第23話 好きな物は最初と最後、どっちに食べる?

 闇に潜んでいたデスに、高周波の合図が届く。


(む! 合図デス。でも今度は今までと随分方向が違うデス。きっとシャルさんが移動したんデス。逃がさないデス)


 デスがライフルを構えて、弾丸を撃ち出す。

 しかしその弾は子猫師匠にではなく、フィーの体をかすめて行った。


(狙撃⁉︎ 今度は風魔法じゃない。では、今のがデスの攻撃? しかし、おそらく先程まではスーと連携してシャル様を攻撃していたんでしょう。だから私は放置されていた。それが何故今になってこっちに攻撃を? シャル様はまだしぶとく生きているというのに。ハッ! もしや、またしても⁉︎)


 子猫師匠の策略により攻撃された事を察知したフィーが魔装具を構える。


「やはり、ここで仕留めるしかないようですね! ミーティア‼︎」


「か、勝手にデスに攻撃指示を出さないでほしいでスー! ていうか何で高周波を出せるんでスか?」

「あたしは風使いニャ。あれだけ何度も聞かされれば指示の出し方ぐらい分かるニャ」

「でも攻撃の方向が全然違いまスー。やっぱり適当に出しただけでスー」

「いいや、合ってるニャ。その証拠に……ほらニャ」


 子猫師匠が空を指差す。


「何でスー? ななっ⁉︎ あれは何でスー⁉︎」


 スーが空を見上げると、巨大な隕石が自分達目掛けて落下して来ていた。


「どうやらあたしが仕掛けたって事がバレたみたいニャ。ならば、受けて立つニャ! ストーム‼︎」


 子猫師匠の放った風の渦が隕石を飲み込み、粉々に粉砕して行く。


「今度はダブル攻撃ニャ! ウインドソード‼︎ ニャアアアアア‼︎」


 風魔法を放つと同時に高周波を出す子猫師匠。


(む? またこの方向デスか? 分かったデス!)


 先程と同じように、子猫師匠の指示でフィーに攻撃するデス。

 デスの放った弾丸はそれたが、子猫師匠の風魔法がフィーの体をかすめて行く。


(弾丸と風魔法の同時攻撃⁉︎ やはりもう、確定ですね)


「ならば! 私が直々に仕留めてあげましょう‼︎」


 叫びながら子猫師匠の居る方向に走り出すフィー。

 そして、デスの作り出した空間をあっさり抜け出して行く。


「なっ⁉︎ このダークネスフィールドは、取り込んだ者の方向感覚を狂わせて迷わせる筈なのに、いとも簡単に脱出されたデス⁉︎ い、いけない! 追いかけるのデス!」


 スーの危機を察したデスが、慌ててフィーの後を追いかける。

 そして、闇から脱出して来たフィーは、スーではなく子猫師匠に攻撃を仕掛けていた。


「いい加減にしなさい! バーニングファイアー‼︎」


 巨大な炎の塊が子猫師匠に襲いかかる。


「ニャんのっ! ウインドウォール‼︎」


 風の壁で、その炎を防ぐ子猫師匠。


「フィー⁉︎ お前! 女王に向かって攻撃するとは、これはれっきとした謀反ニャ!」

「いいえ。既に国は統一され、その王はユーキさんに決まっています。よって、今のシャル様はただの偉そうな性悪猫です」

「誰が性悪猫ニャ‼︎ それでも、それぞれの国の内政は元の国王に委任されているニャ! だからあたしは今でもちゃんと偉いニャ!」


 子猫師匠の振り下ろした爪を、鎌で受け止めるフィー。


「もう歳なんですから、そろそろ引退してパティに後任を任せたらいかがです、かっ⁉︎」


 子猫師匠の爪を振り払い、槍状に変化させた魔装具で子猫師匠を突くフィー。

 その槍先を掴んで止める子猫師匠。


「あ、あたしは見ての通り、若くてピチピチニャ! まだまだ若い者には負けないニャ!」


 トンと後ろに下がってから爪で空を切り裂く子猫師匠。

 爪から飛来した風の刃を、シールドタイプに変化させた魔装具でガードするフィー。


「その物言いが歳である証拠なんですよ!」


 大剣に変わった魔装具を地面に突き立てるフィー。

 剣が刺された場所から地面が凍り出し、その氷が子猫師匠に走って行く。


「フニャッ‼︎」


 足下まで来た氷を、地面を殴り止める子猫師匠。

 そんな2人の攻防を、呆れた様子で眺めているスー。


「な、何でこの2人仲間割れを始めたんでスか? というか、攻防が凄過ぎてスーが割り込む余地が無いでスー」


 そこへ、スーの身を案じたデスが駆け付けて来る。


「スー! 大丈夫デスか⁉︎」

「デス⁉︎ あなた、こっちまで来たんでスか?」

「フィーさんにあっさり逃げられたんデス。スーが危ないと思って慌てて来たんデスが、これは一体どういう状況デス?」


「スーもよく分からないんでスー。フィーさんがやって来たから、2人がかりで袋にされると思ったんでスが、何故かいきなり仲間割れを始めたんでスー」

「仲間割れデスか? しかし、これはある意味チャンスデス! 2人の意識がこちらから離れている今こそ、狙撃して倒すんデス!」

「そ、そうでスね! じゃあやるでスー!」


 そう言ってライフルを構えて弾丸を撃ち出すデス。

 その弾丸を羽衣で起こした風で誘導して、未だ争っている子猫師匠達を狙うスー。

 しかしその弾丸は、子猫師匠達の起こした魔力の渦に弾き飛ばされてしまう。


「は、弾かれたデス⁉︎」

「も、もう一度でスー!」

「わ、分かったデス」


 同じように子猫師匠達を狙って弾丸を撃ち出すが、またしても弾かれてしまう。


「もも、もう一度……」


「さっきからうっとおしいニャ‼︎」

「邪魔しないでください!」


 子猫師匠達の放った風の刃が、スー達の体を魔装具もろとも切り裂いて行った。


「そ、そんな……ここまで力の差があるなんて、あんまりでスー」

「最初からデス達なんて、眼中に無かった……デス」


 倒れ込むスーとデス。

 サーティーンナンバーズ、ナンバー4、スー。

 ナンバー10、デス、撃破。

 残るナンバーズは、あと8人。


 ナンバーズの2人を倒しても、まだ子猫師匠達の争いは止まらなかった。


「大体シャル様は、すぐ私のオヤツを食べてしまうんですから! この間だって、私が楽しみに取っておいた期間限定のシュークリームを食べたでしょ⁉︎」

「いつまでも置いておく方が悪いニャ! さっさと食べないと味が落ちるニャ!」

「私は好きな物は後に取っておくタイプなんです! それなのに!」


「それを言うならお前だって、あたしのフィギュアの箱を捨てたニャ⁉︎」

「中身が入ってないんだから別にいいでしょう?」

「ニャアア! 分かってないニャ! ああいう物は、外箱もちゃんと揃っていてこそ価値があるニャア‼︎」

「ならばそこら辺に適当に置かないで、きちんと片付けてください」

「適当に置いているようで、ちゃんと計算された位置に配置してあるニャア!」

「単にちらかっているようにしか見えません。なので、全てゴミと見なします」


「や、やはりお前とはここで決着をつける必要があるニャ!」

「望むところです。今までの食べ物の恨み、今こそ晴らします!」


 2人の不毛な争いは、しばらく続いたという。




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