第77話 3大神! オオカミじゃないよ?

 宿屋に戻ったユーキ達。

 みんなを集めて、話し始めるユーキ。


「え〜、本日はお忙しい中お集まりいただき……」

「そういうのはいいから」

「ぶうっ!」


 緊張感漂う場を和ませようとしたユーキを、軽くあしらうパティ。


「んじゃあ、何から話そうか?」

「全部よ! ユーキの事全部! 好きな水着のタイプから今日の下着の色まで全部‼︎」

「いや、そんな事は話さないよ‼︎」


「じ、じゃあ百歩譲って下着の色だけで勘弁してあげるわ!」

「譲ってそっち⁉︎」


「パティ君。真剣な話なんだ、茶化さないでくれ。済まないユーキ君。最初からお願いできるかね?」

「最初から……じゃあ僕がこの世界に生まれた時の話から……」

「ユーキ君。そういう入りはマジなのかボケなのか分かりにくいからやめてくれないかね?」

「うう〜。僕がボケた時のみんなのツッコミが冷たい〜」


 せっかくのボケを、立て続けに冷たくあしらわれたユーキが、ようやく観念して語り始める。


「えっと……じゃあまずは、僕がリーゼルのマナ王女である事は間違いないみたい」

「そうだろう! そうだろう! 私がマナちゃんを見間違える訳がない‼︎」


 ユーキの言葉に安堵したマルス国王が喜びの声をあげる。


「でも、僕の中にはアイリスさんって言う人が居るの。あ、因みにアイリスさんは女神イースなんだけども。それで、そのアイリスさんが……」

「ちょっ⁉︎ ちょお〜っと待ってよユーキ‼︎ なに普通に話進めてるのよ⁉︎ 今、サラッととんでもない事言ったわよね⁉︎」


 サラッと流そうとしたユーキを、パティが慌てて制止する。


「とんでもない事? ケーキひとホールを1人で全部食べちゃった事?」

「とんでもないわね! じゃなくてっ‼︎ 今、アイリスさんが女神イースとか言ったわよね⁉︎」

「言ったね」


「言ったね、じゃないわよ! そんな重大な事、サラッと流すんじゃないわよ!」

「ま、まあまあパティ君。確かに軽く流せる事では無いが、今は話の続きを聞こうじゃないか」

「うう〜。わ、分かったわよ」

「ではユーキ君、頼む」


「うん。で、その女神イースが何で僕の中に居るのかって事なんだけど、ここからはアイリスさんの記憶も交えて話すね。この魔法世界を作ったのは3大神と呼ばれる3人の神様だってのはみんな知ってるよね?」


「まあ、常識ですからね」

「イースは、魔法と生命を司る女神様だよね」

「それに、ノインツで信仰されてる、娯楽を司る女神テトね」

「そして、戦いと死を司る神アビスなのです」


「そう、だけど実は神様ってのはこの3人だけじゃなくて、他にも沢山居るんだ」

「それは、ユーキ君が居たという異世界等も含めて、ということかね?」


「まあそんな感じ。中には3大神よりもうんと位の高い神様も居るんだけど、アイリスさんの戦闘能力は数多居る神々の中でもトップクラスだったらしいの」


「神々の戦い……何だかとんでもないスケールの話になって来ましたね」


「だけどいくら強くても、元々争いが嫌いだったアイリスさんは、本来敵であった魔族であるアビスの命を助け、同じく争いの嫌いな女神テトと共にこの魔法世界を作った」


「アビスが魔族?」


「でもその事がいわゆる上の神様にバレちゃって、アビスを殺せって言われたらしいけど、アイリスさんは断固拒否したの。ならばその代わりに神々の戦いに参加しろって迫られたけど、もう戦う事に嫌気が指してたアイリスさんはそれも拒否したの。だけどそしたら上の神様達が怒っちゃって、反逆の疑いがあるとかイチャモンつけて、今度はアイリスさんを殺しに来たの」


「何よそれ⁉︎ 神様のくせに無茶苦茶じゃないの⁉︎」


「うん、でも。それでも、アイリスさんはその神様達とは戦わなかった。本気で戦えば充分勝てる強さがあったにもかかわらず」

「優しい神様……」


「それで、ほとんど無抵抗のまま魔力を封印されてしまったアイリスさんは、ボロボロの体を引きずりながら逃げて、リーゼル国に辿り着いた」

「リーゼル……」


「そこでマナ王女……つまり僕と出会ったんだ。レノ兄ちゃんとの結婚式の日に」

「俺との結婚式の日。つまりはマナが行方不明になった日か……」


「そう。そこでアイリスさんの傷の治療をした後、妙に気が合った僕はアイリスさんと色んな話をしたんだ。自分が王女である事や、国を守る為にレノと結婚しようとしてた事も。勿論その時僕は、アイリスさんが女神イースだなんて事は知らなかったけど」


「そ、それで! その後どうなったのだ⁉︎ マナよ」


「うん。アイリスさんに話を聞いてもらって気持ちが落ち着いた僕は、結婚式の会場に戻ろうとしたの。だけどその時、アイリスさんを追いかけて来た神様達と出会っちゃったんだ」


「何と……」


「そこで僕はようやく、アイリスさんが女神イース様だって事を知ったんだ。勿論アイリスさんは僕に逃げろって何度も必死に訴えて来た。だけど僕は、魔法の使えないアイリスさんを見捨てて逃げる事がどうしても出来なかった」


「で、ではまさかユーキ君は⁉︎」


「うん。神様相手に勝ち目なんか無いって分かってたけど、アイリスさんを守る為に神様達にケンカ売っちゃったんだ」


「ユーキ、本当に神様にケンカ売ってたのね?」

「な、何と無謀な……」


 そこでマルス国王がある事を思い出す。


「ハッ! ではあの時感じた強大な魔力のぶつかり合いがまさか⁉︎」

「うん。多分僕と神様達が戦ったせいだと思う」


「そ、それでその後どうなったんですか⁉︎」


「ま、まあエターナルマジックを駆使したりして少しは頑張ったんだけど、やっぱりダメだった。最後は、神様の強力な一撃を食らった所で、マナとしての記憶は終わってるんだ」


「ま、まさかユーキはその時……」


「えと、ここからはまたアイリスさんの記憶になるんだけど、神様の一撃を食らった僕は瀕死の状態だった。アイリスさんが魔法を使えたならそれぐらいの傷、あっという間に治せたんだけど、魔力を封印されていたアイリスさんは、今にも命が消えそうな僕を助ける為に、最後の手段に出た」


「それがまさか?」


「そう。僕を助けるただ1つの方法が、アイリスさん自身の肉体と魂を、僕と融合させて1つになる事!」

「そ、そうか! それがユーキさんの中にアイリスさんが居る理由なんですね?」

「ふむ……そしてユーキ君が普通ではあり得ない特殊能力を持っていたり、たまに爆発的な強さを発揮する事にも納得がいく」


「しかしマナよ! それではお前が2年もの間行方不明になっていた事の説明がつかないぞ⁉︎」


「あ、うん。どうやらその後、僕は向こうの世界に飛ばされたみたいなんだけど、実はそこから先は僕もアイリスさんも眠りに入ったから、正直詳しい事情は知らないんだ」


「何と……そこが1番知りたかったのだがね……」

「その後の事は、あたしが話すニャ‼︎」


 みんなが残念そうな顔をしていると、聞き覚えのある声が響き渡る。


「猫師匠⁉︎ どういう事? その時の事知ってるの⁉︎」

「当然ニャ! 何しろあたしは一部始終を見ていたからニャ!」


「何で師匠がその現場に居たのよ? そんな神様達が戦ってるような現場に⁉︎」

「だってあたしも神様ニャ!」

「いや、そんなギャグはいいから!」

「フニャ⁉︎ いやいや、ギャグじゃないニャ! これは本当の事ニャ!」

「だから〜‼︎」


 全く信じようとしないパティに、ユーキが真実を告げる。


「パティ! 猫師匠の正体は女神テトだよ?」

「なあっ⁉︎」


 絶句して固まるパティ。


「何と⁉︎ 女神テトまで⁉︎」

「ぼ、僕達とんでもない人達と知り合いだったんですね……」


 依然固まったままのパティ。


「全く……師匠の言葉は信じないくせに、ユーキの言葉はあっさり信じるのかニャ⁉︎」

「日頃の行いのせいでしょう」


 猫師匠に続いてフィーが入って来る。

 そして何とか動けるようになったパティが、フィーを問い詰める。


「フィー‼︎ もしかしてあんた、師匠が女神テトだって事も知ってたの⁉︎」

「勿論です。だって私は3大神の1人、アビスの妹なんですから」

「アビス? ち、ちょっと待ちなさいよ‼︎ あんた確か準決勝の時、自分はカオスの妹だって言ったわよね⁉︎ あれはやっぱり出まかせだったの⁉︎」


「ですから、そのカオスが元魔族の神、アビスなんです」

「んなっ⁉︎」


 またしても絶句するパティ。

 そしてみんながある重大な事実に気がつく。


「え⁉︎ ち、ちょっと待ってください‼︎ カオスの正体が神アビスで、フィーさんがそのアビスの妹って事はフィーさんも神様って事で、じゃあその娘であるパティさんも……」


 しかし、既にキャパオーバーしたパティは、物言わぬ石像と化していた。


「返事がありません。ただの石像のようですねぇ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る