第78話 非常時のキスはノーカウント
ゾンビ兵に紛れながらアイリスに攻撃を仕掛けるラケル。
ゾンビ兵に対してはロッドで対抗していたが、ラケルの重い攻撃はロッドでは受けきれないので、その都度盾に変化させてしのいでいるアイリス。
「母様! 今ならまだ謝れば許してもらえるのよ!」
「早く自習するの〜」
「自首するのよ!」
「実の娘達に1番疑われてるってどういう事ですか〜‼︎」
そんなベールの嫌疑を猫師匠が晴らす。
「あれはカオスニャ」
「え、カオス⁉︎」
「カオスは魂の抜けた死体に憑依して自分の肉体として操る事が出来るニャ。だから中身の無かったラケルの肉体を乗っ取ったニャ」
「そ、そうだったんですね⁉︎ 疑ってごめんなさいベールさん!」
「ゴメン……悪かったわ……」
「いえ、分かって頂けたのならいいんですよ」
「絶対何かの間違いだと思ってたのよ!」
「新人デビューしたの〜」
「信じてたのよ!」
「あなた達が1番疑ってたでしょおお⁉︎」
ラケルにカオスが憑依している事はアイリスも気付いていた。
「なるほど……人質、のつもりですか?」
「例え召喚獣や幻術だと分かっていても、仲間を攻撃出来ない。それが君の弱点だからね!」
「ええ〜! 何言ってるんですか〜⁉︎ 私の弱点は無意識に目覚ましを止めてしまう事ですよ?」
「そういえばよく遅刻してたなっ‼︎」
そしてまたお馴染みの、メルクの質問タイムが始まる。
「あ、でもカオスの魂がラケルさんに憑依しているのなら、元のカオスの肉体はどこにあるんでしょうか? 魂が抜けてるなら動けない筈では?」
「おそらくどこか別の次元か空間に隠してるニャ」
「異次元、ですか……」
「それにしてもユー……アイリスさんは、何でラケルを攻撃しないのよ⁉︎ カオスの魂が入ってるなら、前みたいに魔法無効化の結界を仕掛ければ追い出せるんじゃないの⁉︎」
「そんな物をかけたら、召喚獣であるラケルも消滅してしまうニャ」
「いや、別にいいじゃないの⁉︎ 召喚獣なんだから、また召喚すればいいだけの事でしょ?」
「あたしもそう思うけど、アイリス姉様は例え召喚獣だろうとも、この世に産まれたものは全て同じ命として考える方ニャ。その姉様が、ましてや人の姿をしたラケルを消滅させるなんて事は絶対にしないニャ。カオスもそれが分かってるからああいう戦法をとってるニャ」
「正に聖女様ですぅ。益々パティちゃんとの相性最悪ですぅ」
「それどういう意味よおお‼︎」
セラの頭を拳でグリグリするパティ。
「こういう意味ですうぅ‼︎」
ゾンビ兵の攻撃の隙を狙って、アイリスにハンマーを振り下ろすラケル。
「さあ、どうしたのさ? 僕に結界を仕掛けてみなよ‼︎ その瞬間この肉体も消滅するけどね!」
「ではそうさせていただきます」
「え⁉︎」
ラケルのハンマーをスッとかわしたアイリスが、ラケルの眼前数センチの距離に顔を近付ける。
「な、何をっ⁉︎」
ラケルが距離を取ろうとした時、グッとラケルを抱き寄せて口と口を合わせるアイリス。
「んぐうううっ⁉︎」
「んなああああああああああ〜っ⁉︎」
その光景を目の当たりにしたパティが、言葉にならない言葉を発していた。
「なやのあたらいしだてらおなよあだまゆきこなにぃぃ‼︎」
「何意味不明な事言ってるんですかパティちゃん。魔界と交信してるんですかぁ?」
「あこいいもぉぉ‼︎」
パティのアイアンクローがセラの頭に食い込んでいた。
「痛たたっ‼︎ 痛っ! 痛いですぅぅ‼︎ いつもの3倍は痛いですうぅ‼︎」
アイリスにまさかのキスをされたラケルは、言葉通り魂が抜けたようにだらんと全身の力が抜けて意識を失う。
「ベールさん‼︎」
「あ、ハイ‼︎」
ベールにアイコンタクトを送るアイリス。
アイリスの意図をすぐに理解したベールが、すぐさま意識を飛ばしてラケルの肉体を取り戻す。
「ラケルちゃん! すぐに離れて!」
「うん! ありがと!」
ラケルが離れて行く間に背中の翼から数枚の羽を飛ばし、前方の地面に撃ち込んで魔方陣を描くアイリス。
「マジックイレーズ‼︎」
ラケルが魔方陣の外に出たと同時に、魔法無効化の結界を発動させるアイリス。
すると、何も無かった前方の空間にいきなり倒れた状態のカオスが現れる。
「カオス⁉︎」
「あれって魔法無効化の結界ですよね⁉︎」
「カオスの奴、やっぱり別次元に隠れていたニャ」
しかしカオスは横たわったまま身動きひとつしなかった。
それを見たアイリスがニヤリと笑う。
「チャ〜ンス!」
すぐに近付いて行き、ロッドを大きく振りかぶって倒れたままのカオスの頭を殴りつける。
その直後に目を開いたカオスが、頭を押さえながらのたうち回る。
「いってええええええええ〜‼︎」
「カオスの魂が戻った⁉︎」
「アイリスてめぇ! 無防備な相手を思いきり殴り付けるとは、なんて酷い事しやがるっ‼︎」
「確かに今のは酷いですね……」
「ま、まあ、必要な時は非情になれるのもアイリス姉様の魅力ニャ」
「あなたが体をそんなとこに置いておくのが悪いんでしょ?」
「チッ! まあいい」
「いいんだ?」
「それはそうとてめぇ、召喚獣の中だけに結界を張りやがったな⁉︎」
「ラケルちゃんを傷付けたく無かったですからね。中のあんこだけ吸い出せないかなって思ったんですよ」
「人をたい焼きみたいにゆ〜な!」
「なるほどぉ。外から結界を張っちゃうとラケルちゃんも消してしまうからぁ、口から直接魔力を流し込んで中のカオスにだけ影響するようにした訳ですねぇ。分かり易く言えばプラモデル工場みたいなものですぅ」
「いや、分かりにくいわ!」
セラの説明を聞いても、未だに放心状態のパティ。
「ユーキが……キス……あたしが、何重にも拘束して無理矢理奪うつもりだった……ユーキの……ファーストキス、を……」
「さらっと怖い事言ってますねぇ」
そんなパティの様子を見かねたベールがフォローを入れる。
「だ、大丈夫ですよパティちゃん! ラケルは召喚獣だし今回は非常時ですから、キスにはカウントされませんよ。それにね? ラケルって実は女の子なんですよ⁉︎」
「え⁉︎ ラケルさんって確か男って言ってなかったですか?」
「女の子だって言うと何かと危険ですから、男って事にしてたんですよ。ああ、決してあなた方が信用出来なかったとか、余りに可愛い過ぎて襲われちゃうんじゃないかなとか、そんな事はこれっぽ〜っちも思ってなかったですからね⁉︎」
「ああ〜、僕達をそんな風に思ってたんですね……」
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