第39話 無性に甘い物が食べたくなる時ってあるよね
お互い出せる召喚獣が残り1体ずつになった時、またメルクの質問タイムが始まる。
「これでいよいよ残る魔石は、お互い白魔石ひとつずつになった訳ですね」
「そうですねぇ。やはりパルちゃん達も最後はSランクの魔獣を出して来るでしょうからぁ、ネムちゃんも油断は出来ませんねぇ」
「ですね……あれ? そういえば、ロロさんも召喚獣なんですよね? ならこの場合、ロロさんも1体として数えるんでしょうか? となると、ネムちゃんはもう召喚獣を出せないって事に?」
「う〜ん。厳密に言えばロロちゃんを召喚したのはネムちゃんのお母さんっていう話ですからぁ、カウントされないんじゃないんですかぁ?」
「更に言えば、ロロだって純粋な召喚獣って訳じゃ無いしね」
「まあその辺はネムがどう判断するかよね」
最後に残った最高ランクの魔石である白魔石を準備するチル。
「チル! パルが女子トークで何とか時間を稼ぐから、その間に魔石に魔力を込めるのよ」
「分かったの〜。エネルギー充填なの〜」
後ろに下がり、白魔石に魔力を込め始めるチル。
「ネム姉様! 最近のお気に入りのアイドルは誰なのよ⁉︎」
「アイドル? どうしたのいきなり? 時間稼ぎ?」
「そそそ、そんな事は無いのよ! た、ただ急にネム姉様とお話がしたくなっただけなのよ!」
「ふ〜ん、まあいいけど。あまり詳しくないから分かんないよ。テレビに出てるアイドルより、ユーキ姉様の方が可愛いし」
「じ、じゃあオススメのスイーツ店を教えるのよ!」
「自分からは行かないからよく分かんない。ユーキ姉様の作ったスイーツが一番美味しいし」
「ユーキ姉様の事ばっかりなのよ!」
「そうだよ。ネムが戦う理由はユーキ姉様の為。そしてこのシェーレを復興させる為。パル達は何の為に戦ってるの?」
「パ、パル達は母様……」
何かを言いかけて口をつぐむパル。
「そんな事より、今はこの戦いに決着をつけるのよ! チル! 準備はどうなのよ⁉︎」
「ダメなの〜」
「ダメ? 何がダメなのよ?」
「お腹が空いて魔力が足りないの〜」
「んなっ⁉︎ さっきあれだけ食べておいて、燃費が悪過ぎるのよ! うう〜。し、仕方ないからパルの残ったお弁当も全部食べていいのよ!」
「もう食べたの〜」
「食べたんかいっ‼︎」
「でもあと少し足りないの〜」
「わ、分かったのよ。じゃあパルがオヤツに持って来たチョコを食べるのよ。これで足りるのよ」
ポケットからチョコを取り出してチルに渡すパル。
もらったチョコを一瞬で平らげるチル。
「どうなのよ?」
「まだちょっと足りないの〜」
「むぐぐ……な、ならパルの持ってるオヤツを全部食べるのよ!」
そう言って、服のポケットというポケットからオヤツを取り出してチルに食べさせるパル。
(うう〜。せっかくたくわえたパルのオヤツを全部食べられたのよ。で、でも実はまだ取って置き、グレコの最高級マカダミアナッツ入りのチョコが残ってるのよ。コツコツお金を貯めてやっと手に入れた一品なのよ。これだけは絶対に死守するのよ)
「チル! どうなのよ? 召喚出来そう? なのよ」
「あともう一声なの〜。カロリーで言うと、グレコの最高級マカダミアナッツ入りのチョコひと箱分ぐらい足りないの〜」
「完全に決め打ちで来たのよ‼︎ 明らかに持ってるのが分かってて言ってるのよ!」
「知らなかったの〜。でも持ってるなら食べさせてほしいの〜。そうすれば最後の奥の手を召喚出来るの〜」
「ぬぐぐぐぐぐ……」
物凄い心の葛藤をしているパルを見ながら、攻撃を仕掛けようか悩んでいるネム。
「ねえ、もう仕掛けてもいいのかな?」
「せめて魔獣を召喚するまでは待ってあげるのです」
「わ、分かったのよ! パルの取って置きもあげるのよ! これで足りなかったらパル達の負けなのよ!」
未練を断ち切り、取って置きの最高級マカダミアナッツ入りのチョコをチルに投げるパル。
「ハムハムハム!」
それを全て飛びついて空中で口に入れるチル。
「エネルギー充填120パーセントなの〜!」
「いや120パーセントになるなら最後のチョコは食べなくてもよかったのよ〜‼︎」
「エネルギー充填は昔から120パーセントって決まってるの〜!」
「何のこだわりなのよ‼︎」
チルが白魔石を空に向かって投げると、充分に魔力を蓄えた魔石はグングンと空に昇っていき、遂に雲の高さを超える。
「最後の奥の手、ニーズヘッグ召喚なの〜!」
「グギャオオオオ‼︎」
遙か上空で描かれた魔方陣から、先程出した巨人達よりも更に巨大な漆黒のドラゴンが現れる。
「ドラゴン⁉︎」
「Sランク魔獣のニーズヘッグニャ!」
「かなりの高さに居る筈なのに、何て大きいんでしょうか」
そんなニーズヘッグを地上から見上げているネムとロロ。
「ロロ、届く?」
「う〜ん。さすがにちょっと高過ぎるのです。もうちょっと降りてこないと無理なのです」
「そっか。じゃあ待ってよ」
「ハイなのです」
特に何もしようとしないネム達を見て、パルの方が逆に焦りの表情を見せる。
「何やってるのよネム姉様! 早く魔獣を召喚しないと死を待つだけなのよ!」
「ん? 召喚獣ならもう出してるよ?」
「ふえ?」
加速して降下してくるニーズヘッグの位置を確認したロロが準備運動を始める。
「では、そろそろ行って来るのです」
「うん。気を付けてね」
「ハイなのです。う〜んしょっ!」
膝を曲げて力を溜めてから一気にジャンプして、グングン上昇して行くロロ。
その光景に驚くパル。
「飛行魔法⁉︎ いや、違うのよ! 今のは魔法ではなく物理的に飛んで行ったのよ! ロ、ロロ姉様の正体はまさかなのよ!」
「そ。今のロロは普通の人間じゃないよ。ロロはネムの……」
「でやあああ‼︎ なのですううう‼︎」
「最強の召喚獣なんだから」
上昇する勢いのまま、ニーズヘッグの顔にカウンターのパンチを炸裂させるロロ。
「グギャアアア‼︎」
全身の力が抜けた様に翼が垂れ下がり、そのまま地上に落下して地面に叩きつけられるニーズヘッグ。
「そ、そんな……パルの取って置きのチョコを犠牲にしてまで召喚したニーズヘッグが……こ、これではあんまりなのよ……」
落胆するパルに、慰めの言葉をかけるチル。
「パル、取って置きのチョコは決して無駄になってないの〜」
「チル……」
「何故なら、最後のチョコは別に食べなくてもニーズヘッグは召喚出来たの〜。だからチルは美味しくいただけたの〜」
「……やっぱりなのよ‼︎ 単に食べられ損なのよおお‼︎」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます