第20話 いくらお金があっても買えないものもある
「ザウス! ひとまず下に降りるね!」
「あ、ああ」
ザウスの手を取り闘技場まで飛行して降りるユーキ。
「それで、どうするんだ? ユーキちゃん」
「さっきは気が焦って準備不足のまま仕掛けちゃったからね。今度は失敗しないように! ホーミングアローズ‼︎」
ユーキの周りに6本の光の矢が現れ、空中で静止している。
続けて、ロッドを回し始めるユーキ。
回数が重なる毎に、徐々にアローズの光が強くなって行く。
「よし! これだけ強化すれば充分だろ! 掴まって! ザウス!」
「ああ!」
ザウスがユーキの手を握ると、ゆっくりと浮上して行く2人。
「ザウス! 一気に加速するから、飛ばされないようにしっかり握っててね!」
「あ、ああ、分かった!」
「じゃあカウントするよー! 5……4……3……
2……1……ゼロ‼︎」
瞬間、物凄い速さで飛び出すユーキ達と、一瞬遅れてアローズが追随する。
「行っちゃいましたね、ユーキさん」
「はあ、まったくあの娘ったら……欲しい物があると後先考えないんだから……」
「姉様、ゲーム機が欲しいならネムが買ってあげるのに……」
「別にユーキだってリーゼルの王女様なんだから、ゲーム機ぐらい普通に買えるでしょうに」
「当然だ! マナちゃんには充分な小遣いを与えている! いくら珍しいとはいえ、ゲーム機の1つや2つぐらい楽に買える筈だ!」
「つまりあれですぅ、欲しいぬいぐるみがあったとしてぇ、普通にお金で買うよりも、クレーンゲームとかで取る方が面白いって奴ですぅ」
「ハハ、ちょっと分かる気がします」
「マナは昔からそういう所があったからな」
「ああーっとお‼︎ 闘技場の端から凄まじい速さで飛行する者が居るー‼︎ これは……ユーキちゃんだー‼︎ 第1レースに続いて、第2レースにも参戦だー‼︎」
「居た! アイ君とブレン! アローズ‼︎」
先頭を行くアイバーンとブレンにそれぞれ3本づつ、充分に加速して威力の増したアローズを放つユーキ。
強い魔力を感じ取ったアイバーンが振り返る。
「む⁉︎ いかん‼︎ ブレン! 全防御だ‼︎」
「何⁉︎」
アローズの威力を予感したアイバーンとブレンが、攻撃を捨てて完全防御の体勢で、1本目のアローズを受ける。
「ザウス‼︎」
「ああ! 分かってる! フレイムソード‼︎」
ザウスが大剣に炎をまとわせてブレンに斬りかかる。
「サンダーロッド‼︎」
同じように、雷をまとわせたロッドをアイバーンに振り下ろすユーキ。
それと同時に、2本目のアローズが2人の防御壁にヒビを入れる。
「いかん! 防御壁が保たない⁉︎」
「ハハッ! やるじゃねえか! どうせ防御しきれないなら‼︎」
防御する事を止め、反撃しようとするブレン。
「馬鹿者‼︎ 防御姿勢を解くんじゃない‼︎」
「心配すんなアイバーン! こんな細い矢、俺様の炎で溶かしてやるぜ‼︎」
「愚か者が‼︎」
アイバーンが叫んだ次の瞬間、最後の3本目の矢が2人に襲いかかる。
「くっ! 防御壁が! ぐうっ‼︎」
アイバーンの作り出した氷の壁を貫き、左肩に突き刺さり止まるアローズ。
「でやああ‼︎ お、重い⁉︎」
アローズを叩き落とそうと剣を振り下ろしたブレンだったが落としきれず、本来なら肩に当たる筈だったアローズが、上から力を加えた事で逆に軌道が変わり、ブレンの右脇腹を貫通してしまう。
「ぐわああ‼︎」
「ブレン‼︎」
「ああっとお‼︎ ユーキ選手の放った矢がブレン選手の脇腹を貫いたー‼︎」
「始めに威力を上げて、更に充分に加速したアローズを、そう簡単に落とせるもんですか!」
「くっ……ザウス‼︎」
「ああ、今の内だ‼︎」
ブレンの怪我を見て一瞬心配そうな表情をしたユーキだったが、すぐに切り替えてゴールを目指す。
「その優しさが命取りになると言った! アイスフィールド‼︎」
アイバーンが突き立てた大剣より地面に氷が走り、一瞬動きの鈍くなったユーキの足を捕らえる。
「しまった‼︎」
「ユーキちゃん‼︎」
ザウスがユーキの腕を掴んで引っ張るが、ビクともしない。
「痛い痛い痛い‼︎ 腕が伸びちゃうよ‼︎」
「ああごめん!」
慌てて手を離すザウス。
「僕の事はいいから、先に行って! ザウス‼︎」
「だけど‼︎」
「僕を信じて‼︎」
「くっ! わ、分かった!」
一瞬躊躇したザウスだったが、ユーキを信じてゴールに走り出す。
「ブレン! 動けるか⁉︎」
「あ、ああ! この程度の傷、いつもの事だ!」
「そうか、ならば今の内にゴールするぞ! ユーキ君はすぐには動けないだろうからな」
「ああ」
足を捕らえられて動けないユーキの横を通り過ぎて行くアイバーンとブレン。
(先にザウスを行かせた? 何か考えがある、と見るべきだが……いや、今は先を急ごう!)
ユーキの行動に疑念を抱きつつも、とりあえずゴールを目指すアイバーン。
「ザウス選手は既にゴールしていますが、1人だけでは意味がありません! しかし何故かザウス選手はユーキちゃんを助けに行こうとはしない⁉︎ いったいどういう事だー⁉︎」
「こういう事だよ! フェザーシールド‼︎」
ザウスがゴールしたのを見計らって、ロッドをセラの魔装具であるシールドタイプに変化させるユーキ。
そのシールドから6枚の羽を放ち、自分の周りの地面に撃ち込み魔法陣を描く。
「マジックイレーズ‼︎」
魔法無効化の結界により、ユーキを捕らえていた氷が徐々に消滅して行く。
「マジックイレーズ⁉︎ でもアイバーン様達はゴール寸前です! 今からじゃ間に合いませんよ⁉︎」
「フフッ、だからこそザウスを先に行かせたんでしょ⁉︎」
「え⁉︎」
ユーキを捕らえている氷が半分程消えた時、ザウスに向かって叫ぶユーキ。
「ザウスー‼︎ 思い切り引っ張ってー‼︎」
「え⁉︎ 引っ張るって、何を⁉︎」
ザウスが戸惑っていると、ユーキとザウスを繋ぐように、風のロープが現れる。
それを見てニヤリと笑うザウス。
「なるほど! 了解した! でえやああああっ‼︎」
風のロープを両手でがっしり掴み、一本背負いのように引っ張るザウス。
「ゼロ・グラビティ‼︎」
足元の氷が完全に消えると同時に結界を解き、重力操作で体を浮かせるユーキ。
そして、ザウスに引っ張られた事により、一瞬にしてアイバーン達を抜き去りゴールするユーキ。
「何っ⁉︎」
「何だとぉ‼︎」
「ザウス‼︎」
「ユーキちゃん‼︎」
ゴールしたユーキとザウスがお互いに伸ばした左腕をガッシリ掴み、クルクルと回転しながら勢いを殺していき、勢いが無くなった所でトンと降り立つユーキ。
「な、な、何とおおお‼︎ アイバーン、ブレン組がゴールする直前! ユーキ選手が一瞬にして2人を抜き去ったー‼︎ ユーキ選手が氷から脱出したと同時に、2人を繋ぐように現れたロープをザウス選手が引っ張り、ユーキ選手を一瞬でゴールに引き寄せました‼︎ ザウス選手を先にゴールさせていたのはこの為だったー‼︎ ザウス、ユーキ組、見事な頭脳プレイで大逆転勝利です‼︎」
「なるほど! アイバーン様の氷に捕まった時に、既に2人の間を風のロープで繋いでいたんですね⁉︎」
「そしておそらく、すぐに脱出して見せたらまたアイ君の攻撃を受けてしまうから、あえて動けないフリをした。案の定、アイ君は動けないユーキにそれ以上攻撃する事はしなかった」
「本来のマジックイレーズならぁ、あれぐらいの氷は一瞬で消せますがぁ、そうするとせっかく繋いだロープまで消滅させちゃうのでぇ、わざと威力を弱めて効果を遅らせたんだと思いますぅ」
得意げに腰に手を当て、アイバーンを指差すユーキ。
「どう⁉︎ 今回は僕達の勝ちだ! これで結婚の権利は無効だよね⁉︎」
「むう……仕方がない、今回は潔く負けを認めよう。だがこれで一勝一敗、最後の第3レースで決着を付けようじゃないか!」
「え⁉︎ い、いやちょっと待ってよ⁉︎ 結婚の権利は取り返したんだから、僕はもう出る必要は無いんだけど? そりゃまあ、確かに景品は魅力的だけども……」
「そうか……それは残念だ。実はこのレース、順位に応じて景品も豪華になって行くのは知ってると思うが、その他にも、全3レースで獲得した累計ポイントによっても景品が貰える事は知っていたかね?」
「え⁉︎ そ、そうなの? 初耳だけど……」
「ユーキ君は第1レースで9ポイント、今の第2レースで10ポイントを獲得したね? 確か累計25ポイント以上で貰える景品の中に、レトロゲーム機5台と対応ソフト一式というのがあった筈だが……」
「マ、マジで⁉︎」
「今の累計が19ポイントだから、次の第3レースで5位以内に入れば25ポイントになる。君達ならば楽々入れる順位だと思うのだが?」
「5位以内……た、確かに充分狙える順位だけど、でも5位だと一気に8人も結婚相手が増えちゃうし……」
「なら1位になればいいだけの話だ! ああ因みに、レトロゲーム機だが、中古品ではなく全て新品らしい」
「新品なの⁉︎」
「そうだ! 現行機種ならば、お金さえあれば手に入れる事は容易だろうが、レトロゲーム機となれば、いくらお金があっても現物自体が存在しない事もあるんじゃないのかね?」
「た、確かに……」
「この機会を逃せば、2度と手に入れる事が出来ないかもしれないぞ?」
「ぼ、僕出る!」
(ふっ! ユーキ君……やはりチョロいな)
まんまとアイバーンの口車に乗せられたユーキであった。
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