第52話 口は報復の元
ユーキ達がベールの全快を喜んでいた頃、シェーレ城の周りをパラスの大軍が取り囲もうとしていた。
城の中で決戦の準備をしているパティ達の元に、見張りの兵から状況報告が入る。
「報告‼︎ パラス軍がシェーレ城の周りに集結しつつあります‼︎ そ、その数およそ15万‼︎」
「15万⁉︎」
「カオスは本当にパラスの全兵力を投入して来たというのか⁉︎」
「15万対100人足らず……こ、これはさすがにシャレになりませんね……」
「なぁに、心配いらないニャ!」
「シャル様⁉︎」
「いくら数が居たって、カオスとナンバーズ以外は所詮雑魚の集まりニャ! あたし達の相手にならないニャ!」
「ならばシャル様。どうぞあなたが先頭に立って道を切り開いてください」
「イヤニャ! あんな雑魚共をいくら相手にしても楽しくないニャ。カオスはまあ仕方ないからユーキに譲ってやるけど、あたしは残ったナンバーズのどれかを頂くニャ。大物が出て来るまで、あたしはお昼寝してるニャ。雑魚の相手はお前達が適当にするニャ」
「師匠! 今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ⁉︎ あたしだってユーキに付いて行きたいのを我慢して残ったんだから、ユーキ達が帰って来るまで一緒にこの城を守りましょうよ⁉︎」
「そんなにあたしに戦ってほしかったらパティ、3回回ってニャンと言うニャ。そうすれば少しは考えてやらない事もないニャ。まあ、考えるだけだけどニャ。ニャハハハハ!」
そう言って丸くなり目を閉じる猫師匠。
「こんのバカ猫おおお〜」
「相変わらずの駄女神ぶりですね。仕方ありません、パティさん」
「何よ?」
パティを呼び寄せ、何やら耳打ちをするフィー。
「了解。準備しておくわ。フフフフフ」
「フフフフフ」
悪魔の笑みを浮かべるパティとフィー。
パティとフィーが悪巧みをしていた頃、パラス軍によるシェーレ城包囲網が完成しつつあった。
「カオス様‼︎ 各部隊、配置に着きました‼︎」
「そうか……それじゃあ、まずは小手調べと行こうか。南側を包囲している部隊のみ進軍だ」
「ハッ‼︎」
カオスの指示により、シェーレ城の南側に居た部隊がシェーレ城に向けて進軍を開始した。
そしてその様子は、すぐさまパティ達に伝えられる。
「報告‼︎ 南側を包囲していたパラス軍がこちらへ進軍して来ます‼︎」
「遂に来た!」
「パティさん!」
フィーよりアイコンタクトを送られたパティが、コクリと頷く。
「師匠、ここはもうじき騒がしくなります。奥の静かな部屋まであたしがお運びしますね」
「ウニャ?」
床で丸まって寝ている猫師匠の耳元で優しく囁くパティ。
それに半分寝ぼけた状態で応える猫師匠。
「そうか。じゃあ頼むニャ……」
「はい」
眠ったままの猫師匠を、風魔法で包んでそっと運ぶパティ。
しかし、その行き先は奥の部屋ではなく、城の南側のバルコニーだった。
「ウニャ? 何やら騒がしいニャ?」
「みんなが戦いの準備をしているからです。大丈夫、じきに天にも昇る気分になれますよ」
「そ、そうかニャ? 何だか気になる言い方だけど、まあいいニャ」
少し疑念を感じた猫師匠だったが、目を開く事は無かった。
そんな猫師匠を何と、バルコニーに設置されていた投石機の、石をセットする場所にそおっと置くパティ。
「お⁉︎ 何だか程よく丸くてあたしの体にフィットするニャ。とてもいい感じニャ、ムニャムニャ」
「気に入っていただけたようでなによりです」
そこには、着々と発車準備を始めるパティとフィーの姿があった。
そんな様子をオロオロしながら見ているメルク達を、『黙っていろ! 告げ口したら殺す!』と言わんばかりに目で牽制しながら。
発車準備が整った後、再び猫師匠の耳元で優しく語りかけるパティとフィー。
「それではシャル様、いい夢を……」
「天国へ行ってらっしゃい、師匠……」
そして遂に、発車のレバーが引かれる。
「ウニャッ⁉︎」
「さようなら、シャル様。あなたとの思い出はすぐ忘れるようにします」
「天に帰れ‼︎ バカ女神‼︎」
投石機により撃ち出された猫師匠は、物凄いスピードで弧を描き飛翔して行く。
「ニャニャニャニャア⁉︎ 一体何事ニャアアアアアア⁉︎」
異変に気付き、ようやく目を開いた猫師匠がパニックになっていた。
進軍を開始していたパラス軍も、その飛翔体に気が付く。
「城壁より飛翔体‼︎ 敵による投石と思われます‼︎」
「何っ⁉︎ 退避っ‼︎ 退避〜‼︎」
慌てて避けるパラス軍の真ん中に激しく落下する猫師匠。
「ブニュウウッ‼︎」
砂埃が晴れ、その落下物を見て驚愕するパラス兵。
「石じゃない⁉︎ ま、まさか⁉︎ ひ、人だ⁉︎」
近付いて確認しようとする兵を制止する、上官らしき男。
「待て‼︎ 触るな‼︎」
「えっ⁉︎」
「聞いた事がある。石の代わりに疫病で死んだ人間を投げて、敵側に疫病を流行らせようとした事例があったと……」
「で、ではこいつは疫病で死んだ人間だと⁉︎」
「その可能性がある! 決して触れるんじゃないぞ!」
「死んだ人間を投げるなんて、酷ぇ事しやがる……」
パラス兵が猫師匠を避けるように進軍していると、突如として起き上がる猫師匠。
「誰が死体ニャアアアア‼︎」
「ヒャアアアア‼︎ い、生きてる⁉︎」
「ば、化け物だあああ‼︎」
騒然となるパラス軍。
「さあ、これで南側の守りは万全です。私達は他の場所の守りに回りましょう」
「そうね。師匠には死ぬまでせいぜい頑張ってもらいましょ」
猫師匠の行方を見届けもせずに、さっさと城の中に戻るフィーとパティに驚くメルク達。
「ええ⁉︎ シャル様ほっといていいんですか⁉︎」
「いいのよ! あんなバカ猫」
「いやしかしだね……」
何かを言おうとしたが、言った所でどうにもならないので諦めるアイバーンであった。
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