第54話 ウルトラマンじゃないよ?

 トトと対峙しているユーキが、昨晩BL隊のメンバーから受けたアドバイスを思い出す。


『何かカオスの正体を暴く手は無いですかね?』

『ありますよぉ』


 メルクの問いにセラが答える。


『え⁉︎ 本当ですか⁉︎ セラさん!』

『えぇ、マジックイレーズの結界を仕掛ければいいんですぅ。トトが遠隔操作で操られている死体ならぁ、それで魔法が解除されてトトは動かなくなる筈ですぅ』

『そうか! なるほど。ユーキさん、その手で行きましょう!』

『う、うん……』


『ちょっと待って!』

『どうしたんですかパティさん⁉︎ 何か気になる事でも?』

『そういう特殊効果系の魔法は、仕掛ける側の魔力が相手の魔力を上回ってないと発動しないんでしょ?』

『そうですねぇ』

『なら、エターナルマジックを制限されてるユーキが、カオスの魔力を上回るのは無理なんじゃないの?』

『あ! た、確かに……』


『それともう1つ』

『まだ何かあるんですか? アイバーン様』

『もし仮に、ユーキ君がカオスに上手くマジックイレーズを仕掛けられた場合、残ったトトはただの死体となる』

『そうか! 事情を知らないレフェリーからすれば、マナがトトを殺したと取られて失格になる⁉︎』


 アイバーンの説明をレノが理解する。


『そういう事だ』

『ああ! 一体どうすればいいんですか⁉︎』


 黙って聞いていたブレンが口を開く。


『やはり最初から全員でトトを抑えればいいだろう!』

『馬鹿者! 乱入するのはあくまで最終手段だ! 我々の目的はユーキ君を統一国の王にする事。正式な形でなければ、国民も納得しない』

(いや、そもそも僕は王になりたくて参加してる訳じゃないんだけど)


 と言いたいのをグッとこらえるユーキ。


『あ、あの〜、1つ案があるんだけど……』


 ユーキが恐る恐る手をあげる。


『む? 何かね? ユーキ君』

『対戦相手を殺したら失格になるって言うなら、僕がワザとカオスに殺されてカオスを失格にした後、フィーに生き返らせてもらうっていうのは……?』


『ダメよ‼︎』

『駄目だ‼︎』

『駄目ですよ‼︎』

『ダメですぅ‼︎』

『ダメ‼︎』

『ダメなのです‼︎』

『駄目だぞ‼︎』

『駄目に決まっているだろう‼︎』


 BL隊の全員から一斉に否定されてたじろぐユーキ。


『そ、そんな、みんなして否定しなくても……』


『ユーキにそんな危ない真似はさせられないわ‼︎』

『そうですよ! いくらフィーさんがネクロマンサーだからって、確実に生き返れる保証は無いんですから、危険過ぎます!』


『それにだ。もしもそれでカオスを失格に出来たとしても、直後にユーキ君が生き返ればカオスの失格は無効になり、結局はユーキ君が敗退してしまう事になるだろう』


 アイバーン達に説得され、渋々納得するユーキ。


『そっか〜。良い案だと思ったんだけどな〜』


『いや、それ良いですねぇ。その案で行きましょぉ』

『セラ⁉︎ 何言ってんのよ⁉︎ ユーキに危ない真似はさせられないって……』

『ですからぁ、やるのはユウちゃんじゃなくてですねぇ』


 セラが作戦を皆に伝える。


『た、確かにそれなら! どうですか⁉︎ アイバーン様⁉︎』

『ふむ……確かに相手が相手だけに、今回に限り許可しよう。別に公式ルールという訳ではないしね』

『元々アイバーンが勝手に言ってるだけ』


 ネムの一言が、チクリとアイバーンの胸を刺す。


『むぐっ! ど、どうかねユーキ君。やれそうかね?』

『う、うん。多分出来ると思う』

『じゃあ姉様。この子なんてどうかな?』

『お⁉︎ これなら誤魔化せるかな?』



 そして現在。


(作戦はある。あとは実行するだけ!)


 魔装具を具現化させて、銀色のカートリッジをセットするユーキ。


「魔装‼︎」


 魔法陣がユーキの体を通過すると、魔道士タイプとほぼ同じ白い魔装衣をまとったユーキが現れる。

 しかし魔装具はロッドタイプから魔道書タイプに変わっていた。


「ああっと、まずはユーキ選手が魔装しましたが、見た目は魔道士タイプとほとんど変わりませんが、何やら魔道書のような物を持っています! これは今まで見た事の無い、新しいタイプの魔装のようです! 一体どんな能力を見せてくれるんでしょうか⁉︎」



 足元の地面に白い魔石を置き、魔道書を開くユーキ。


「召喚‼︎ ベリエル‼︎」


 魔石を中心に魔法陣が広がり光を発する。

 その魔法陣から現れたのは、服も翼も全て真っ黒の天使のような姿をした召喚獣だった。



「ああーっとお‼︎ ユーキ選手が描いた魔法陣から天使らしきものが現れました〜‼︎ これは召喚獣なのでしょうか⁉︎ 何とユーキ選手。まさかの召喚獣まで呼び出せるとは、もう完璧超人だ〜‼︎」



「天使? でも全身真っ黒だぞ⁉︎」

「天使ってもっとこう、白くて清らかなイメージがあるけど」

「もしかしてあれじゃない? 堕天使って奴」

「天使なユーキちゃんと堕天使の組み合わせ。何かカッコイイ〜!」


 ネムがBL隊のみんなに説明していた。


「堕天使ベリエル。今回の作戦にびったり」

「でも真っ黒ですけど、大丈夫なんですか?」

「大丈夫。ベリエルはユーキ姉様と合体した時に、本領を発揮する」


 ベリエルを見たトトが、何故か不満げな顔をしている。


「堕天使ねえ……僕への嫌がらせかな? まあ、それはどうでもいいんだけど。ねえ! ユーキお姉ちゃん! まさかそんなお人形で僕に勝てるなんて思ってないよね⁉︎」


「大丈夫! 本番はここからだよ!」


 魔道書を閉じ、右手を魔道書に添えて叫ぶユーキ。


「獣魔装‼︎ ベリエル‼︎」


 ベリエルとユーキの姿が光に包まれ、ベリエルがユーキと重なってより一層強い光を放った後、姿を現わすユーキ。

 それは、白を基調とした中に所々黒が混ざった衣に、同じく根元が黒で先に行く程白くなっている翼を持った、正に天使のような姿だった。



「天使来たああああ‼︎」

「ユーキちゃん綺麗〜」

「ユーキちゃん、マジ天使だったああ‼︎」



「何とおおっ‼︎ 先程ユーキ選手が出した天使とユーキ選手が合体しましたああ‼︎ 召喚獣と合体というのは、1回戦でネム選手が披露していましたが、確かユーキ選手は先程既に魔装していた筈です! こ、これは2段魔装とでも言うのでしょうか⁉︎ 全くユーキ選手には驚かされっ放しです‼︎」



 しかし、どこか恥ずかしそうなユーキ。


(あんまり言わないで……元々はネムの技を真似してるだけなんだから……)


 申し訳なさから、ふと客席のネムを見てアイコンタクトを取るユーキ。


(ゴメンね、ネム。本来なら注目されるのはネムの筈なのに)


 ユーキの視線を感じて、コクリとうなずくネム。


(分かってるわ、ユーキ姉様。結婚したら一緒にラーメン屋さんを作りましょ。何味にする? 豚骨ラーメン?)


 コクリとうなずき返すユーキ。


(ありがと。ネムの分まで頑張るから見ててね)


 ユーキのうなずきに、笑顔で答えるネム。


(やっぱりラーメンは豚骨よね。看板娘が2人も居たら、大繁盛間違い無しよ)




 全く伝わっていないが、お互い納得した2人であった。



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