第76話 言葉の響きって大事

 優勝したユーキに、勝利者インタビューが行なわれようとしていた。


「ご来場の皆様! そしてこの中継をご覧になっている全世界の皆様! ただ今より、見事! この五国統一大武闘大会を制覇しました! リーゼル国王女、マナ選手の喜びの声を聞きたいと思います! マナ選手! 優勝おめでとうございます‼︎」


「あ、ありがとうございます」


 客席から大歓声が沸き起こる。


「ユーキちゃ〜ん‼︎ おめでと〜‼︎」

「可愛くて強いなんて最高〜‼︎」

「姫様〜‼︎」


「本日の決勝戦。途中で魔石が砕けるというハプニングがあったにも関わらず、最後には物凄い魔法を放ってフィー選手の戦意を喪失させました。魔装具も使わずに、一体どうやってあんな凄い魔法を使えたんでしょうか?」


「ああ〜、えっとお……とある人からの教えで、魔装具が無くても魔法を使う事は出来るって聞いたから試してみたの」


「そうだったんですか〜! もうダメかと思われた状態からの大逆転優勝! 素晴らしかったです!」

「あ、ありがと……」


「そして今大会での優勝者は、統一国の王を指名、もしくは自分自身が王になる権利が与えられます。名前は仰らなくても結構ですが、もう既にどなたか候補者は決まっていますか⁉︎」


「うん、まあね」


「ユーキちゃんが王になってくれ〜‼︎」

「俺、ユーキちゃんが王様なら一生ついて行くよ〜‼︎」


「客席からユーキ選手を推す声が上がっていますが、ズバリ! ユーキ選手自身が王になるつもりはありますか⁉︎」


「いやいや! 僕は王にはならないよ! とてもそんな器じゃ無いから、もっとしっかりした人にお願いします」


 ユーキが宣言した途端、客席から大ブーイングが起こる。


「強さと美貌を兼ね備えた王様なんて、ユーキちゃんの他に居ないよ〜‼︎」


「あ、あたしが居るニャ‼︎」


 さり気なくつっこむ猫師匠。


「絶対ユーキちゃんが王様だ〜‼︎」

「他にはあり得ないよ〜‼︎」


「ユーキ選手、みなさんはああ仰ってますが?」

「だ、だからならないって言ってるでしょ⁉︎」


「何でだよ〜⁉︎」

「そうだ〜‼︎ 納得のいく理由を言え〜‼︎」


 観客のしつこい追及に、インタビュアーのマイクを奪い取り叫ぶユーキ。


「お……」

「お?」


「王女様とか姫様っていう響きはいいけど……女王様っていう響きは何かヤなの〜っ‼︎」


「ええええええ〜‼︎」


 まさかの理由にズッコケる観客達。


「じゃっ‼︎」


 ビシッと手を上げて、逃げるように去って行くユーキ。


「こら〜‼︎ 逃げるなユーキちゃ〜ん‼︎」

「そんな理由なら、いつまでもずっと姫様って呼ぶから〜‼︎」

「考え直して〜‼︎」



「ユーキさん……あれ、本気で言ってるんでしょうか?」

「ふむ、まさかな……だが、もし本当にそれが理由なら話は簡単なのだがね」


 逃げ出したユーキが、闘技場の端で控えていたパティ、セラと合流する。


「ユーキ‼︎ おめでと〜‼︎」


 勢いよく抱きつこうとするパティを、反射的にかわすユーキ。


「ぐふっ‼︎」


 ユーキにかわされた為に、そのまま地面にスライディングする格好になるパティ。


「ちょっとユーキ‼︎ 何で避けるのよ〜⁉︎」


 ガバッと起き上がり、涙目で訴えるパティ。


「あ、いやゴメン。つい……」

「そりゃぁ、パティちゃんが勢いよく迫って来たら誰だって逃げますよぉ。怖くてねぇ」

「何ですってえ〜⁉︎ もう一度言ってみなさいよセラ〜!」


 黒いオーラを放ちながら、ユラ〜っと立ち上がるパティ。


「そりゃぁ、パティちゃんが勢いよく迫って来たら誰だって逃げますよぉ。怖くてねぇ」

「何、一字一句違えず再現してるのよおお‼︎」


 セラの頭にアイアンクローを掛けるパティ。


「痛たたたたぁ〜‼︎ もう一度言えって言われたから言っただけですぅ‼︎ それで怒られるのは理不尽ですぅ‼︎」

「屁理屈ゆ〜な〜‼︎」


 その後、アイバーン達と合流するユーキ達。


「ああっ! 優勝おめでとうございます! ユーキさん!」

「うん、ありがと」


「これでユーキ君は晴れて統一王に……」

「ならないからね!」


「ユーキ姉様凄い!」

「ネムだって制限さえ無かったら、充分優勝の可能性はあったよ」


「さすがは我らの主なのです! これで歌でも出せば大ヒット間違いなしなのです!」

「すぐお金儲けの事考えるのやめなさい!」


「マナ! 我が妻として誇らしいぞ!」

「もうっ! レノとの婚約は破棄されたでしょ⁉︎」


「マナ王女! いや、これからはマナ女王とお呼びしないとな!」

「だから〜! その響きがイヤなんだってば〜‼︎」


「見事だ! マナよ!」

「父様……」

「さあ! 後は私と結婚して、2人で統一国を盛り上げて行こう‼︎」

「何でそうなるのよっ‼︎」

「あ〜な〜た〜」


 マルス国王の背後に忍び寄るレナ王妃。


「マナちゃんと結婚するのは私だって言ったでしょお〜!」


 マルス国王にストレッチプラムをかけるレナ王妃。


「だ、だから怒るポイントが違うぞ‼︎ レナよ‼︎」



 みんなの祝福を受け、宿屋に帰ろうとするユーキ達を、パティが呼び止める。


「あっ! ちょっと待ってユーキ!」

「どしたの? パティ」

「フィーと猫師匠をとっ捕まえて、隠してる事洗いざらい全部吐かせなきゃ!」


「ああ〜、それなんだけど、もう大丈夫だよ」

「え⁉︎ 大丈夫ってどういう事?」

「もう全部分かったから、僕の事。僕が一体何者で、2年前にどうして行方不明になったのか。そしてそのあと何があったのかも全部」


「本当かね? ユーキ君!」

「うん」

「それは是非私達にも聞かせてほしいな! マナよ」


 近くに居たマルス国王が、アイバーン達をかき分けて前に出て来る。


「うん、全部話すよ……それは……」

「それは……?」


「CMの後で!」

「いや、バラエティー番組かっ‼︎」


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