第20話 迷宮都市 その3
俺たちは迷宮の入り口で冒険者のギルドバッジを見せ、第二層に入っていった。
「さて、今朝も話したと思うが、迷宮の浅い層でタツに実戦経験を積ませてはどうだろうか?
先ほどの街で攻防に使える魔法で強化された杖を仕入れておいた。
軽くて丈夫で使いやすいミスリル製の杖なのでタツにはこれをしばらく使ってもらえばいいと思う。」
言いながらライピョンさんが懐から長さ一メートルくらいの杖を取り出した。
…いつものことだけど、どこに収まっているんだろうね…。
未来の◎型ロボットのように◎次元収納とかがあるのだろうか…。
俺はライピョンさんから受け取った杖をしばし振り回してみる。
今まで訓練で使っていた木の棒よりも軽くて非常に取り扱いやすい。
ようし、なるべくみんなの足手まといにならないように頑張るぞ!!
入口から少し歩くと、明日香がナビでゴブリンの集団が歩いてくるのを見つけた。
ナビの詳細を見ると、全部で五匹いるらしい。
「よし、タツの初陣にちょうど良さそうだ。他は私が対応するから、先頭のゴブリンをタツが一対一で倒してくれるとありがたい。」
ライピョンさんが俺と並走して走っていった後、先頭のゴブリンをすり抜け、その他の四匹を足止めてしてる。
この世界で俺はゴブリンを初めて見るが、人間より一回り小さく緑色の肌の人間型の怪物になるのだそうだ。
知能は類人猿以上人間以下くらいの感じで簡単な武器や防具を使うようだ。
俺の目の前に入る奴も錆びた剣とぼろくなった皮の防具を着込んでいる。
ゴブリンは奇声を上げながら剣を振り回してくるが、ライピョンさんとの訓練で、かなり冷静に相手の動きが見える。
とは言え、初の実戦なので緊張してしまって、相手の攻撃を杖で受け止めるものの、力んでしまって俺の攻撃はなかなか当たらない。
二~三度打ち合った後、ゴブリンの剣が俺の頬をかすめるが、相手を吹っ飛ばすことに成功する。
よし、この調子で止めを…。
「きゃあああああああ!!!」
その時後ろから明日香の悲鳴が聞こえると同時に、後方から凄まじい闘気と殺気が爆発する。
そのあまりの殺気に俺が動きを止めた瞬間、後方から閃光がゴブリンに向かって飛来し、ゴブリンは蒸発した。
「よくも!!よくもお兄ちゃんに傷をつけたな!!!」
明日香の目が猛烈な怒りにつり上がっている。
「ゴブリンども殺す!!!」
…ええと…そのゴブリンは蒸発しました…。あと、残りの四匹はライピョンさんが瞬殺されてます…。
「迷宮の魔物は全て殺す!!!!!」
わーーーー!!!明日香、落ち着いて!!!
アリーナ王女がすぐに俺に癒し魔法を掛けてくれた後、みんなで明日香を何とかなだめて、数分後、なんとか明日香は落ち着いてくれた。
休憩時間に話し合った結果、明日香のいるところでは俺の実戦訓練をしないことに決まった。
かえって『いろんな意味で危険』だから…。
明日香、俺を大事に思ってくれるのは嬉しいのだけれど、『過保護』は良くないと思うんだ…。
俺の実戦訓練を行わないことになったので、途中の階では必要な事だけを行ってスピーディーに迷宮をクリアすることにした。
ライピョンさん、エミリー、シャリーの三人がモンスターや罠を力づくで叩き潰して、非常に順調に階層を下っていった。
アリーナ王女はみんなへの防御魔法とライピョンさんたちがかすり傷を負ったり、俺やじいちゃんが疲れた時に回復魔法を掛けてくれている。
じいちゃんと俺と哪吒子は完全な見学。
もっとも哪吒子は強い敵が出たらいつでも出られるように臨戦態勢でいたけれど…。
そして、明日香はナビで罠やモンスターに関する情報をみんなに伝えると同時に、魔法で情報収集を続けている。
そして……折に触れ、俺に防御魔法を掛けている気がするのだけれど…。
いやいや、ライピョンさんたちの活躍で、この辺までは全く攻撃がくる気配すらないよね?!
それにエミリーは一人で迷宮を攻略したことがあるんだよね?!
最下層まではエミリーたちだけでも全く問題なくいけるよね?!
「まあ、愛ですわね♪」
「わしもこれくらい愛してくれる『若い女性の連れ合い』が欲しい!」
アリーナ王女もじいちゃんも何を言ってるの?!
「ふーーん。その気になればこれくらい防御魔法のバリエーションがあるんだね♪」
哪吒子は涼しい顔で俺や明日香の方を見ながら言う。
「え?私がどんな魔法をかけたかわかるの?」
「完全にじゃあないけど、ある程度は。だからこそ、明日香姉ちゃんがどれくらいスゴイ魔法使いかわかるんだけどね♪
そうそう、今のタツに対してはライピョンさんの攻撃が通るかどうかすらわからないくらいだね。
よくまあ、ど素人のタツをここまで強化できるもんだよ。」
明日香の問いに哪吒子がニコニコしながら答えている。
「その感じだともしかして魔法もかなり使えるの?」
「まあね。バリエーションはそれほど多くないけど、エミリーと同じくらいの威力の魔法は使えると思ってもらえばいいさ。」
何気ない哪吒子の答えに俺たちは口をあんぐりと開ける。
「…でも、今まで一度も魔法を使ったことがないよね?」
「アリーナ、そうじゃないよ。攻撃魔法や回復魔法とかは使ってないけど、防御魔法、強化魔法はいくつか使っているからね。
今はぶった斬った方が早いからほとんど剣で斬って終わりだけど、魔法を使う敵と相手をする場合とかに備えて普段から四対一くらいの割合でで魔法にも力を入れているからね。
この迷宮の最後の敵以外が相手なら、魔法戦だけで楽勝で行けると思うぜ♪」
…哪吒子さん、そんなにチートだったんですか…。
「最後の『敵たち』はちょっと歯ごたえがありそうだから、俺と明日香姉ちゃんは力を温存しておいた方がいいかもな…。」
「…そうね…。ナビでも最下層の『ラスボスたち』の持つエネルギーはそれ以外の魔物たちとはけた違いだわね…。ラスボスには哪吒子は存分に力を発揮してもらう必要がありそうね。」
「明日香姉ちゃん、任せておきな♪ヤマタノキングヒドラとの戦いの時も出さなかった奥の手を出してやるよ♪」
明日香と哪吒子が嬉しそうに笑っている。
そして、途中の階で得た装備でエミリー、シャリー、アリーナ王女、そして一応僕の装備も充実させていよいよ最下層に到達した。
朝から始めたダンジョン制覇であるが、そろそろ夕方になろうかという時間だ。
「この階層の奥にラスボスがいる。…だが、明日香殿や哪吒子殿の言われるように最深部から感じる気配は今までとは桁が違うな…。
で、どうする?このままいくか?それとも一旦戻って体勢を整えるかい?」
エミリーがみんなを振り返って尋ねる。
「戻ろう。そろそろお腹すいたし。」
「そうね…。そろそろ汗でべとべとになって気持ちが悪いから、お風呂入りたいな。戻りましょう。」
「「「「「……。」」」」」
あまりにもあっけらかんとした返事をする哪吒子と明日香に、じいちゃん以外の全員が固まってしまう。
「そうじゃの。わしもめっちゃくたびれたし、帰ってモフモフせんといかんと思うんじゃ♪」
じいちゃんは迷宮探索に関しては何もしていないよね?!!アリーナ王女は要所要所でみんなに『気力・体力回復魔法』を掛けてくれていたから、見た目以上に貢献しているけど…。
…まあ、俺も何もできていないので、じいちゃんのことを言えないとは思うけど…。
「そうだな。帰ろう。万が一が起こらないようにしっかり休息を取って、万全の態勢で取り掛かった方がいい。」
明日香と哪吒子の表情から何かを読み取ったのか、ライピョンさんが真剣な表情で言う。
「じゃあ、ここに『転移装置』を置いておくから、明日の朝はここから迷宮攻略を再開できるようにしておくわね。」
明日香が懐から取り出した高さ一〇センチ程度のドアの形の模型を最下層の入り口の傍に設置する。
「二階層の入り口にもこれと同じものを設置しておいたから、今からそこへ戻るわ。明日は二階層の入り口から一気にここへ戻れるわ。」
言いながら明日香が呪文を唱えると、ドアの模型は普通のドアサイズになる。
明日香がドアを開けると、見覚えのある二階層の入り口の光景が見える。
俺たちが全員扉をくぐると、明日香が呪文を唱え、間もなくドアは模型サイズに戻った。
俺たちは迷宮を出ると、宿を探しに動いた。
「ギルドで一番お奨めの宿はこちらだね。」
俺たちはそこそこ立派な宿の前に立っている。
一見地味だが、建物の状態がよく、清潔感が漂っている。
中に入ると上品な中年の夫婦の経営する宿だった。
俺たちは空き部屋の都合上、二人部屋を四つ借りた。
部屋割りはいろいろ揉めたが、ライピョンさんとじいちゃん、エミリーとシャリー、アリーナ王女と哪吒子、そして俺と明日香になった。
揉めたのはじいちゃんと俺だ。
じいちゃんはアリーナ王女と同室を希望し、もちろん、全員で却下した。
俺は明日香と別室を希望し、全員に却下された。なぜだ?!!
結局ライピョンさんが俺の耳元でささやいた言葉に俺は反論できずに部屋割りが確定した。
「迷宮内で、明日香ちゃんがタツのことを『異様に心配している』ことはわかっているだろ?これで明日香ちゃんと別室にして、タツに万が一があったら『死者が出かねない』気がするんだ。」
うん、全く反論できません…。
俺の安眠以外は全て問題なしです。
先日の王宮で同室の時以上に『理性に自信が持てない』です。
神よ!我の理性に力を与えたまえ!!!
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