第19話 ハイブリッド! 車じゃないよ?

 明らかにもう立っていられる状態では無いのに、意地でも倒れようとしないブレンにたじろぐゾルーガ。


「あ、あほなっ! あんたのどこにまだそんな力が残っとるっちゅうんやっ⁉︎」


(アニメとかでよく使われるセリフですね)


「今度は、俺様の番だったな……」


 スゥッと刀を鞘に収めて、静かに居合の構えを取るブレン。

 さっきまでとは違う、ブレンの異様な圧力に後ずさりするゾルーガ。


(な、何や⁉︎ 構えは同じやのに、さっきまでとは全然迫力が違う?)


「これだけ炎を食らえば充分だ。まとめて返してやろう! 熱き炎よ!」


(詠唱⁉︎ ほなこっちも詠唱……あかん! 今からじゃ間に合えへん)


 後方へ飛びつつ、両腕の小手をこすって一段と激しい炎を起こすゾルーガ。


(ブレンはんの詠唱が終わる前に、無詠唱で出せる最大魔法を食らわすしかあらへん!)


 ゾルーガの両腕から立ち昇った炎が、頭上で巨大な炎の塊になって行く。


「悪いけど、先撃たせてもらうでぇ‼︎ マーズ……」


『無限に燃えさかれ! ニュークリアスフュージョン‼︎』


 ゾルーガの炎の塊が完成する前に、一瞬で間合いを詰めたブレンが、ゾルーガを斬りつける。


「何やてっ⁉︎ ぐわあああっ‼︎」


 ブレンの魔法の乗った斬撃を受けたゾルーガが、激しい炎の渦に飲み込まれる。

 

(やった‼︎ ゾルーガさんが技を放つ前にブレン様の詠唱魔法が炸裂した‼︎ ゾルーガさんの動きを見て、咄嗟に詠唱を短くするなんて流石です! ブレン様!)


 ブレンが刀を鞘に収めると、ゾルーガを包んでいた炎が消滅する。

 相当なダメージを負ったが、辛うじて息のあるゾルーガ。


「ワ、ワイが無詠唱の魔法を撃とうとしてたから、え、詠唱を端折って先に撃って来るやなんて、や、やるやないか……」

「ん? 何を言っている? 俺様は詠唱を端折ってなどいないぞ?」


「な、何言うてんねん。どこの世界にあ、あんな短い詠唱文句があるっちゅうねん」

「俺様はバカなのだ! 長い詠唱など、覚えられる訳ないだろう‼︎」


「何やてええ‼︎」

(何ですってええ‼︎)


「じ、じゃあ、端折ったんやなくて、さ、最初からあんな短い詠唱文だったっちゅうんかい? ハッ! あ、あんたがアホやゆう事、すっかり忘れてたわ……」


 前のめりに倒れ込んで、そのまま意識を失うゾルーガ。

 

「大丈夫か? メル……ク……」


 メルクを気遣ったブレンもまた、仰向けで大の字に倒れ込む。


「ブ、ブレン様ああ!」


 地面を這うようにしてブレンに近付くメルク。


「大丈夫ですか⁉︎ ブレン様‼︎」

「む⁉︎ 俺様はこの通りピンピンしている」

「何がこの通りですか。あんな無茶な戦い方して〜」

「仕方なかったのだ。ゾルーガの力は明らかに俺様より上だった。ああいう形に持って行き、奴の炎をも利用して一撃に賭けるしか、勝てる見込みが無かったのだ」

「ブレン様……」


 意外にも、全てはブレンの計算尽くの行動であった事に驚きの表情を隠せないメルクであった。


「ちゃんと考えた上での行動だったなんて、バカな事してるなんて思ってごめんなさい、ブレン様」

「フッ! 構わんさ。俺様がバカなのは事実だからな。だが、バカはバカなりに考えてるのだ。堂々とアイバーンの隣に立てるようにな」


「ブレン様……そうですね。僕もいつか、胸を張ってアイバーン様の横に立ちたいです」

「何を言っている? メルク。お前はいつでも胸を張ってアイバーンの横に立てるだろう?」

「え?」

「嫁として」

「やっぱりあなたは大バカです」



 サーティーンナンバーズ、ナンバー6ゾルーガ、撃破。

 残るナンバーズはあと10人。



 ブレン対ゾルーガの戦いが決着した頃、ユーキ達を乗せた船はリーゼル王国のあるノーヴェ大陸に到着していた。


「着いた〜‼︎ 久しぶりの我が故郷‼︎」


 両手を上げて伸びをするユーキ。


「我が故郷って、ユーキはトゥマールのアイリス女王様でもあるんでしょ? どっちが本当なのよ?」


 何気無い質問をするパティ。


「確かに僕の中にはアイリスさんが居るけど、僕のベースはあくまでリーゼルのマナだからね。リーゼル国の14才の王女マナの肉体に、この魔法世界を作った3大神の1人、女神イースが人間の姿になったアイリスさんが憑依して、ついでに向こうの世界で過ごしたおっさんだった頃の35年分の記憶も持ってる状態」

「改めて聞くとややこしいわね」


「まあ簡単に言うと、イースとおっさんの記憶と力を持ったマナって事」

「じゃあ基本はマナ王女なのね? それじゃああたしもユーキじゃなくて、マナって呼んだ方がいいのかしら?」


「いいよ、ユーキのままで。マナを超えたハイブリッドな存在がユーキなんだから!」

「キメラみたいね」

「人をモンスターみたいにゆ〜な!」


 そんなやり取りをしながら上陸するユーキ達。

 バーダの身柄は、駆け付けたリーゼルの兵により拘束され、リーゼル城に投獄される事となる。


 そして、船の乗客が全て降りたと思われたが、とある機械室の中でゴソゴソと動く2つの人影があった。


「ハッ⁉︎ チル! 起きるのよ、チル!」

「ふわああ……何なの〜、パル? ご飯なの〜?」

「寝ぼけてるんじゃないのよ! どうやら船が港に着いちゃったみたいなのよ!」

「ふあ? じゃあ早く降りないとなの〜」

「降りないとなの〜じゃないのよ! 呑気に寝てたせいで、すっかり襲撃のタイミングを逃しちゃったのよ! どうするのよ⁉︎」


「だってえ〜、それはパルがトゥマールで買い食いばっかりして船代を使い込んじゃったから〜、仕方なく密航する羽目になったの〜」

「うぐっ!」

「普通に乗ってればこんな所に隠れる必要も無かったの〜。そうすればいくらでも襲撃のチャンスはあったの〜」

「う、うるさいのよ! チルだって一緒になって食べてたのよ! パルだけの責任じゃ無いのよ!」


「トゥマールのご飯、とても美味しかったの〜。また行きたいの〜。でも今はお腹いっぱいだから寝るの〜」

「だから寝るんじゃないのよ‼︎ 早く降りないと、またトゥマールに逆戻りなのよ‼︎」

「じゃあまたトゥマールのご飯食べれるの〜」

「お金無いんだから、戻っても何も食べられないのよ!」


 話し声に気付いた船員に見つかってしまうパルとチル。


「何だ⁉︎ そこに誰か居るのか⁉︎」


「マズイのよ! チル、逃げるのよ!」

「ふえ? 分かったの〜、グリフォン召喚なの〜」


「何だあっ⁉︎ 船の中に魔獣がああ⁉︎」


 召喚したグリフォンの背中に乗って、船から脱出するパルとチル。


「初めから召喚獣に乗って移動すれば良かったの〜」

「チルがすぐに寝ちゃって海に落ちちゃうからなのよ‼︎ て言ってる側から寝るんじゃないのよ〜‼︎ 落ちるのよ〜‼︎」



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