第45話 べ、別に忘れてた訳じゃないんだからねっ!

 パル達との戦いも決着し、これからの事を話し合うユーキ達。


「じゃあ約束通りパル達の話を聞きたいとこだけど、こんな場所じゃなんだから……ネム、シェーレのお城貸してもらってもいい?」


「シェーレも統一国のひとつだから、ユーキ姉様の自由にしてくれていいよ」


「ありがと。じゃあ使わせてもらうね」


 だが、ユーキ達が城に入ろうとした時、急にチルが力尽きたように座り込む。


「チ、チル‼︎ どうしたのよ⁉︎ まだどこか具合が悪いのよ⁉︎ しっかりするのよ‼︎ 気をしっかり持つのよ! 続け様に死んじゃダメなのよ‼︎」

「耳元でうるさいの〜。お腹が空いて力が入らないだけなの〜」

「もう! おどかすんじゃないのよ! だけど困ったのよ。ホントにもうパルは何も食べ物は持ってないのよ」


 パルが体中のポケットを叩いて確認していると、じ〜っとユーキを見つめるチル。


「いやもう僕、噛みつかれるのいやだからねっ‼︎」

「残念なの〜。ユーキ姉様美味しかったの〜」

「だ、誰か食べる物持ってないの⁉︎」


 身の危険を感じ、慌ててBL隊のメンバーに尋ねるユーキ。


「ご心配なくぅ。今は持ってませんがぁ、さっき連絡したからもうすぐ到着する筈ですぅ」


 指先に挟んだ羽を振りながら言うセラ。


「到着? 何が?」

「お待たせいたしましたわ!」

「無事に運んで来たよ!」


 セラが答える前に、何台もの馬車と大勢の兵士を引き連れて、ノインとリマがやって来る。


「ノイン⁉︎ リマ⁉︎」

「シェーレを取り戻した後、すぐここを拠点に出来るようにぃ、この2人にはヴェルンから大量の食料や物資を運んで来てもらったんですぅ」


「ああそういえばこの2人、いつのまにか居なくなってたわね」

「言われるまで気が付かなかったニャ」

「もう! 酷いですわ! 荷物が戦いに巻き込まれないように離れて後から付いて来てたんですのよ⁉︎」


「ゴ、ゴメンね⁉︎ ネム達の戦いに気が行ってたもんだから。荷物を守ってくれたんだよね? ありがと!」

「ユ、ユーキ姉様にお礼を言って頂けただけでわたくし、幸せですわ!」

「うん。頑張った甲斐があったよ」

 

 喜んでいるノインに、素朴な質問をするパティ。


「ねえ、リマはともかくノインはどう見てもユーキやセラより年上よね? それで何で姉様って呼ぶのよ?」

「と、歳は関係無いんですわ! わたくしは皆様をお慕い申し上げていますからそう呼ばせて頂いているだけですわ!」

「ふ〜ん、まあいいけどね」


 その後、運んで来た物資を全て城の中に運び込み、ひと息ついた所でパル達の事情を聞くBL隊。


「パル達の母様は、昔はお城の仕事をしてたらしいのよ」

「セレブなの〜」

(城の仕事? メイドさんか何かかな?)


「だけどパル達が産まれた頃、何故かいきなりお城を出なくちゃいけなくなったらしくて、街から離れた森の中の小屋で暮らす事になったのよ」

「島流しなの〜」

(何かやらかしたのね?)


「パル達が5才になった頃から段々母様の元気が無くなっていってお仕事にも行けなくなったのよ」

「引きこもりなの〜」

(重い病気にかかった?)


「でもどこかの親切なお姉さんが、いつも食べ物や必要な物を届けてくれたから、何とか生活は出来ていたのよ」

「拾う神ありなの〜」

(お城の関係者の方でしょうか?)


「そしてあの日……パラス軍がシェーレに攻めて来た時。母様とパル達は魔獣を出して必死に抵抗したのよ」

「孤軍奮闘なの〜」

(その時にネムの両親も……)


「でも圧倒的な数の前に、パル達は追い詰められたのよ」

「締め切り前なの〜」

(何の締め切りよ!)


「もうダメだと死を覚悟した時、カオス様が現れて言ったのよ」

「お前はもう、死んでいるの〜」

「そんな事言ってないのよっ‼︎」

(どうも真剣味に欠けるなぁ……)


「他のシェーレの国民は、王族も含めてみんな死んだって……だから無駄な抵抗はやめてパラスに降れって。パル達の力をパラスの為に使えって。そうすれば母様の治療もしてくれるし、パル達の生活も保証するって言ってくれたのよ」

「背に腹はかえられぬの〜」

(要するに、母親を人質にした訳か)


「母様は殆ど動けなかったし、パル達に選択肢は無かったのよ」

「洗濯物は大量に溜まってたの〜」

「チル! さっきからふざけてるんじゃないのよ‼︎」

「重い空気に耐えられないの〜」

(うん。その気持ち分かる)


「仕方なくパラス軍に入ったけど、パル達は母様が元気になればすぐにでも逃げ出そうと思っていたのよ」

「悪巧みなの〜」

(いや、別に悪巧みではないと思うが)


「でも、母様は一向に元気にならないし、例え逃げたとしてもシェーレの人達はみんな死んじゃったから、どうしていいか分からなかったのよ」

「お寿司を食べに行ったら、凄く美味しそうなカレーがあった時みたいなの〜」

(どうしていいか分からないね)

「どうせチルは両方食べるのよ!」

(私もですぅ)


 落胆しているパル達に、明るく宣言するロロ。


「シェーレの民は生きているのです!」

「え⁉︎ でもカオス様はパル達以外は全員死んだって言ったのよ!」

「虚偽報告は厳罰なの〜」

(チルが入って来ると緊張感無くなるな〜)


「この方こそがその生き残り! シェーレ国王女、ネム・クラインヴァルト様なのです!」


 ネムに手をかざして紹介するロロ。

 無表情でピースをするネム。


「んなあっ‼︎ ネ、ネ、ネ、ネ……」

「練りわさびなの〜」

「ネム姉様がシェーレの王女様なのよ⁉︎ そんな話聞いてないのよ〜‼︎」

「福耳なの〜」

「初耳なのよ!」

「だって言ってないもん」


 慌ててひれ伏すパルとチル。


「そんな事とはつゆ知らず王女様に拳を向けた事、大変失礼致しましたのよ〜!」

「平にご容赦なの〜」

「ん。問題無い」

「2人共気にしなくていいのです。ネムはこれしきの事で怒る程、器の小さい王女ではないのです。だからこんな事したって笑って許してくれるのです」


 そう言って笑いながらネムの頭をポンポンするロロ。


「ロロ、3日間オヤツ抜き」

「はわっ‼︎ たった今器が大きいと言ったばかりなのです! これでは一輪挿しぐらいの器なのです!」

「1週間にする!」

「はうあっ⁉︎」





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