第2話 魔道の勇者
パッパカパッパッパー♪♪
ライピョンさんが姿を消した後、俺の周りに謎の効果音が響いた。
「おめでとうございます!!達則さんはレベルアップしました!体を動かしていないので、身体系の能力は上がっていませんが、精神力、判断力と、召喚ポイントが向上しています。」
なぜか、機械ぽい女性の声のナビゲーションが聞こえてくる。
「達則さん!スゴイです!!あなたのおかげで王国は大きな危機から救われました!
…それと、召喚ポイントが上がったのでしたら、確認してみませんか?」
アリーナ姫がニコニコしながら俺に語りかける。
精神力、判断力がそれなりに上がったほか、使い切ったはずの召喚ポイントが二〇〇ポイントになっている。
これで、いざとなったら、またライピョンさんを召喚できるので、少し安心する。
そして、気になっていた魔道の勇者の召喚ポイントが……ええええええ?!!!!いつの間にか三〇ポイントに激減しているんだけど?!!
ん?気のせいか魔道の勇者のSDキャラが一生懸命魔法を唱えているように見えるんだけど…。目の錯覚かな?
「達則さん!魔道の勇者の召喚ポイントが大きく下がっているじゃないですか!!
ライピョンさんより少なくなっているのですから、せっかくですから召喚してみましょう。」
俺はアリーナ王女の勧めに従って、魔道の勇者をイメージして、『召喚!』と心の中で叫ぶ。
先ほどと同じようにまばゆいばかりの光が俺の前に姿を現し、光が消えると同時に人影が見えてきた。
とんがり帽子にローブをまとったその女性はすごく驚いた顔で俺を見た後、涙を流しながら俺に駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん!心配したんだから!!」
えええええ???!!!!どうして魔道の勇者を召喚したら、明日香が現れるの??!!
しかも、抱き付かれるといろいろな意味でやばいから!!!
「……あの、魔道の勇者様と達則様はお知り合いなのですか?」
アリーナ王女が半ば呆然と俺たちを見ている。
「はい、幼馴染で兄のように私の面倒をいろいろ見てくれて来たのです。」
明日香がアリーナ王女に微笑みながら返事をする。
「そうですか、それは良かったです。お二人がすごく仲良さそうですから、いろいろな意味で頼りになりそうですね。」
アリーナ王女はニヤニヤしながら俺たちを見ている。
王女!何か誤解が入っているよ?!
「明日香、ちょっと状況を説明させてもらうよ。」
気まずい雰囲気を何とかすべく、俺は明日香に話をすることで方向転換を図った。
今までの経緯となぜか明日香が魔道の勇者と認定されていることを説明すると、明日香は何とか納得してれた。
「じゃあ、きっと召喚されたから魔法使いとしてのチート技能が身に付いたんだね。よかった。これでお兄ちゃんの役に立てそうだね。」
言いながら明日香は自分のステータスを色々確認している。
そして、俺のステータスも確認した時、なにかに気付いたようだ。
「今のままだと、私は召喚された後、一定時間で元の世界に戻されてしまうようだから、固定してこの世界にいられるように魔法で細工をするね。」
「そんなことが可能なのか?」
「うん、いろいろ調べたらわかったの。これで何があってもお兄ちゃんを守れるから!」
明日香、待ってくれ!そんな俺を誤解させるような発言はやめてくれ!
明日香が呪文を唱えると、俺と明日香が光に包まれて、ふっと体が軽くなった。
「ほら、ステータスを確認してみて。私が常住、つまりもう召喚しなくていいようになっているから。」
確認すると、確かに明日香の言うように『魔道の勇者』のステータスが常住(召喚不要)に変化している。
強力な魔法使いである明日香がずっといてくれることは戦力的にもずいぶん助かりそうだ。でも、それ以上に世界を救って元の世界に帰りたい動機のかなりの部分を明日香が占めていたわけで、その意味でもものすごく安心だ。
「達則、幼馴染の超美人と一緒に旅をするとか、お前だけすごくずるくないか?」
ゲーム仲間の長谷部がジト目で俺を見ながら言った。こいつは基本いいやつなんだが、眼鏡の小太りでオタク臭が強いせいか、俺同様『年齢=彼女いない歴』で、『童貞同好会』を作ろうとか言っていたからな…。
勘違いするな、明日香は残念なことに本当に単なる幼馴染なんだ!…えっと、長谷部はまだましな方で、速水や他の男子の視線は明らかに俺を敵視する視線だよな…。
なんとか誤解を解かないと…。
「今、自分のステータスを見ていて気付いたのですが、うまく魔法を使えば、お兄ちゃん以外のみんなをもとの世界に戻せますよ。
みなさんには安全になっていただいた方がお兄ちゃんも心置きなく任務の遂行ができますよね。」
明日香の言葉にアリーナ王女たち王室関係者やクラスの女性陣が大きくどよめく。
男性陣はまだ俺を睨んでいるのだけれど…。
「そうですか!それは助かります!私の未熟な技術では皆様をもとの世界に送還するのに時間と準備がかなりかかりますので、そうしていただけると本当にありがたいです!」
アリーナ王女が明日香の提案を喜んで受け入れてくれた。
「それでは早速送還魔法を使いますね。私がみんなと一緒に転移して、それから向こうからもう一度こちらに戻ってきます。
向こうで少し準備が必要ですので、王城に戻ってくるまでは少し時間がかかりますね。」
明日香がクラスメイト達を床に描いた召喚陣の上に集め、自分のその上に乗る。
そして、明日香の呪文の詠唱と共に召喚陣周辺が光に包まれる。
光が消えた時は明日香を始め、クラスメートたちの姿は消えていた。
~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~
クラスメートたちが教室に戻ると、三十代の男性の担任教師の木更津が仰天している姿が見えた。
「お前ら、一体どうなってるんだ?!!」
全員居なくなっている教室を見て驚いていたところを消えていた生徒たちが姿を現して、さらにビックリしたようだ。
「言っても信じてもらえないでしょうが、俺たちは…。」
速水はそこまで言って気付いた。
一緒にいたはずの明日香の姿がどこにもなかったのだ。
(ふっふっふっふ、うまくいきました♪)
明日香は自宅に戻って、『あるもの』を召喚しようとしていた。
(お兄ちゃんに色目を使いかねない女生徒たちや、お兄ちゃんへ変な視線を向ける男子生徒達を『お兄ちゃんに喜ばれる理由』で隔離することが出来ました。
次は『アレ』を召喚して、向こうでのお兄ちゃんの任務遂行のお手伝いやいろいろな工作をできるようにしておかないと…)
明日香は体育館ほどの大きさの地下室に描かれた巨大魔方陣にさらに魔力を集中させた。
まもなく、凄まじい魔力の奔流と共に天井に近いくらいの高さの七色に光る巨竜が姿を現した。
禍々しさよりスマートで均整のとれた非常に美しさを感じる姿の巨竜は明日香に向かって丁寧に頭を下げる。
知性を感じさせる視線は明日香に対して尊敬の念を示している。
「レインボードラゴン・バハムート!我が命に従い、動いてくれますね。」
「もちろんでございます。代々の命とあなた様個人への忠誠心をしめす機会が訪れたことを光栄に思います。」
「それでは、バハムート、少し窮屈だと思いますが、この中に…。」
明日香が懐から取り出した小さな箱を開けようとした時、背後の気配に気づいて振り向いた。
「『大魔女』どの!!これは一体どういうことだ!!世界すら掌握できる神話クラスの巨竜を使って一体何をされるおつもりか?!!」
背中に白い翼を生やし、頭上に金色のわっかを浮かせた戦士風の姿の男たちが明日香を睨んでいる。
「あらあら、大天使ラジエル様と天界の戦士様方が一体私になんのご用でしょうか?」
明日香は涼しい笑顔で天使たちに語りかける。
「とぼけないでいただきたい!世界最高の魔法使い『大魔女』が地球の危機に備えて代々切り札として隠し持ってきたレインボードラゴンを何もない現状でなぜ召喚なさるのですか?!それも歴代最強の大魔女であるあなたが!!」
ラジエルと言われたリーダー格の天使が明日香を厳しい表情で詰問する。
「ちょっと異世界で必要になったから呼び出したのです。この世界の人達を傷つけたり、騒ぎを起こすつもりは一切ありませんわ。」
「しかし、悪用すれば世界をも手に入れられるくらいの強大な力を持つレインボードラゴンがどうして必要なのです!」
「ええ、私が召喚された世界が滅亡の危機にあるから、こうして連れて行こうというのです。そもそも私は世界とか地位・名誉・財産とかには全然興味がないもので。
私が嘘をついているように感じられますか?」
明日香がにっこり笑って答えるとラジエルは返事に窮した。
確かに自身の神通力でも明日香が嘘をついていないことが分かった。
そして、もし、無理やり止めようとしてもあっという間に振り切られてしまうくらいの実力の差がはっきりと感じられる。
ここは『大魔女』の言葉を信じて自分達は下がるしかない…ラジエルはそう判断する。
「わかりました。あなたは世界を平穏に運行するためにとても大切な方だ。ご無理をなさらないようお願いします。」
「ありがとう。では、用事を済ませに行ってきますね。」
退出していくラジエルを笑顔で見送ると、明日香はレインボードラゴンに魔法をかけ、その姿が七色の光に変わると、手元の箱の中に吸い込まれていった。
(そう、私は世界とか、地位とかそんなものはどうでもいいの。私が欲しいものはただ一つ!いえ、たった一人というべきかしら。)
異世界へ戻る魔法を詠唱しながら明日香は今まで達則と過ごした時のことを思い出していた。
~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~
最初に達則に会ったのは達則の一家が隣の家に越してきた時だった。
世界最高の魔法使い『大魔女』の祖母に小さなころから魔法の手ほどきを受けていた明日香は同年代の子供とは完全に隔離されるて生活していた。
下手に交流させてボロを出してしまっては明日香の身が危険になるからだった。
そんな明日香が八歳の時に、隣に引っ越してきた達則と鉢合わせしたわけだが、達則はやさしく、必要以上に他人の居場所に踏み込まない性格だとわかったので、祖母も達則とは交流することを許してくれた。
人間関係を学ぶ上での友達の大切さは祖母もわかっていたのだった。
厳しいながらも優しい祖母はしかし、一年前に急死した。
異界から魔神がこの世界に侵入しようとしたのを一人で食い止めたのだった。
魔神と一緒に消滅することで…。
一応免許皆伝にはなっていたものの、たった一人の肉親で信頼する師匠を失った明日香は抜け殻寸前になった。
それを達則やその両親が懸命に支えてくれた。
三人の優しい気づかいに明日香は何とか自分を取り戻すことができた。
そして、明日香は気付いた。達則を兄のように慕っていたのではなく、一人の男性として大好きだということを。
その後、いろいろなアプローチを掛けたが、達則は一切乗ってこなかった。
細身の自分は女性的な魅力に欠けるのだろうかと、ネットでいろいろな情報を調べて、工夫してみたが、まるで効果が見られなかった。
これ以上何を工夫すればいいのだろうと頭を悩ませていた時、達則が召喚されるという事件が起きたのだった。
最初に事態を把握した時は大いに焦ったが、まもなくものすごいチャンスだと気づいた。
ネットで『吊り橋効果』なるものがあることを調べていた明日香は『吊り橋に一緒に乗る機会』をこの旅でいろいろ作れることに気付いたのだ。
だから、自分が達則の下へ行こうと種々の魔法を試したことが『魔道の勇者』の召喚ポイントを下げていることに気付いた時、明日香は狂喜した。
(私がお兄ちゃんを手に入れるための障害は全て排除します!そのためにレインボードラゴンを連れてきたのだから。)
異世界へ渡る呪文が完成すると明日香はにっこり笑ってその姿を消した。
続く
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