第48話 フィーは伸ばすけど、パティとキティは伸ばさない

 控え室で試合を見ていたパティも、ネムの敗北に驚いていた。


「いくら能力を制限されてるとはいえ、まさかあのネムが負けるなんてね。ロロのあの弱り方を見る限り、フィーに何かされたんでしょうけど……それにしてもフィーの奴、ホント腹立つわね! 17年も一緒に居て、一度も能力を見せなかったくせに!」


 パティが憤慨していると、スタッフが控え室に入って来る。


「パティ選手! まもなく入場となりますので、準備をお願いします!」

「ええ、分かったわ!」


 控え室から出て来たパティが、試合を終えたネムと鉢合わせる。


「あ! パティ姉様!」

「ネム⁉︎ お疲れ様。試合、残念だったわね」

「うん、でも仕方ない……」

「ロロが不甲斐ないばかりに、申し訳ないのです」

「ロロのせいじゃない! 相手が悪かっただけ……」

「ふ〜ん、まあその辺の事は試合が終わったらゆっくり聞かせてもらうわ」


「姉様頑張って!」

「必ず勝ってくださいなのです!」

「ええ、ありがと! 必ず勝ってユーキと結婚してみせるわ! あんた達も結婚式には呼んであげるわよ! じゃあね!」


 パティの言葉に、少しムッとした顔のネムとロロが、去って行くパティについ嫌味を言ってしまう。


「あっ、でもパターン的にはパティ姉様も負け組になりそうだから、気を付けて!」

「戦いが終わった後に結婚というのは、死亡フラグなのです!」

「もう! 試合前にヤな事言わないでよね‼︎」


 一方、同じく控え室から出て来たキティも、フィーと鉢合わせていた。


「フィー! 危なっかしい試合だったけど、どうにか勝てたみたいね⁉︎」

「そうですね……あのネムという娘の強さは本物です。たまたま私の能力があの娘達にとって最悪の相性だったから勝てたようなものです。もしも相手が私ではなくキティちゃんだったなら、間違いなく負けていたでしょうね」

「フィー⁉︎ 誰が負けるって⁉︎」

「いいえ、マカダミアナッツを栽培したいって言ったんです」

「育てる方⁉︎」


 お互いがそんなやり取りを終えた頃、いよいよ1回戦最後の試合が始まる。


「さあそれでは、本日の最終試合並びに1回戦最後の組み合わせ! パティ選手対キティ選手の試合を行いたいと思います! まずはGの枠、パティ選手の入場です‼︎」


「パティ様〜‼︎ 頑張ってくださ〜い‼︎」

「お姉様、素敵〜‼︎」

「思いっきり罵って〜‼︎」


「だから、何であたしのファンは片寄ってるのよ⁉︎」


「今まで数々の対戦相手を、その多彩な技と強烈な毒舌によって葬って来ました‼︎」


「毒舌って何よっ‼︎」


「その体から発する禍々しいオーラは、見ただけで相手を萎縮させると言われています! 漆黒の悪魔こと、パティ様だ〜‼︎」


「悪魔ゆ〜なって言ってるでしょ‼︎」


「しかも何と! ベルクルの闘技場において、あの天使なユーキちゃんを倒した唯一の女性でもあります!」


「紹介長いわね〜」


「まあその後、ちゃっかりユーキちゃんにリベンジされましたけども……ヒッ‼︎」


 パティの放ったアローズが実況席前の魔法障壁に当たって消滅していた。


「あんた、いい加減にしないと風穴開けるわよ」


 黒いオーラを放ちながら、実況者を睨みつけるパティ。


「ヒイイッ‼︎ も、申し訳ありませんでした! つい調子に乗ってしまいました! そそ、それでは気を取り直して本戦トーナメント最後のH枠より、キティ選手の入場です‼︎」


「キャア〜‼︎ キティちゃんかわいい〜‼︎」

「猫耳幼女来たああああ‼︎」

「その耳触らせて〜‼︎」


「フフンッ、あたしの人気も中々のもんね」


「予選試合ではその戦闘能力を測る事は出来ませんでしたが、同じ10歳のネム選手が先程凄まじい動きを見せてくれましたので、キティ選手にも大いに期待したいと思います‼︎」


「期待してくれていいわよ」


 そして1回戦最終試合が開始され、パティとキティ共に魔装具を具現化させて、ほぼ同時に魔装する2人。


「魔装‼︎」

「魔装‼︎」


 パティはお馴染み、魔道士タイプの黒い魔装衣に杖といったスタイルだが、何とキティも色こそ違えど、パティと同じ魔道士タイプの魔装だった。


「試合開始と同時に2人揃って魔装しましたが、両選手共に魔道士タイプの魔装です! しかしパティ選手は黒を基調とし、キティ選手は銀を基調としたカラーリングとなっております! 同じ魔道士タイプ同士、白熱した魔法合戦が期待できそうです!」



 パティとキティの試合が始まった頃、ネムとロロがユーキ達の居る客席にやって来る。


「あの……ただいま……」

「あ、ネム! ロロ! おかえり!」

「ただいまなのです」


 落ち込んだ様子のネムとロロに声をかけるユーキ。


「ほら! 2人共そんな暗い顔しないで! 詳しい事情は知らないけど、勝負は何が起こるか分かんないしさ……今日はたまたまツキが無かっただけだよ! ね?」

「うん、ありがと……でも、しばらくは立ち直れそうにないから、ユーキ姉様の胸で泣いてもいい?」

「あ! ロ、ロロも泣きたいのです!」


「オーケー! じゃあ2人共僕が慰めてあげるから、こっちおいで!」

「うん……」

「ハイなのです」


 そう言ってユーキの両サイドに座るネムとロロ。

 もたれかかっているネムとロロの頭を優しく撫でるユーキ。


「姉様……ネム、絶対優勝してユーキ姉様と結婚したかったのに負けちゃった……」

「うん……でも、ネムもロロも凄く頑張ってたよ。もし次やったら、今度は絶対ネム達が勝つよ」

「ホント?」

「2人の強さはみんなが認めてるんだから、間違いないよ」

「うん……信じる……」


(ネム君、ロロ君。2人共なんて羨ましい)

(俺様も慰めてほしい!)

(一応俺達も負け組なんだが……)

(さすがにネムちゃん達みたいにはできませんよね〜)


 ユーキに慰められている2人を、羨ましそうに見ているアイバーン達負け組男性陣。


(んふふ〜、ネムちゃんもロロちゃんもぉ、負けて落ち込んでるのを装って、旨くやりましたねぇ)


「でも、パティさんが居なくて良かったですね? もしこんな所を見られたら、どれ程激怒するか」

「ハハ! 今パティは試合の真っ最中なんだから、さすがに気付かないよ!」


「ネム‼︎ ロロ‼︎ 今は見逃してあげるけど、いつまでもくっついてたら後で酷いわよ‼︎」


 ちゃっかり見ていたパティに釘を刺されるネムとロロ。


「パ、パティ、見てたのね?」

「ロロ、どうしよ?」

「し、試合が終わったと同時に逃げるのです!」



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