第29話 追いかけられるなら美少女がいい

 レノとセラが合流して程なく、気絶していたリマが目を覚ます。


「ここ……は? 僕はどうなって?」

「ん? ようやく目を覚ましたか?」


 爆発のダメージで意識が朦朧としていたリマだったが、レノの顔を見た瞬間覚醒する。


「ああそうだ、思い出した。目が覚めた瞬間にあんたの顔を見るとか最悪だ」

「相変わらず口の悪い奴だ」


 そんな2人のやり取りを見ていたノインが口を開く。


「リマさん、無事で良かったですわ」

「無事? これのどこが無事だよ⁉︎ こっちはBL隊最弱の変態に負けて最悪の気分だよ! 無様に生き残って、いっそ死んでた方がまだ格好が……てかノイン。あんた、何で敵と嬉しそうに腕なんか組んでんのさ⁉︎ まさか、カオス様を裏切ってこいつらの仲間になったなんて言うんじゃないだろうね⁉︎」


「何を言ってるんですの、リマ? このわたくしがカオス様を裏切るなんて事は絶対にありえませんわ!」


 ノインの言葉を聞き、警戒態勢をとるレノ。


「おいセラ! あんな事言ってるが大丈夫なのか? 術が不完全なんじゃないのか?」

(術?)


 レノの言葉にピクリとなるリマ。


「大丈夫ですよぉ。ちゃんとかかってますよぉ。私も念の為ぇ、ここに来るまでにあえてノンちゃんに背後を晒しましたけどぉ、ずっと私の腕にしがみ付いてただけでぇ、他には特に何もして来ませんでしたからねぇ」


「いやしかし、俺達を案内するとか言いながらカオスは裏切らないとか言ってるし」

「言ったでしょぉ⁉︎ この魔法は記憶を操作したり相手を操ったりするものじゃないってぇ。心が純粋になる以上ぉ、元々好意を抱いていた相手への気持ちもより激しくなるんですぅ」


「セラお姉様。お願いですからリマさんの傷を治してあげていただけないでしょうか⁉︎ その後はもうお姉様達に危害を加えないよう、このわたくしが説得いたしますわ!」

「そうですねぇ。もしここにユウちゃんが居たら同じ事を言うでしょうからぁ、別にいいですよぉ」


 そんなやり取りを聞いていたリマが、ある仮説を立てる。


(そうか! ノインの奴、何か知らないけど術にかかったフリをして、僕の治療をさせようって魂胆か? だからあえて何もせずにヒーラーをここまで連れて来てくれたんだね? オーケー! 理解した! 治った瞬間にリベンジ開始だ!)


「待てセラ! せめて拘束してからの方が……」

「ノンちゃんが説得するって言ってるんだからぁ、任せましょぉ」

「しかしだな」


「もう、ごちゃごちゃうるさいですねぇ。そんなに人の事が信用出来ないならレノぉ、あなたにもノンちゃんと同じ魔法をかけてあげましょうかぁ⁉︎」

「い、いや! それはやめてくれ!」

「かけませんよぉ。レノになつかれからたまったものじゃないですからねぇ」

「何おぅっ!」


 そんなセラの袖をクイクイと引っ張るノイン。


「あ、あの……セラお姉様?」

「ハイ、何ですかぁ? ノンちゃん」

「先程からそのぉ……ノンちゃん、ていうのは何ですの?」


「あぁ、私はよく相手の事をちゃん付けで呼びますからねぇ。ノインちゃん、では言いにくいからノンちゃんにしたんですよぉ。イヤだったですかぁ?」

「あっ! いいえ! セラお姉様にちゃん付けして頂けるなんて、大変嬉しく思いますわ! ノンちゃんなんて言うと、何だかフット◯ールアワーの岩◯さんの顔が浮かんで来ますが、ぜ、全然気にしませんわ!」


(気にしてたんだな……)

(気にしてたんだな……)


 少し同情するレノとリマであった。

 未だ難色を示すレノを見て、ノインがある提案をする。


「そうですわ! セラお姉様! リマさんにもさっきの魔法をかけてさしあげたら如何でしょうか⁉︎ そうすればわざわざ説得しなくても、レノお兄様とリマさんもわたくし達みたいに仲良くなれますわ!」

(へ⁉︎)


 まさかのノインの提案に、焦りの表情に変わるリマ。


「あぁなるほどぉ、それはいい考えですねぇ」

「お、おい! セラ⁉︎」


 焦っていたのはレノも同様だった。


「じゃあ刷り込む相手はレノでいいですねぇ?」

「オイッ!」


 怪しい雲行きに、ついリマがノインに問いただす。


「オイ! ノイン! あんた、術にかかったフリをしてるんじゃないのか⁉︎」

「フリ? 何の事ですか?」

「だ、だってさっき、カオス様を裏切る筈が無いって……」


「当然ですわ! わたくしはカオス様をお慕い申し上げていますもの」

「じゃあ何で敵に手を貸すんだよ⁉︎」

「カオス様をお慕いする気持ちと同様に、わたくしは今セラお姉様をお慕いしているからですわ!」

「なん……だって⁉︎」


「今のわたくしのなすべきことは、カオス様にはユーキさんと正々堂々心ゆくまで戦って頂き、かつ両軍共に1人の犠牲者も出さないようにセラお姉様をサポートする事ですわ!」


「あんた……マジに術にかかって……」

「さあ、行きますよぉ」


 リマの周りの地面に羽を撃ち込むセラ。


「ま、待って‼︎ 傷が治っても、もうあんた達には手出ししないって約束するからああ‼︎」

「んふふ〜、もう遅いですぅ。痛みは無いから安心してくださいねぇ」

「イヤだああ‼︎」


「うふふ〜、これでリマさんもレノお兄様と仲良しになれますわ〜」

「待てええ‼︎ どうせなつかれるなら、可愛い女の子の方がいい〜‼︎」

「リマさんも可愛いですわああ!」

「イヤだああ‼︎」


 2人の絶叫が響く中、光に包まれるリマ。

 そして……



「何で逃げるんですかっ⁉︎ レノ兄さん! セラ姉さん達みたいに、僕達も親睦を深めましょうよ!」

「いくらドMの変態でも、男に言い寄られて喜ぶ趣味は無いっ‼︎」

「待ってくださいよ! レノ兄さ〜ん!」


 しつこくレノを追いかけ回すリマを見たセラが心に誓う。


(うん。やっぱりこの術を無闇に使うのはやめときましょぉ)






 

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