第42話 ナメる、漢字で書くと無礼る

 トーナメント1回戦第2試合、アイバーンVSトト戦が開始される。

 じっとトトを見つめて、考えているアイバーン。


(ふむ……姿はどう見ても少年だが、見た目と実力が伴わない事例は、今までいくつも見てきている。ネム君がいい例だしな。予選ではその戦闘力は測れなかったが、あの身体能力は確かに並ではない。ならば!)


「魔装‼︎」


 魔装具を具現化させた後、魔装するアイバーン。


「出ました〜‼︎ 王国騎士団団長アイバーンの、黄金の鎧だ〜‼︎」


「団長カッコイイ〜‼︎」

「いつ見ても綺麗〜」


 魔装したアイバーンが鞘に収まったままの大剣を構えて、未だ魔装をしないトトに尋ねる。


「君は魔装しないのか? 私は無防備の相手を攻撃する趣味は無いのだが⁉︎」


 アイバーンの問いに、笑顔で答えるトト。


「うん、僕はこのままで行くよ」

「何だと⁉︎」


 トトのまさかの返答に、少し険しい顔になるアイバーン。


「このまま、というのは魔装無しで、という事か? それは、私をナメていると取っていいのかね?」


 険しい表情で尋ねるアイバーンに、両手を横に振って否定するトト。


「ああゴメン! そういう意味じゃなくてね……僕、魔装したくてもできないんだ。だからこのままでいいって言ったの」

「何⁉︎ まさか魔装もできないのに、この大会に参加したというのか⁉︎」

「うん、まあ……あ、だけど安心して! 多分魔装無しでも団長さんよりは強いから」


 そう言ってニヤリと笑うトト。

 トトの言葉を聞き、一瞬更に険しい表情になるアイバーンだったが、すぐにフゥッと息を吐き冷静さを取り戻す。


(挑発、か? だが、実力の伴わない挑発に意味は無い。ならば、何か秘策があるという事か? もしや、ネム君と同じ召喚士?)


 アイバーンがあれこれ考えている内に、試合を終えたユーキとブレンが客席にやって来る。


「アイ君の試合どうなってる⁉︎」

「あ、ユーキさん! お疲れ様です! 1回戦突破、おめでとうございます!」

「あ、うん、ありがと!」

「まんまとやられてしまったよ」

「ブ、ブレン様⁉︎」


 ユーキの背後から現れたブレンに、気まずくなるメルク。


「あ、えと……ざ、残念でしたね、ブレン様! で、でも凄く熱い試合でしたよ!」

「む⁉︎ そうか! 熱い試合だったか⁉︎ ならばよし‼︎」


(んふふ〜、さすがは同じ王国騎士団のメルちゃんですぅ。ブ〜ちゃんの扱い方を分かってますねぇ)


「ねえ! それはそうと、アイ君の試合はどうなったのさ⁉︎」

「あ、ハイ! そうでしたね。それが、試合自体は始まったんですが、アイバーン様が魔装して以降、両者共に全く動きが無いんですよ」

「え? そなの? 試合に間に合ったのは良かったけど、何かあった?」


 メルクに状況を聞きながら席に着くユーキとブレン。


「アイバーン様は魔装したんですが、相手のトト君が魔装しようとしないんです。それでアイバーン様も攻撃をためらっているんじゃないでしょうか?」

「魔装しない? まさかできないとか?」

「まさか〜」

「アイバーンの悪いクセだ! 戦いなんてものはあれこれ考えずに、力と力の真っ向勝負をすればいいんだ!」


(……と、ブレンが居たら言われそうだな……確かに今はその通りだ! 気になるなら試せばいい!)


「トト君! 君がそれでいいと言うなら私も遠慮なく行かせてもらう。自信があるからこその発言だろうからね。試合なので命を奪う事はしないが、多少のケガは覚悟してくれたまえ!」

「うん、いいよ! だけど団長さん、その物言い……あんたこそ、僕をナメてるよね⁉︎」


 ようやく動き出した2人が、距離を詰める。


「アイスフィールド‼︎」


 アイバーンを中心にして、地面に氷の輪が広がって行く。


「おっと、危ない!」


 ジャンプして氷をかわしたトトが、そのままアイバーンの元までひとっ飛びで接近する。


「トト選手飛んだ〜‼︎ あ、いや! どうやらジャンプのようですが、まるで飛行魔法を使っているかのような飛距離だ〜‼︎」


 素手でアイバーンに殴りかかるトト。

 それを、鞘に収まったままの大剣で受けるアイバーン。


「ぐっ! 素手で何という衝撃だ⁉︎」


 予想外の重い攻撃に一瞬怯んだアイバーンだったが、そのまま剣をなぎ払う。


「何のっ!」


 空中でくるりと態勢を入れ替えて剣をかわし、その回転を利用してアイバーンの脳天にかかと落としを放つトト。


「くっ!」


 左腕でガードして、振り抜いた右腕の剣を返して再びなぎ払うアイバーン。


「ハイッ!」


 一瞬剣に手を付き、その勢いで更に高くジャンプするトト。


「なら、これはどうだ!」


 真上に飛んだトトめがけて、剣を突き上げるアイバーン。


「おっと!」


 アイバーンの剣先を踏み台にして、その勢いでアイスフィールドの範囲外まで飛び去るトト。


「トト選手、また飛んだ〜‼︎ アイバーン選手に大ジャンプで接近して攻防を繰り広げた後、再び10メートルはあろうかという距離を飛んで、凍っていない場所まで飛び去りました‼︎」


「凄い飛距離! 魔装したネムに匹敵するぐらいのジャンプ力だね⁉︎」

「ああ、しかも驚嘆すべきは接近してから離脱するまでの間、トトは一度も地面に降りていない」


 トトの身体能力に驚くユーキとレノ。


「ねえ団長さん! 何で鞘に入ったままの剣で闘うの? 僕が魔装してないから気を使ってる? やっぱり……僕をナメてるよね?」

「いや……全力を出すに値する相手だと認識した……」


 そう言って、ゆっくりと鞘から剣を抜くアイバーン。


 2人の闘いを控え室で見ているキティとフィー。


「あいつ! 油断してるうちに、アイバーンにボコボコにされたらいいのよ!」

「キティちゃんも、パティちゃんにボコボコにされたらいいのに……」

「フィー⁉︎ 誰がボコボコにされたらいいって⁉︎」

「いいえ、ホカホカご飯が食べたいって言ったんです」

「試合直前にっ⁉︎」



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