第44話 それを言っちゃあダメ!
一瞬意識が飛び、崩れ落ちそうになるアイバーンだったが、剣を支えにして、何とか倒れずに踏み止まる。
「くっ!」
「ほらあ、もう無理だって! 早く負けを認めてよ! 対戦相手を殺しちゃったら失格になっちゃうじゃない⁉︎ そしたらユーキお姉ちゃんと戦えなくなっちゃう!」
「なん……だと⁉︎ ま、まさか君もユーキ君と結婚する為に?」
「ああ違う違う!」
アイバーンに近付いて、耳元で囁くトト。
「僕の目的は〜……ユーキお姉ちゃんを殺す事」
「何だとっ⁉︎ 貴様! もしやパラスの者かっ⁉︎」
「フフッ、否定はしないけど安心して。これは僕個人がやってる事だから、国は関係無いよ」
剣先を下にして地面に刺し、片膝をつくような格好で構えるアイバーン。
「単純にユーキ君との結婚を考えての事ならばとやかく言うつもりは無かったが、ユーキ君の命を狙っていると聞いた以上、貴様をユーキ君と戦わせる訳にはいかない!」
「あの構えは、まさかっ⁉︎」
「いけません‼︎ アイバーン様‼︎」
アイバーンの構えを見て、激しく狼狽するメルクとブレン。
「え⁉︎ どうしたのさ、2人共そんなに慌てて⁉︎」
「あの構えはアイバーン様の最終奥義なんです! だけど、自分の体にかかる負担も尋常じゃないって仰ってました!」
「今のボロボロの体であの奥義を使ったら、アイバーンは間違いなく死ぬ!」
「そんな⁉︎ でも何で⁉︎ いくら統一国の王を決める大会だからって、命を賭けてまでやる事じゃないでしょ⁉︎」
「分からないが、さっきアイバーンの耳元でトトが何か呟いたようだった。それが原因かもしれない」
「アイ君‼︎」
詠唱を始めるアイバーン。
『空と海と大地から成る世界を凍てつかせ』
地面に刺さった剣を引き抜き、再び地面に突き刺すアイバーン。
「詠唱? へえ〜、何か大技を出すつもりだね? うん、面白そうだから待っててあげるよ!」
アイバーンの詠唱を邪魔する事なく、じっと待っているトト。
『体と心と魂から成る存在を凍てつかせ』
再び剣を引き抜き、地面に突き刺すアイバーン。
その度に剣から冷気の輪がほとばしる。
「あの動きはやはり! 間違いありません、アイバーン様は奥義を放つつもりです!」
「そうなの⁉︎」
『過去と未来を紡ぐ時を凍てつかせよ』
「あの何度も剣を地面に抜き差しする動き……あれを8度繰り返した時、アイバーン様の最終奥義が発動するんです!」
「ええ〜⁉︎ なら、早く止めないと‼︎ 今何回目⁉︎」
「私はまだ3回しかおかわりしてないですよぉ」
「セラお姉ちゃん、こんな時にボケないで〜‼︎」
『極寒の世界にてその身を引き裂かれ』
(今の状態で奥義を放てば、おそらく私の肉体は耐えられないだろう)
アイバーン自身、命懸けという事は分かっていた。
『極寒の息吹きにてその心を引き裂かれ』
(いや、それどころか、あのトトという少年の正体が私の考え通りなら、いくら奥義を放った所で致命傷を与える事は難しいだろう)
『極寒の
(だが、例えそうだとしても! これが無駄な行いに終わろうとも! ユーキ君の為ならばこの命、惜しくはない‼︎)
『
アイバーンが7度目の剣を抜き、正に奥義を放とうとした瞬間、凄まじい勢いでユーキが飛びついて来る。
「アイ君‼︎ ダメええええええ‼︎‼︎‼︎」
「ぐふうっ‼︎」
アイバーンの周りの地面に、ユーキが撃ち込んだ羽による結界で、発動寸前だったアイバーンの魔法がかき消される。
ユーキに抱きつかれたアイバーンが、その勢いのまま地面を滑り、数メートル先で停止する。
「おおーっとおおお‼︎ まさかの乱入だあああ‼︎ アイバーン選手が何か大技を放とうとしていた時、突如客席からユーキ選手が飛び込んで来て、アイバーン選手の魔法の発動を阻止しましたあああ‼︎ こ、これは一体どうなるんだあああ⁉︎」
控え室に居たパティ達も、その光景に驚いていた。
「ユーキ⁉︎ 一体何やってるのよ⁉︎」
「ユーキ姉様⁉︎」
「乱入なのです」
「ユーキ、賢明な判断ニャ! あのまま奥義を放ってたら、間違いなくアイバーンは死んでいたニャ!」
「最早キティちゃんを演じるつもりもないんですね⁉︎」
「痛たたた……ユ、ユーキ君⁉︎ どういうつもりなのかね⁉︎ いきなり試合中に飛び込んで来て⁉︎」
アイバーンの胸に埋めた顔を上げて、涙目で叱るユーキ。
「どういうつもり? それはこっちのセリフだよ‼︎ どういうつもりだよ、アイ君⁉︎」
「な、何を⁉︎」
「奥義を撃とうとしてたんでしょ⁉︎ 撃てば死ぬと分かってて奥義を撃とうとしたんでしょ⁉︎」
「うぐっ! いや、それは……」
「何で? 何でこんな大会で命までかけようとするの⁉︎ そうまでして僕と結婚したいの⁉︎ でも死んじゃったら意味無いよね⁉︎」
「いや、まあ……ユーキ君と結婚したいというのは確かにあるのだが……」
「他に理由があるって言うの? 何⁉︎」
「あ、いや、それは……」
顔を背けるアイバーン。
アイバーンの頬を両手で挟むように掴み、グイッと自分の方に向けるユーキ。
「何⁉︎」
「ぐっ!」
顔を真っ赤にしながら観念して答えるアイバーン。
「き、君をあの少年と闘わせるのは危険だと思ったからだ」
「危険? 僕が負けるかもって事?」
「あ、ああ……詳しい事はここでは言えないが……」
「そっか! 僕の身を案じての事だったのか……ありがと、アイ君!」
「ユーキ君……」
アイバーンの頬から手を離し、笑顔で語りかけるユーキ。
「でも信じて! 今の僕は、アイ君と出会った頃の僕じゃ無いから! あの頃よりもうんと強くなってるんだから!」
ハッとした表情になった後、優しい顔になって微笑むアイバーン。
「……フッ、そうだったね……今のユーキ君は私が
心配せずとも、充分強いんだったね」
「うん! そういう事!」
「了解した。後は君に任せるとしよう……レフェリー! この試合、私の負けだ!」
「アイバーン選手の降参を確認!」
レフェリーがトトの勝利宣言をする。
「ああーっとお‼︎ どうやらアイバーン選手、降参したもようです! 初めはアイバーン選手の技を妨害したので、トト選手を庇う為かと思われましたが、どうやらアイバーン選手の身を案じての行動だったようです! 何はともあれこれにより、トーナメント1回戦第2試合は、トト選手の勝利です‼︎」
「ユーキさん、アイバーン様を止めて頂きありがとうございます!」
「マナ王女、大した行動力だ! 我々はアイバーンの危機に、体裁を気にして誰1人飛び出せなかったというのに!」
すぐさまアイバーンの傷を治療するユーキ。
「あ! もう一つ言うの忘れてた!」
「ん? 何かね?」
「この物語はコミカルファンタジーなんだから、あまり重い空気にしちゃダメ!」
「いや、何の話だね⁉︎」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます