語りかける。

 「今度の敵はこの世界に来て初めてりあう『同格』の相手だからね。気合を入れておかないと♪」

 笑いながら哪吒子は双剣を握ると、素早く先頭に飛び出した。



 そこからはフールの電脳迷宮の時以上に哪吒子さん無双が続きました。

 あらゆる敵やほとんどの罠が双剣で細切れになって終了です。

 魔方陣形式の罠は作動前に剣圧でぶった切られて消え去りました。


 あっという間に迷宮最後の間の前まで到着です。

 高さ五メートルを超える巨大な金属製の扉の前で俺たちは一息つきます。


 全員扉の向こう側からの圧倒的な圧力を感じて緊張しています。

 哪吒子が双剣を一閃すると扉が崩れ落ち、室内からの圧力が一気に俺たちの方に吹き付けてきます。


 「へっへっへっへ!期待通りだな♪」

 哪吒子はひときわ大きな邪気を発する相手を見てにやりと笑う。




 「「「ようこそ、勇者たち!!」」」

 三人の男の声がはもって俺たちに圧力をかけてくる。


 天井までの高さが三〇メートルはあり、広さが野球場くらいはあろうかという広大な空間には高さが一〇メートルを超えようかという巨大なゴーレムがおり、その周りを高さ三メートル前後はある漆黒の鎧でできた生きた鎧リビングアーマーが数十体膨大な邪気を放っていた。


 リビングアーマーたちはそれぞれ剣や槍、バトルハンマー、弓など様々な武装をしており、うっすらと放つ邪気は今までの迷宮の怪物とはけた違いに大きく感じる。


 巨大なゴーレムはゴリラかマッチョな大男風といった感じのフォルムをした白銀色の金属でできており、両手が異様に長く、また手も大きく、殴られたらそれだけで、そこらにいるリビングアーマーでも粉砕しそうな感じだ。

 このゴーレムもあのヤマタノキングヒドラを彷彿させるくらいの存在感を放っている。


 しかし、哪吒子はそれらには目もくれず、それらから少し離れたところに立っている一体の存在を嬉しそうに睨みつけている。


 高さは四メートルくらいで、漆黒の金属鎧を着こんだ八本腕の戦士はそれぞれの手に青竜刀や槍など様々な武器を持ち、東部には牛・騎士・ローブの男性の頭を備えている。

そして、それぞれの頭の双眸からは強烈な意志を感じさせられる。


 「「「我らは七柱のシユウ、ギルガメシュ、そして魔術師ガイアスの融合体だ。

我らは貴様ら、そして邪神ニビルを倒すために完全に融合した。今までのやつらは貴様らの力を侮って、力負けして敗れ去った。だから、我らは自らの、そして持てる力の全てを使い、貴様らを全力で倒す!!」」」

 三つの頭が同時に吼える。


 「こいつら、かけらも油断してねえぞ。明日香姉ちゃん、タツ達に可能な限り強力な防御結界を張ってくれ。守り最優先だ。

 ゴーレムとザコどもはエミリーたちに任せる。

 このラスボスは俺が全力で倒す!!」

 哪吒子は叫ぶと、風雪輪に乗り、双剣を抜くと、あっという間にラスボスの眼前に躍り出る。

 だが、次の瞬間、ラスボスが八本の手を瞬時に動かし、哪吒子が後方に吹っ飛ばされる。


 「「「哪吒子?!!」」」

 哪吒子が後方の壁に叩きつけられ、壁ごと崩れて、瓦礫に哪吒子が埋まる。

 俺が慌てて駆け寄ろうとすると、明日香がそれを制す。

 「大丈夫。大したダメージは受けていないわ。」


 明日香の戦闘ナビでは哪吒子をしめす光点の光はまったく色が衰えていなかった。

 「へっへっへっへ、やるじゃん♪予想以上にたのしめそうだぜ!!」

 瓦礫の中から哪吒子がゆらりと立ち上がってきた。



~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~



 「五倍雷王拳!!!」

 ライピョンさんの右正拳がゴーレムの腹部と思しき場所にめり込む。

 しかし、少しへこんだ金属製の腹部は盛り返すようにライピョンさんの拳を押し返す。

 ゴーレムは右拳をライピョンさんに叩きつけようとし、ライピョンさんはそれを何とか躱す。

 「ダメだ、攻撃がまるで効いていない!!それに、思ったよりもずっと動きがすばやい!!」



 「守護ゴーレム:身長一〇メートル 体重一〇〇トン

魔法耐性・物理耐性が桁違いのオリハルコン製のゴーレム。

格闘能力しかないが、その分物理攻撃力と魔法防御力、結界突破能力を高めている。」


 明日香の戦闘ナビにゴーレムの概要が出てくる。

 通常ならこいつがラスボスなのだろうが、強化されたライピョンさんの攻撃を受け付けないところを見ると、極限まで強化してあるに違いない。


 「このゴーレム、本来なら哪吒子ちゃんに相手をして欲しいくらいの化け物だわ!!」

 ナビで能力をチェックして明日香が叫ぶ。

 その間も明日香は俺たちだけでなく、ライピョンさんやエミリー、シャリーにも防御魔法を重ね掛けしている。



 エミリーとシャリーはリビングアーマーどもと戦っていたが、予想以上に守りの固いリビングアーマーたちに苦戦を強いられていた。

 敵の攻撃は何とかはねのけられるのだが、エミリーの攻撃魔法やシャリーの剣でも大したダメージが与えられないのだ。

 シャリーは何とか戦線を維持し、エミリーは何体かを魔法で吹き飛ばすが、その度に吹き飛ばされたリビングアーマーたちは立ち上がってくる。

 予想以上のこう着状態にエミリーとシャリーは渋い顔で戦い続ける。



 「ザップマンちぇんじ!!!」

 みんなが戦う中、じいちゃんはザップマンに変身する。…ただし、等身大。


 『ザップマンビーーーム!!!』

 光線がリビングアーマーに命中するが、『それなりにダメージ』を与えつつ、事態はあまり進展しない……約一分でなんとかリビングアーマーが火を噴いて倒れる。


 「がーーー!!!やっとれん!!

 ザップマン、ちょい、巨大化!!」

 じいちゃんが掛け声をあげると、ザップマンの身長が約一〇メートルくらいになる。

 「ここで、再び、ザップマンビーーーム!!」

 今度は約一〇秒くらいでリビングアーマーが吹き飛ぶ。

 五体くらい吹き飛ばしたところで、じいちゃんの変身が解け、ぜーはーと息をしている。


 「これ以上駄目じゃ、アリーナたん♪もふもふさせて回復を!!」

 「はい、『気力回復魔法』です♪団おじい様用に開発しました♪」

 アリーナ王女に猛ダッシュを掛けようとしたじいちゃんにアリーナ王女が回復魔法をかける。


 「どうです?顔色がよくなられましたよね♪」

 「…………うん………残念ながら、回復したみたい………。」

 「じゃあ、おじい様、ガンバ!!」

 「…………………うん………………ガンバ…………。」

 ニコニコするアリーナ王女に見送られ、じいちゃんが泣きながら再び一〇メートルサイズのザップマンに変身し、光線を繰り出していく。



 「エミリーさま!じいちゃんのおかげで、戦線に余裕ができました!

 ライピョンさん用のエレキゴーレム・雷神ライジーンを作成してください!あのでかいゴーレムはそれくらいでないと倒せそうにないです!」

 「わかった、エレキゴーレム作成!!」

 エミリーが戦線から少し下がり、ゴーレム作成の魔法を唱えた。




 瓦礫の中から立ち上がった哪吒子を見て、俺たちは言葉を失った。

 哪吒子の身長が俺より少し高いくらいになり、ボン・キュ・ボンの見た目一八歳くらいのものすごい美女の姿になっている。


 だが、俺たちが言葉を失ったのは全身から発する激烈な闘気と、凄まじいくらい冷たい視線を見たからだ。

 手も二本からいつの間にか八本に増え、それぞれの手に剣や槍などいろいろな得物を構えている。


 「最終形態になるのはいつぶりかな?嬉しいな、君らとりあえて実にうれしい♪」

 嬉しそうに凄惨な笑みを浮かべる哪吒子を見て、俺たちだけでなく、ラスボスたちですら、表情が険しくなった。

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