第28話 うずらの卵を孵化させてみたい

 宙に描かれた光の魔方陣に絡め取られて動けないノインの前で、詠唱を始めるセラ。


『悪と交わりて汚れし心よ』


(詠唱⁉︎ 治癒魔法なのに詠唱するんですの⁉︎)


『いく年月を経て黒く染まりし魂よ』


(でも、治癒魔法でどうやってわたくしを倒すと言うんですの?)


『今、そのわだかまりを捨て』


(相手がアンデッド系ならば治癒魔法は効果的でしょうけれど……)


『神より与えられた聖なる光によって』


(え⁉︎ もしかしてわたくし、アンデッド扱いされてるんですの⁉︎)


『産まれし頃の無垢な心に帰れ』


(ああっ! しまったですわっ! くだらない事を考えてる間に、もう詠唱が終わりそうですわああ〜‼︎)


『オリジンリグレッション‼︎』


 セラが叫ぶと魔方陣が強烈な光を放ち、その光に完全に飲み込まれるノイン。


(カ、カオス様ああ〜‼︎)



 セラが究極の治癒魔法を放って少し経った頃、未だに大ダメージにより倒れたまま動けないレノ。


「先程強大な魔力を感じたが、セラは無事だろうか? いや、実際あいつは死んでも復活して来たんだ。殺したぐらいじゃそう簡単には死なないだろう」

「人をゾンビみたいに言わないでくださいよぉ」


 頬を膨らませながら現れるセラ。


「フッ、現にピンピンしてるじゃないか?」

「そういうあなたはボロボロですねぇ? レノ」


 リマとの戦いの経緯を話すレノ。


「相変わらず無茶な戦い方しますねぇ」

「いや、お前が言ったんだろう? セラ」

「私がぁ? 何の事ですかぁ?」

「ほら! リーゼルで俺がカオスと戦っている時に。俺の最大の武器は防御力だから、それを活かした戦い方をしろと」


「何言ってるんですかぁ。その時既に私は死んでたんですぅ、そんな事言える訳無いでしょぉ?」

「いやそれはそうなんだが、あの時お前の反射魔法に助けられたのは事実なんだ。幻や幻聴である筈が無い!」

「何と言われようとぉ、本人が知らないと言ってるんですから幻ですぅ。幻聴ですぅ。鳳凰幻◯拳ですぅ!」


 必要以上に全力で否定するセラの様子を見て、何かに気がつくレノ。


「フフッ、なるほどな。そういう事か」

「な、何ですかぁ?」

「つまりだ。あの時お前は最後の別れだと思い、俺を愛してると言った事が恥ずかしいんだな? うん、そうかそうか。可愛い奴め!」


「愛してるなんて言ってませんっ‼︎」

「何を言う! 別れ際に世界中の誰よりも愛してるよ、お兄ちゃんって言ったではないかああ‼︎」

「完全な捏造ですぅ‼︎ 私は先に行くけどゴメンって言っただけですぅ。確かにお兄ちゃんとは言いましたけど、愛してるなんてひと言もこれっぽっちもひとかけらも言ってないですぅ‼︎ あ……」


 恥ずかしさの余り散々惚けていたが、つい感情的になりレノの誘いに引っかかってしまうセラ。


「フッ、やはりあれは幻なんかでは無かったようだな」

「むぐぐ……卑劣な誘導尋問ですぅ。レノのくせにぃ」


「あのぉ。もうそろそろ宜しいでしょうか?」

「あぁ、すっかり忘れてましたぁ。ごめんなさいねぇ」

「いいええ。そんなドSなお姉様も素敵ですわ」


 セラの背後からひょこっと現れたのは、何と先程までセラと戦っていたノインであった。


「セラ。その子は?」

「ああ! 申し遅れましたわ! わたくしはサーティーンナンバーズ、ナンバー9のノインと申しますわ。以後お見知り置きをですわ、レノお兄様!」

「ナンバーズ⁉︎ レノお兄様⁉︎ こ、これはどういう事だ⁉︎ セラ!」

「まぁ、バカなレノにも分かるように説明してあげますぅ」

「ああ、バカは余計だがな」


 セラに傷を治してもらった後、ノインに仕掛けた魔法の事を聞くレノ。


「なん……だと⁉︎ それではまるで洗脳ではないか⁉︎」

「違いますよぉ、人聞きが悪いですねぇ。この魔法は別に記憶を書き換えたり思考を操ったりするものじゃないですぅ。人間っていうのはぁ、本物の悪魔でも無い限り生まれながらに悪の心を持った人は居ないんですぅ」


「まあ確かに、生きて行く中で様々な出会いや経験を経て変わって行くものだからな」

「そうですぅ。だから生まれた頃の純真無垢な心と魂に浄化する事がぁ、私が考え付いた究極の治癒魔法なんですぅ」


「考えようによっては恐ろしい魔法だな? だがセラよ、そんな凄い魔法が使えたのなら、何故今までの戦いで使わなかったんだ?」

「確かにこの魔法の効果は絶大なんですがぁ、強い力には必ずリスクがあるものでぇ」

「リスク?」


 セラがレノに説明をしていると、まるで恋人とイチャつくかのようにセラの腕にしがみつくノイン。


「セラお姉様! レノお兄様の治療も終わった事だし、早くユーキさん達と合流しましょう! パラスの案内はわたくしがして差し上げますわっ!」

「見ての通り、この魔法を仕掛けると妙になつかれちゃうんですよねぇ。以前放浪中に襲って来た野党に試しに仕掛けたらぁ、なつかれちゃってしばらく巻くのに苦労したんですぅ。いわゆるすりこぎって奴ですぅ」


「それを言うならすりこみだろう?」

「昔はそう言ってたみたいですぅ」

「今もだ」


 サーティーンナンバーズ、ナンバー9ノイン、撃破。

 残るナンバーズはあと6人。


「だ、だが! すりこみ現象が起こるというなら、その魔法をマナに仕掛ければまた昔のように俺になついてくれるんじゃないのかっ⁉︎」

「確かに魔法を仕掛けた直後に視界に入れば可能性はありますがぁ、そもそも昔からマナちゃんはレノになんかなついてませんけどねぇ」




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