第50話 ざことじゃこの漢字はどっちも雑魚

 手早く準備を済ませたユーキ達救出部隊。

 そして日付の変わる30分前、城の外に出たリコッタが上空で待機していた魔獣を呼び寄せる。


「出でよドラゴン! そして願いを叶えたまえ!」

「いや、ドラゴンボ◯ルかっ!」


 程なくして、遥か上空からドラゴンタイプの魔獣が急降下して来て、ユーキ達の前に舞い降りる。


「リンドブルム⁉︎」

「確かに、空においてリンドブルムの右に出るものは居ない」

「これならパラスまであっという間です」

「そっか、だからリコッタさんパラス軍本隊よりこんなに早く到着したんだね⁉︎」

「でもぉ、大き過ぎて乗れませんよぉ」


 覗き込むように額に手を当て、ピョコピョコと飛び跳ねているセラ。


「ああ、大丈夫ですよ。皆さん、じっとしててくださいね⁉︎」


 リコッタがリンドブルムに向けて手をかざすと、大きく口を開けてユーキ達を口に含むと、上を向きゴクンと飲み込むリンドブルム。


「……食べられたあああ‼︎」

「ユ、ユーキさん達食べられちゃいましたよ⁉︎ アイバーン様‼︎」

「だ、大丈夫だ! 生物の姿をしてるとはいえ召喚獣なんだ、消化器官などは無い、筈だ」

「で、でもロロさんは普通にご飯食べますよ?」

「ロ、ロロ君は特殊な事例だからね」


 だが、アイバーン達とは裏腹に、別の感想を持つパティ。


「ああ、今頃あの中では粘液や体液にまみれてドロドロになったユーキが⁉︎」

「この状況でよくそういう感想が出るね、パティ君……」


 しかし残念ながら、いや意外にもユーキ達は普通の部屋のような所に居た。


「普通の部屋なのよ! ビックリなのよ!」

「召喚獣というのは術者のイメージでどうとでもなりますからね。殆ど揺れも感じないように出来てますから快適ですよ」


 リコッタの言葉に感心するネム達召喚シスターズ。


「召喚獣って言うぐらいだから、生物の形してないといけないのかと思ってた」

「パルもなのよ。こういう発想は無かったのよ」

「目からうどんなの〜」

「鼻なのよ! いや違うのよ! 芸人じゃないのよ! 目からウロコなのよ!」

「じゃあオチが付いた所で出発しますよ!」


 リコッタが腕を振り上げると、リンドブルムが空高く舞い上がる。

 続けてその腕を前に倒すと、パラスに向け飛翔するリンドブルム。


「行ったか……」

「ユーキ、どうか無事で……」

「さあ、我々も戦いに備えて、休める者は例え少しでも休むとしよう!」

「そうですね。明日はいよいよパラス軍との決戦ですもんね……僕達、勝てるでしょうか?」


「勝てるさ。我らには3大神が2人も付いているんだ。同じ神とはいえ、ボッチのカオスになんか負けないさ」

「フフッ、ですね」


 しかし、そんな良い雰囲気をフィーがぶち壊す。


「違いますよ。シャル様を数に入れてはいけません。シャル様はアイリス様やカオス兄さんには遠く及ばない雑魚女神なんですから」

「フィー⁉︎ 雑魚女神は言い過ぎニャア‼︎」


「それもそうですね。謝らないといけませんね……」

「分かってくれたならいいニャ」

「雑魚の方に……」

「そっちニャ⁉︎」

「ごめんなさい、レノさん」

「俺かっ⁉︎」


 その頃、リンドブルムの腹の中に居るユーキ達。

 時間も遅い為パルとチルはリコッタの膝枕で、ネムとロロはユーキの膝枕でそれぞれ眠っていた。


「フフ、強いとは言ってもやっぱり子供だね。眠気には勝てないか。ってロロはそこまで子供じゃないだろ」

「ユウちゃんは眠くないんですかぁ?」

「あ〜、うん。おっさん時代は徹夜でゲームなんてしょっちゅうだったからね、全然平気だよ」


「眠たくなったらぁ、私の膝を使ってくれていいですからねぇ」

「うん、ありがと、セラお姉ちゃん」

「いつでも私の膝と腕と腹と胸を使ってくれていいですからねぇ」

「いや、使わないから!」


 しばらく飛行していると、リンドブルムはパラスの目と鼻の先まで来ていた。


「どうやら着いたようですね。ここからはリンドブルムでは目立ち過ぎるので、馬車に変形してパラスに入りますね」

「え⁉︎ 変形⁉︎」


 変形という言葉にワクワクするユーキ。


「ユウちゃんもお子様ですねぇ」


 スゥッと静かに森の中に降り立ったリンドブルムが翼を折り畳むと、どんどんサイズが小さくなりそして馬車の形に変わって行く。

 馬を引く御者もちゃんと配置され、ユーキ達はそのまま馬車の荷台に乗っている状態となる。


「凄い。ホントに馬車になった」

「しかもぉ、馬だけじゃなくて荷台も込みなんですねぇ」

「みなさん召喚獣は生物でないといけないように思いがちですが、本来召喚士とはイメージ次第でどんな物だって作れるんですよ?」


「ゲ、ゲーム機でも?」

「複雑な作りである程難しくはなりますが、術者がその物の構造を完全に理解していれば不可能では無いと思います」

「なるほど、そういう事か……うん、無理」


 そしてユーキ達を乗せた馬車はいよいよパラス国の領内に入り、しばらく走った後遂にベールの居る小屋の前に到着する。


「さあ、到着しましたよ」

「うん、でもこの娘達どうする? 起こす?」

「いいえぇ、すぐベールさんを治療して戻ったとしてもぉ、早過ぎてパラス軍が仕掛ける前に到着しちゃいますからねぇ、そうなると挟撃になりませんから、夜が明けるまでは寝かせておいてあげましょぉ。この娘達の戦闘力には大いに期待してますからねぇ」

「うん、そだね」


「では、このままみんなでそっと小屋に運びましょう。ロロちゃんは大きいので私の召喚獣で運びますね」

「じゃあ私はチルちゃんを担当しますねぇ」

「お願いしますね、セラさん」


 リコッタがパルを、セラがチルを、ユーキがネムを、そして馬車から今度は人型に変形した召喚獣がロロを、それぞれ小屋の中のベッドにそっと寝かせる。

 その後、ベールの本体と対面するユーキとセラ。


「お二人共、ありがとうございました。改めてご挨拶をさせて頂きたいので、どうぞこちらへ」


 リコッタに導かれて、奥の部屋に入って行くユーキとセラ。

 その部屋のベッドに、30過ぎぐらいの女性が横たわっていた。


「あなたが、ベールさん?」

「ハイ。ようこそ、おいでくださいました。私がサーティーンナンバーズ、ナンバークイーン兼、リコッタ兼、ラケル兼、パルとチルの母親のベールじゃけん」

「けんけん言い過ぎて口調まで変になってるよ⁉︎」






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