アベコベ花

ま行

アベコベ花

男は遠くを眺めて気重に喋る。

人間が嫌いだ。

花の咲く様はいい。

美しく咲く花たちは見目麗しい。

嘘が嫌いだ。

人間が群れれば嘘で固まる。

貶めあいながらちっぽけなプライドを守りぶるぶると震えている。

人間が嫌いだ。

そこに咲くだけで美しい花が好きだ。


女は返す。

花が嫌い。

咲いている様は美しいのに根っこでは養分の取り合いだ。

生きるために他を蹴落とす様が嫌い。

地表に見える美しい花が地中でも美しいとは限らない。

嘘をつかれてるみたいで嫌い。

美しい様しか見せない。

花が嫌い。


ならお前が好きなモノはなんだ?

男は苛立ちを隠さずに聞く。

女は答える人間が好き。


人間はとても正直に生きてるから好き。

欲望に忠実で好き。

自分を守るために手段を選ばないのが好き。

憎しみあい嫉みあいでも愛しあう。

どんな綺麗な花も敵わない。

人間にしか作れない素敵な繋がりが好き。


変な事を考えるやつだ。

手元を弄る男が答える。


花の美しさには嘘がない。

咲くだけで美しく感じさせてくれるのは花だけだ。

美しさが嘘くさいのは人間だけだ。

素直になれるのは花だけだ。


寂しいこと考える人ね。

丁度いい高さの台に腰掛け女は呟く。

しかしそれを聞いた男は満足そうに微笑み言う。

こんな俺でも美しい人は知っている。

あら興味深いわね。

女は話を促す。


その人はいじめに泣いていた。

陰湿ないじめだ。

仲良くしていた友達は裏でその人の悪口で盛り上がった。

始まりは大した悪口でもなかったのにエスカレートして膨れ上がっていった。

やがてその人の居場所は無くなった。

そして俺は初めてその人に会った。

泣いている理由が「それでも皆が好きだった」と教えてくれた。

とても

とても美しい人だと思った。


男は話の終わりに丈夫な木に固く縄を結んだ。

女は腰掛けていた台を持って話始める。


私も綺麗な花を見つけたわ。

他の花を騙して養分を吸って生きてきたんですって。

可笑しいわよね。

ある時当たり前のように養分にしていた花を見つめたら急に寂しくなったんですって。

他の花は咲いてるだけで美しく感じるのに養分を騙しとっていた自分だけとても薄汚れて見えたんですって。

私そう感じる事ができた花がとても美しく思えた。


男と女は満足そうに話終え。

お互い踏み台に立つと首に縄を掛け合った。

「なんだか指輪交換みたいだね」

男は笑った。

「あらロマンチックね」

女も笑った。


二人は愛を誓いあう。

最後に会えた美しい君に。

最後に見つけた素晴らしいあなたに。

永遠の愛を。


きっともっといい終わりもある。

逆にもっと最悪の終わりだってある。

ただそこに咲いている花は知っていた。

二人の幸せそうな笑顔を。

いつまでも。

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アベコベ花 ま行 @momoch55

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