第45話 我慢はストレスを溜めるだけ

 アイバーンの治療を続けるユーキに、トトが声をかける。


「ありがと、ユーキお姉ちゃん! おかげで失格にならずに済んだよ。団長さんったら、僕の言う事全然聞いてくれないんだもん」

「トト……」

「大人気ない事をして済まなかったね、トト君。だがユーキ君ならば、必ず君を倒してくれるだろう。それは君自身が、1番よく分かっているだろうがね」


 アイバーンの言葉を聞いて、ニヤリと笑うトト。


「フフッ、楽しみにしてるよ、ユーキお姉ちゃん。じゃあ、準決勝でね〜!」


 片手を振りながら去って行くトト。

 ユーキの肩を借りながら、アイバーンも退場して行く。


「アイ君、さっきトトに言ってたの、どういう意味? 自分が1番分かってるとかなんとか」

「ん? ああ。私の考えが正しければ、あのトトという少年の正体は……カオスだ!」

「え⁉︎ ……アイ君……頭打った? カオスはあんな子供じゃないよ?」


 残念そうな顔でアイバーンを見るユーキ。


「いや、そんな可哀想な人を見る目で私を見ないでくれたまえ!」

「ああゴメン、ちょっとからかった」

「勿論根拠はある。あの戦闘スタイルと身のこなし。何よりあの魔力の質……この身に直接受けたのだ、間違いない!」

「そりゃ確かに、戦闘スタイルはカオスに似てるな〜とは思ったけど、まさかカオス本人だとは思わなかったな〜、子供だし」


「見た目などは幻術でどうとでもなる。問題なのは、どうやってリーゼル城の牢獄から抜け出して来たのか……」

「う〜ん、そこはまあ父様を締め上げれば分かると思うけど……でもカオス、何しに来たんだろ? もしかして、統一王座を狙って?」

「いや、この大会はパラス陣営の参加は認められていない。したがって、もし仮にカオスが優勝したとしても、統一王になる事は出来ない」

「そっか〜、じゃあ単純にバトルを楽しむ為かな〜? ただ闘いに来ただけならいいんだけど……」


(カオスの狙いがユーキ君の命である事は、今は黙っていた方がいいか?)



 その頃闘技場では、第3試合が行われようとしていた。


「第2試合は王国騎士団の団長が敗れるという大波乱が起きました! 見た目で強さを判断出来ないとはよく言ったものです! 本日、残り2試合に出場する選手4名全てが10代の少女という事実が、それを裏付けています!」


(んふふ〜、怪しい人も混ざってますけどねぇ)


「それではただ今より、トーナメント1回戦第3試合を行いたいと思います‼︎ まずはEの枠、ネム&ロロ選手の入場です‼︎」


 大歓声に包まれながら、ネムとロロが入って来る。


「ネムちゃんかわいい〜‼︎」

「うちの子になって〜‼︎」

「美少女召喚して〜‼︎」

「オタク黙れっ!」

「ロロちゃ〜ん‼︎」

「よっ! 最強メイド様〜‼︎」

「僕の専属メイドになって〜‼︎」

「オイ! そのオタク、摘み出せ‼︎」


「はわわっ! 誘われても困るのです! ロロの主はネムとマスターユーキの2人だけなのです!」

「ロロ、いちいち反応しなくていい」



「若干10歳の幼い少女ながらも、最強のメイド様召喚獣ロロちゃんを従えるネム選手! それもそのはず、ネムちゃんは今は亡き召喚士一族の国家、シェーレ国の王女様なのです‼︎ 見事優勝して、シェーレを復興させる事が出来るでしょうか〜⁉︎」


「ネムはユーキ姉様を王様にして、ただずっと側に居たいだけ……」



「続きましてFの枠、フィー選手の入場です‼︎」


 知名度は無いが、見た目がかわいいせいで大きな声援を浴びながら入場して来るフィー。


「フィーちゃんもかわいい〜‼︎」

「ネムちゃんもフィーちゃんもかわいいよ〜! どっちかなんて選べない〜!」

「どっちもケガしないでね〜‼︎」

「2人共嫁に来て〜‼︎」

「早くそのオタク、逮捕しろっ‼︎」


「ネムちゃんに負けず劣らずの美少女フィーちゃん! プロフィールによりますと、年齢は12歳となっております。奇しくも同年代の少女対決となりましたこの試合。未だその戦闘力は未知数ですが、はたしてどの様な試合になるんでしょうか〜⁉︎」



「やっとキティちゃんのお守りから解放されました……」



「それでは、試合開始です‼︎」



「ロロ、行くよ!」

「ハイなのです!」

「魔装‼︎」


 ネムとロロを包むように地面に魔方陣が現れる。

 光になったロロがネムと重なり、その光が消えると、少し成長した姿のネムが現れる。


「フフッ、予選ではただ見てるだけでつまんなかったからね! あっばれっるぞ〜‼︎」


 ネムの魔装に、観客の誰もが驚愕していた。


「ええええ〜⁉︎ 合体したあああ⁉︎」

「ネムちゃん、何だか少し大人になったみたいだけど、どういう事⁉︎」

「変身して成長って、プリキ◯アか?」

「あれってまさか、魔装なのか⁉︎」



「なな何とおおお‼︎ ネムちゃんがロロちゃんと合体しましたあああ‼︎ これは魔装なのでしょうか⁉︎ しかしわたくし、長年この闘技場で実況をやっておりますが、召喚士の魔装など、一度も見た事がありません‼︎ ネムちゃん、何と恐ろしい娘だあああ‼︎」



「やっぱり皆さん驚いてますね」

「そりゃあ誰だって驚きますよぉ、でもぉ、まだ更に獣魔装なんて物まであると知ったらぁ、みんなどんな顔するでしょうねぇ」

「そうですね……制限がかかってますから、今大会で見せられないのが残念ですが」



 ネムの魔装を見て、驚きの表情をしているフィー。


(召喚士の魔装ですか……シェーレの王族が、皆それ程の素質を持っていたのか、それともこのネムという少女の才能が飛び抜けているのか?)



「みんなネムの魔装に驚いてるみたいだね」


 アイバーンの治療を終えたユーキが、アイバーンと共に客席にやって来る。


「アイバーン様! ユーキさん! 2人共、お疲れ様でした」

「セラ! アイ君の治療、ちゃんと出来てるか確認してほしいんだけど⁉︎」

「了解しましたぁ」


 アイバーンの体を触り、状態を確認するセラ。


「ユーキさん、アイバーン様を助けていただいて、本当にありがとうございました!」


 立ち上がり、ユーキに深々と頭を下げるメルク。


「いやいや! 僕も無意識に飛び出してただけだから! 一歩間違えたら試合をぶち壊す所だったし、反省してます」

「何を言うか、マナ王女よ!」

「レン君?」

「君が体を張って止めてくれたおかげで、俺様は大切な友を失わずに済んだのだ! 俺様からも礼を言わせてもらう、ありがとう‼︎」


 メルクに並んで深々と頭を下げるブレン。

 その光景に、周りから注目されまくるユーキ。


「もういいって! 分かったからやめて〜! 逆にイジメだよ〜‼︎ そ、そうだセラ! アイ君の状態はどう⁉︎」

 

 辱めを受けているユーキが、話をそらす。


「ハァイ、完璧に治ってますよぉ」

「そっか、良かった」

「もうユウちゃんはぁ、ヒーラーとしても充分お金を稼げるレベルですねぇ」

「そ、そう? じゃあ治療代としてアイ君に何か買ってもらおっかな〜⁉︎」


 冗談半分に言うユーキ。


「む⁉︎ そうだな。命を助けてもらったのだ、何か礼をしたい所だが、あいにくと今は持ち合わせが無くて……そうだ! ならばこの体で返そう‼︎」


 そう言って海パン一枚になるアイバーン。


「久しぶり〜‼︎」

「ぐはあっ‼︎」


 即座にユーキのトラースキックを顔面に受けて、客席を転がり落ちて行くアイバーン。


「ぐわああああああああ〜‼︎」


「あ〜あぁ、また治療のやり直しですねぇ」

「アイバーン様……ずっと脱ぎたいのを我慢してたんですね……」



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