第68話 懐かぬなら、懐かせてみせようロリ少女

 ウーノがロリコンである事を認めた頃、新たなロリっ娘カール。

 最早フードが完全にめくれ上がっている事も気にせず、パティの禍々しいオーラに怯えながら必死に抵抗していた。


「ブラックホール‼︎」


 パティの闇のオーラを吸収すべく魔法を発動するカールだったが、どれ程吸収されようとも全く動じる事なく、ゆっくりとカールに近付くパティ。


「そのゆっくり近付いて来るのやめてよねっ‼︎ 怖いからっ‼︎」

(そ、それにしても、何であんなに魔力を吸収されて平然としてられるのよ⁉︎ この空間のせい? だけどこの空間を解除したら、益々私の勝ち目が無くなるし……)

 

「グラビティ‼︎」


 重力魔法でパティの動きを止めようとするが、何事も無いように普通に歩いて来るパティ。


「嘘でしょ⁉︎ さっきは動きを止めたのに⁉︎ なんなのよあなた⁉︎ いくらカオス様の身内だからって、ここまでの魔力を持ってるなんて聞いてないわよ!」


 依然としてゆっくりとした動きのパティ。


「このおっ‼︎」


 スッと闇に溶け込むように消えたカールがいきなりパティの背後に現れ、物音を立てずにパティに斬りかかる。

 しかしパティは、背後を振り向く事なく正面を見たまま素手でカールの斧を受け止める。


「ウソおっ⁉︎」


 掴んだ斧をグイッと引っ張り、カールが近付いた所で再び悶絶ボディブローをくらわせるパティ。


「ぶふううっ‼︎ お、同じ所……」


 そのまま片腕でカールごと斧を投げ飛ばすパティ。


「あぐっ‼︎ ううううう〜‼︎」


 しばらくの間、腹を押さえながらのたうっていたカールだったが、斧を支えにしながら何とか立ち上がる。


「な、何で私の攻撃が分かったの?」

「写真よ」

「写真? 写真ってユーキ王の?」


「そうよ。あたしは当初、この空間は局所的な物だと思った。だから城の壁を探してあちこち走り回った。その時あんたはあたしが随分走ったにもかかわらずいきなり目の前に現れた。始めあたしは高速移動か、アイ君みたいに幻術を使った何かだと思った。だからあたしはある実験をした」


「実験?」


「あんたに腹を斬られたと見せかけてばら撒いた、あたしの命とも言えるユーキの写真! あの後逃げた時に、何枚かの写真を幻術で隠して地面に置いて行ったのよ! 断腸の思いでねっ‼︎」

「そ、それがどうして私の攻撃を防げた事に繋がるのよ⁉︎」


「あんたは自分の能力だから違和感に気付かなかったみたいだけど、あんたが本当に移動していたのなら、その移動先に写真が落ちてる筈ないのよっ‼︎」

「うぐっ!」


 しまったという表情のカール。


「つまりあんたの能力は、この暗黒空間の中を自分の好きなように繋げられる、みたいな事でしょ⁉︎ だからあんたが高速移動したんじゃなくて、ループしたあたしが逆方向からあんたに向かって走ってただけなのよ‼︎ それを応用すれば、いきなりあたしの背後に現れる事だって可能って訳よね⁉︎」


「フ、フフッ、正解よ。そう、私は空間を繋げて、ただあなたが来るのを待っていただけ。でもそれが分かった所で私が魔法を解除しない限り、あなたはこの空間から出る事は出来ないわ!」


「この空間? ああ、こんな物……」


 片膝をついて、右手を大きく振りかぶるパティ。


「グレイヴマーカー‼︎」


 思いっきり床を殴りつけた瞬間、パティの右拳に十字架が浮かび上がり、周りの暗黒空間が全て消し飛び元の王宮に戻る。


「ウソおおおおおおんっ‼︎」

「パティ君⁉︎」

「パティさん⁉︎」


 パティ達が戻ったそこには、戦いを終えて城に戻っていたブレン、メルク、そしてアイバーンを抱えた猫師匠が居た。


「あんた達⁉︎」

「ビックリしたあ〜っ! いきなり現れるんじゃない!」

「パティさん! 一体どこに居たんですか⁉︎」


「おそらくは、別次元にでも行っていたニャ⁉︎」

「異次元⁉︎」

「そいつの仕業でニャ!」


 猫師匠がカールを指差す。


「そうよ。あたしはそのガキ、ナンバーキングの能力で変な空間に居たのよ」

「ナンバーキング⁉︎」

「こんな幼い娘が⁉︎」


「手を貸します! パティさん!」

「必要無いわ!」

「え⁉︎ でも相手はキングなんですよね? ジャックと戦ったアイバーン様も瀕死の重傷を負ったのに⁉︎」


「ほっとくニャ、ミルク!」

「メルクです!」

「今のパティなら、カオスが相手でもいい勝負するニャ」

「た、確かにパティさんから只ならぬ気配を感じますが……」

「巻き添えを食いたくなかったら、大人しく見てるニャ、コルク」

「メルクですっ‼︎」


「そんな訳で安心なさい! あんたの相手はこのあたしだけよ! もっとも、あたしはガキを虐める趣味は無いのよね」

「え⁉︎ よくパティさんに泣かされてるネムちゃんを見ますけど⁉︎」

「あれはあの娘がしつこくあたしをイジって来るからよ‼︎」


「あたしもよく殴られるニャ。師匠なのに……」

「ま、まあシャル様の場合も自業自得ですから」


「泣いて謝って一生あたしに服従するって誓うなら、許してやらない事もないわよ?」

「バ、バカにしないで‼︎ 仮にも私はナンバーキングを任されてるのよ! それがろくに戦いもしないで降伏するなんてあり得ないわ‼︎」


「そう……その志は立派だけど残念だわ。なら強制的に服従させるしかないようね」

「くっ!」


 魔力を高めながら、静かに語り出すパティ。


「ねえあなた。ノインとリマが何であたし達の所に居るか知ってる?」

「あ、あなた達が何らかの方法で洗脳したんでしょ⁉︎」


「そう、セラの魔法によってね。セラに懐いたノインを見て思ったわ〜。あたしもその魔法を使えばユーキに懐いてもらえるって……」

「まあ、気持ちは分からなくは無いがな」


「だけどあたしには無理だった……セラ程の光魔法を使う事は出来なかった……」

「当然ニャ。パティが治癒魔法を使う事自体、本来なら自殺行為ニャ」


「でも、諦めきれなかったあたしは考えたのよね。治癒魔法がダメなら、あたしに合った方法でユーキを洗脳してやろうって」

「パティさん今、洗脳って言いましたよね⁉︎」


「ユーキを落とす為だけに編み出したこの魔法! あんたにはその実験台になってもらうわ!」

「あなたやっぱり、正真正銘闇属性よねっ‼︎」


 そして詠唱を始めるパティ。


『穢れなく美しき者よ、優しき心もつ神の子よ』


「詠唱自体はまともだな?」


『万物を愛し、万物に愛される者よ』


「ただ大人しくやられるもんですか! パルヴァライゼーション‼︎」


 パティに向けて無数の闇の魔法弾を放つが、その全ての魔法弾はパティに触れる前に弾け飛んで行く。


「そんな⁉︎」


『強く気高く、無垢なる乙女』


「乙女って、ユーキさんの事を言ってるんでしょうか?」


『今、その光の衣を脱ぎ捨て、あらゆるわだかまりをかなぐり捨て』


「何だか詠唱が変な感じになって来たぞ?」


『このパトリシアウィードの前に堕天せよ』


「発動する⁉︎」


『エンジェルフォール‼︎』


 パティより噴き上がった闇のオーラがカールを包み込む。


「キャアアアアアア‼︎」


 そのオーラの圧力により、まるでパティに土下座するような格好になるカール。


「ま、負けない‼︎ 私はキングなんだから‼︎ 絶対あんたに服従なんてしないんだからあああ‼︎」

「うるさいわね。ひれ伏しなさい!」


 パティが指を下に向けると、完全に闇に飲み込まれるカール。


「ああああああ‼︎」


 そして静寂が訪れたそこには、跪き、パティの手の甲にキスをするカールの姿があった。


「我が主パティ様。この命はパティ様の為にのみ存在します。どうぞご自由にお使いください」

「ほ、本当に服従させてしまった⁉︎」

「でも、ノインさん達とはちょっと感じが違いますよ?」


 そんなカールを見て、不服そうなパティ。


「う〜ん、な〜んかあたしの望んでたのとは違うのよね〜。もっとこう、お姉様〜! みたいなのを期待してたんだけど……初めて使ったからイメージ間違えたかしら?」


 チラッとメルク達の方を見るパティ。

 ビクッとなるメルク達。


「メルく〜ん。ちょっと協力してくれる〜?」

「イ、イヤですよ‼︎ やるならブレン様にやってください‼︎」

「うおぃ、メルク‼︎ お前、上官を売るのか⁉︎」


「大丈夫よぉ。後でセラに解除してもらえるから……多分」

「多分って言いましたよね⁉︎ そんな不確かな情報じゃ絶対イヤですうう‼︎」



 サーティーンナンバーズ、ナンバーキング、カール撃破。

 これでいよいよ、残るナンバーズはあとひとりとなる。



「メルく〜ん! 今度は上手くやるから〜!」

「どっちに転んでもイヤですよ〜‼︎」







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