第3話 仲間は順調に増えてますが…
「ただいま戻りました。」
明日香がクラスメイトと共に元の世界に戻ってから約1時間後、ようやく明日香が戻ってきた。
やはり異世界と行き来する魔法は時間も手間もかかるものなのだね。
明日香が戻ってくるのを待つ間何もしないものもったいないと感じたので、アリーナ王女、イワノフ宮廷魔術師と共に僕のステータスや召喚能力についていろいろ調べていたのだ。
なお、俺の最初のステータスはレベル一〇の召喚勇者だったのが、ライピョンさんの活躍のおかげでレベル一二になっていた。
ステータスは精神力やマジックポイントが高いこと以外は普通の高校生よりましなくらいで、自分の身を守るために剣技や魔法などの訓練も行った方がいいのではとイワノフ師から助言を受けた。
下手な人を同行させると足手まといになりかねないので、勇者以外は旅に一緒に行かない方がいいだろうということになったのだ。
「明日香様、お帰りなさい。
お疲れではないですか?今日はお休みになられて旅は明日からになさった方がよろしくないでしょうか?」
戻ってきた明日香にアリーナ王女がにこやかに対応している。
アリーナ王女は癒し魔法の達人であるだけでなく、そのお人柄からも『聖女』と呼ばれ、国内外から尊敬されていると言うが、本当にうなずける。
「いえ、向こうで少し準備することがあったので、時間がかかっただけですから。必要事項をお伺いしたら私はいつでも出発できますよ。」
明日香もアリーナ王女に笑顔で対応されている。
…明日香の笑顔はいつ見てもいいなあ…。
と思っていたら、明日香の顔が急に険しくなった。一体何が?!
「大変です!!見張りの魔術師が発見したのですが、城外に凄まじい数の魔物が押し寄せています!!あと三〇分(こちらの時間に換算して)ほどで城壁にたどり着くと思われます!」
伝令の兵士の言葉に城内は騒然となった。
そして、僕と明日香、アリーナ王女、騎士団、魔法師団の主力メンバーが城の上から城外を確認する。
地平線の彼方からものすごい数の黒い影が城に走り寄ってきているのが見える。
「禍々しい気配がするわね。リーダーは魔術師ぽいけど、大軍は
いいわ!私が『魔道の勇者の力』を見てもらうためにもひとりで対応します。」
「し、しかし!あそこには千を遥かに超す数のアンデッド部隊がいます!いくら魔道の勇者でもお一人では…。」
宮廷魔術師のイワノフ師が明日香の提案に異を唱えるが…。
「ふっふっふ。任せてください。こんな事態も想定していろいろ準備をすすめてきたのですから。」
明日香はそういうと呪文を唱えた。
詠唱が終わると俺たちの前に半透明なスクリーン状のものが現れた。
「ここに戦いの様子が大きく映されますから、今からどういう戦略で動くべきかの参考にしてください。」
明日香は言い終わると、また呪文の詠唱を始め、背中から真っ白い天使のような翼が生えてきた。
「では、敵を殲滅してまいります。」
明日香は宙に舞いあがると、敵軍目指して飛翔を始めた。
~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~
明日香は飛びながらさらに呪文を詠唱する。
唱え終わると同時に眼前にモニターのようなものが現れ、また、明日香をガードするように半透明の盾がいくつも起動し、明日香と一緒に動いていく。
(マスター、周りに魔法と物理防御の盾を召喚されたのはわかりましたが、あなたの目の前に現れたモノはなんですか?)
小箱の中からレインボードラゴンが明日香に念話で問いかける。
(これは魔法戦闘サポートシステムなの。私は魔法自体にはかなり詳しくも、戦闘のエキスパートではないので、私の潜在意識とリンクしたシステムを組んで、その場その場で適切な魔法を提案してくれるわけ。)
(なるほど。このシステムで経験を積まれれば、明日香さまは戦闘スキルも習得されるというわけなのですね。)
明日香の説明にレインボードラゴンがうなずく。
明日香が敵軍に近づき、たがいの姿がかなりしっかり視認できるようになると、相手の司令官らしき魔術師が魔法で声を飛ばしてきた。
「貴様、かなりの魔術師のようだな。だが、我らには勝てん。お前さんは見逃してやるから。城を捨ててとっとと逃亡しろ。」
黒ずくめで顔を完全に隠している魔術師が言い放つ。
「あら、ずいぶんと自信がおありのようなのね。あなたは一体何者かしら?」
「わしは魔王軍六魔将が一、幻魔将ガイスト旗下三魔導師の一人、死霊術師ハイデスだ!ライガー殿旗下の三銃士の一人を撃退するとは、勇者も少しはやるようだが、このアンデッドの精鋭部隊の前にはさすがにどうにもなるまい。やはり数は力なのだよ!」
魔術師は自信たっぷりに断言している。
「そうね…。確かに物量(魔力量)は力だわね…。では、物量の威力を見てもらいましょうか?」
明日香はにやりと笑うと呪文の詠唱なしに自身の周りに大きな炎の柱を出現させた。
「む、それは第三階梯魔法『炎の嵐』か?!だが、その程度ではわが軍は…。」
ハイデスはそこまで言って目を見開いた。
炎の柱は一柱だけでなく、次々と明日香の周りに出現し、あっという間にその数を百を超えた。
「さて、汚いアンデッドは熱で消毒しないとね♪」
明日香がニコリと笑うと、百中以上の巨大な炎の塊はアンデッド部隊に殺到した。
炎が消えた時、アンデッド部隊は半壊していた。
「あらあら、ずいぶんと焼き残しが出たわね。特に騎士っぽい連中はまだ倒れていないのね。大きなゴキブリを駆除するにはもっと大きな炎が必要かしら?」
明日香がさらに笑うと、呪文の詠唱なしに先ほどの数倍の大きな炎の柱が出現した。しかも炎の色が真っ青である。
「そ…それは、第五階梯魔法『爆炎弾』か?!そんなものを無詠唱でとなえられるのか?!!だ、だが、霊体のアンデッドにはいくら炎が大きくても…。」
「んん?それがね。炎にちょっと『光の要素』を入れてあげると、霊体でもこんがりと焼くことができるんだ♪じゃあ、今から駆除しちゃいますから。」
明日香の涼しげな声を聞いて、ハイデスの顔が絶望に染まった。
(…せめて、敵の情報をガイスト様に…あ、終わった…。)
五〇発以上の真っ青な巨大な炎の柱が飛び交い、あたりはいくつものクレーターと、若干の焼け焦げが残っただけだった。
~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~
「信じられません!第三階梯魔法や第五階梯魔法をあんな威力で使える魔法使いがいるとは?!明日香さまは魔導師レベルで軽く三〇〇を超すに違いありません!!」
イワノフ師が明日香の魔法を見て仰天して叫んでいる。
うん、すご過ぎるね。僕のレベルが一二とかだから、何倍になるんだろうね。
イワノフ師がレベル五〇だから、国で最強の魔法使いよりもずっとずっと強いわけだし。
お兄ちゃん、あまりの実力差にちょっとだけ無力感に浸っちゃいそうです。
パッパカパッパッパー♪♪
明日香がこちらに戻り始めた時、また謎の効果音が響いた。
「おめでとうございます!!達則さんはレベルアップしました!今回も体を動かしていないので、身体系の能力は上がっていませんが、精神力、判断力と、召喚ポイントが向上しています。
いやあ、女性だけ働かせて、自分もちゃっかりレベルアップとはほとんどひもですね♪」
うるせえ!!余計なことをいわなくていいから!!
みんなもコメントに困っているじゃないか!!
「達則さんがいて下さったからこそ、明日香さんがおられるわけですから、決してひもだなんて思っていませんから!!」
アリーナ王女!その御発言はフォローになってませんから!
「それはともかく!どれくらいレベルアップしたか見てみましょう!」
うん、アリーナ王女!そうしましょう!
「おおっ!!レベルが一二から二二に一気に一〇レベルもアップしてますよ!!敵の数がものすごかったですから、一気にレベルアップしましたね!
召喚ポイントも八〇〇ポイントになってます!
それだけでなく、『召喚獣の勇者』の召喚ポイントが五〇ポイントから二〇ポイントに減ってます。やはり、召喚される側と距離が近くなると召喚ポイントが減るのですね。
あら、『癒しの勇者』が一五〇〇ポイントから一四〇〇ポイントにへってますね。
これはどういうことかしら。他の勇者の召喚ポイントはそのままなのに。
よくわからないけど、ポイントが減ること自体はいいことだわ。
ライピョンさんを常駐にした後は癒しの勇者を呼ぶとよさそうね。」
アリーナ王女が僕のステータスを確認してくれ、僕もその内容にうなずく。
「ただいま戻りました!」
間もなく、空から明日香が舞い降りてきた。
涼しい顔をしており、あまり消耗しているようには見えない。
「明日香、すごいじゃないか!大活躍だよ!」
「明日香さん!ありがとうございます!王国滅亡の危機をあなたに救っていただきました!なんとお礼を言っていいものか…。」
「「「明日香さま、ありがとうございます!!!」」」
戻ってきた明日香に僕やアリーナ王女、魔導師、騎士団の人達が次々に労りの言葉を発する。
「皆さんが応援していただけていると思ったら、頑張って実力以上の力が出せたようです。こちらこそ、応援ありがとうございます。」
明日香が照れ臭そうにみんなに笑顔で応じると、アリーナ王女や魔術団、騎士団の人達も破顔して喜んでいる。
僕も明日香のことを誇りに思えてきたよ。
「明日香様、お帰りなさい。
お疲れではないですか?今日はお休みになられて旅は明日からになさった方がよろしくないでしょうか?」
戻ってきた明日香にアリーナ王女がにこやかに対応している。
「ええ、さすがに少し疲れたようです。お兄ちゃんに見てもらいながら少し休めればうれしいです。」
えええ?!見てもらいながら??!!!
少しきょとっとされていたアリーナ王女がすぐににんまりと笑顔になられた。
「そうですね!人見知りをされると伺ってますから、『安心できる幼馴染』の達則さんとご一緒の方がゆっくりお休みできますよね♪」
アリーナ王女!なにを煽っておられるのですか!!
「そうだわ!明日香さんたちが休んでおられるときに魔王軍が攻めてきても安心なように『召喚獣の勇者』様を呼び出して、常駐にしておいていただけますか?」
アリーナ王女の言葉に明日香がえ?とちょっとこわばる。
ああ、召喚獣とか聞いてどんな怪物が出てくるか心配なのだね。
「明日香、大丈夫だよ。ほら、ライピョンさんはウサギの召喚獣で、信頼できる人だから。じゃあ、召喚するね。」
ウサギのSDキャラを確認して明日香がほっとしたところで、ライピョンさんを意識して『召喚』と頭の中で叫ぶ。
同時に僕の前で光った人影が出現すると、人影は宙返りして、ふわりと僕たちの前に舞い降りた。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!!魔王を倒せと私を呼ぶ!!召喚勇者ライピョン、ただいま参上!!」
気のせいか、さらにイケメン度がアップしているライピョンさんが決めポーズを取っている。周りのみんな、特に明日香は完全に固まってしまっている。
「達則、また君の仲間を思う熱い思いが私を呼び出してくれた!それで…今回は近くには敵はいないようだが、どういう要件なんだい?
ところで、君とは『親友になった』ことだし、君のことをタツと呼んでいいただろうか? あ、私のことはライと呼んでくれていい♪」
ふぁあああああ!!!!ライピョンさんが、とんでもないことを言い出したんだけど!!
「…もちろん、タツと呼んでもらって構わないさ、ライ♪
ちなみに、今回呼んだのは新しく呼んだ勇者が戦いで疲労しているので、背後を守れる勇者、つまり君を呼びたかったんだ。」
「そうか、タツ!信頼してくれてありがとう!!」
ライピョンさんは耳をひょこひょこ動かしながらイケメンな笑顔で答えてくれる。
「ライピョンさんが戻られた後、またもや魔王軍が攻めてきたのですが、その際にこちらの『達則さんの幼馴染』の魔道の勇者・明日香さんが魔王軍を撃退してくれたのです。」
ねえ、アリーナ王女!なんで、幼馴染を強調するの?!!
「そうか、タツの『とっても可愛らしい』幼馴染は魔道の勇者でもあるんだね。素晴らしいじゃないか!」
ライピョンさん!!何を可愛らしいを思い切り強調しているの?!!
まあ、明日香が嬉しそうに照れているから、ライピョンさんに対する警戒は解けたようで、よかったけど…。
「では、『お二人で』ごゆっくりおくつろぎくださいね。
お部屋にはお風呂もついておりますし、夕食の準備ができてお呼びするまで『誰も入れない』ようにしておきますから♪」
アリーナ王女!!何を嬉しそうにいろんなことを強調しているの?!!
俺と明日香はカチコチになりながら、侍女さんに案内されて部屋に入っていった。
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