第7話 二度ある事は三度ある

 アイバーンによる説明が終わり、代表者挨拶に移る。


「ええそれでは次に、五国の代表者による挨拶を行ないたいと思います!」

「来たっ!」


「まずは僭越ながら、ロイ国王より命を受けました私、アイバーンより簡単に挨拶をさせていただきます! 元々今大会は、フィルスだけの王を決める為の物でしたので、私は参戦するつもりはありませんでした……しかし、五国統一王を決める大会となった以上、このアイバーン! ロイ国王の為に、また王国騎士団団長の名に恥じないように、奮闘させていただきます!」


「ワシの為にじゃと⁉︎ フッ! アイバーンめ……心にも無い事を言いおるわ」


 会場の隅で見ていたロイ国王が、アイバーンの発言を聞いてニヤリと笑う。


「では次に、ヴェルン国の王女であり、この五国統一の立案者でもあるセラ・フレイル嬢! どうぞ!」


 アイバーンに呼び込まれて壇上に上がったセラが、アイバーンよりマイクを受け取り挨拶を始める。


「どぉもぉ〜! ヴェルン国王女のぉ、セラちゃんでぇ〜っす!」

「軽っ⁉︎」


「今回はぁ、私の考えた五国統一案にぃ、みんな賛同してくれて誠にありがとうございますぅ! でもぶっちゃけて言いますがぁ、この統一案を考えたのはぁ、全てはマナちゃんをパラスの魔の手から守る為ですぅ! だから私は絶対に優勝してぇ、マナちゃんを統一国の王様にしますぅ! そしてマナちゃんと結婚するんですぅ‼︎」


 セラの発言に、会場がざわつく。


「マナ⁉︎ マナって誰だ?」

「ヴェルンの王族にマナなんて名前居たか?」

「結婚ってどういう事だ?」


「な、な、何言い出すんだよ⁉︎ セラ⁉︎」

「ちょっと待ったあああ‼︎」

「え⁉︎ パティ?」


 セラの発言を受けて、呼び込まれる前に壇上に上がるパティ。


「パ、パティ君⁉︎ まだ君の順番では……」

「あんな事言われて黙ってられないわ‼︎」


 アイバーンの制止を振り切り、セラよりマイクを奪い取ったパティが、負けじと宣言する。


「あたしはパティ! パトリシア・ウィードよ! 一応グレール代表って事にはなってるけど、あたしはあんなバカ猫の為には戦わない‼︎ 例え優勝したとしても、バカ猫を王になんかしない‼︎」

「ブウーッ!」


 会場の一角で、ジュースを吹き出すキティ。


「汚いですねー! 何ですか? 鏡で自分の顏でも見たんですか?」

「フィー⁉︎ あ、あんた、何気に酷い事言うわね?」

「私が何か言いましたか?」

「鏡で顏を見たとか言ったじゃないの⁉︎」

「いいえ、鏡開きをしないとって言ったんです」

「今頃っ⁉︎」



「あたしが戦う理由はただ1つ! ユーキに勝って優勝して、王様になったユーキと結婚する為よ‼︎」


「ちょ、ちょっと〜‼︎ パティまで何言い出すんだよ〜⁉︎」


 再びざわつく会場。


「今度はユーキだって?」

「また結婚って……」

「ん? ユーキって名前、どこかで?」

「ああそういえば、ベルクルの闘技場で色んな魔装を使いこなしたり、更に男性にまで変身してたピンク髪の超絶美少女の名前が、確かユーキちゃんだったような⁉︎」

「ほぼ正解っ! てか完全に知ってるよね⁉︎」


 ユーキがツッコミを入れていると、負けじとネムも壇上に上がる。


「姉様達ばっかりズルい!」

「ネム⁉︎」


「シェーレ国王女、ネム・クラインヴァルト! 私も優勝してユーキ姉様を王様にする! そしてユーキ姉様と結婚する‼︎」

「ぅおいっ‼︎ ネムの目的はシェーレ国の復興じゃなかったの⁉︎」

「国とは人であるって誰かが言ってた……だから形なんてどうでもいい! ネムはただずっとユーキ姉様の側に要られたらそれでいい……」

「ネム……」

「お金ならあるよ⁉︎ 姉様!」

「子供がそんな事言ってはいけませんっ‼︎」


「あの小さい娘がシェーレ国の王女……」

「まだ子供じゃないか⁉︎」

「でも、あんな子供が生き残ってこれたって事は、やっぱりあの娘も召喚士なのか?」

「いや、そんな事より、あの娘もユーキって言ったぞ⁉︎」

「ユーキって一体何者なんだ?」


 会場中がすっかりユーキに興味を持った所で、ユーキの番となる。


「……それではユーキ君、どーぞ‼︎」

「出れるかーっ‼︎」


「いやしかし、後は君だけなんだが……」

「いやいやいや! こんなすっかり注目されてる中で、出られる訳無いだろー⁉︎」

「ま、まあ気持ちは分かるが、そこを何とか頼むよ!」

「うう〜」


「で、ではこうしよう! ユーキ君の名がすっかり知れ渡ってしまったので、ユーキ君の名は伏せて、リーゼル国のマナ王女としてのみ紹介する! それならどうだろうか?」

「う〜ん……ま、まあ、僕がリーゼルの王女だって事はほとんど知られてないだろうから、それなら……」

「助かる! では!」


 どうにかユーキを説得したアイバーンが、ユーキを呼び込む。


「ええーっ! 少々ゴタゴタしましたが……それでは最後に! リーゼル代表は、リーゼル国マナ・フリード王女です‼︎」

(んふふ〜、アイちゃんも中々の策士ですねぇ)


 アイバーンに呼び込まれてユーキが壇上に上がると、会場のあちこちで驚きの声が上がる。


「え⁉︎ ユーキちゃん⁉︎」

「ま、まさかユーキちゃんがリーゼルのマナ王女様⁉︎」


「じゃ、じゃあ最初にセラ王女が言ったマナちゃんってのも、つまりはユーキちゃんの事を言ってた訳か⁉︎」

「す、凄ぇ! 五国の内の三国の代表がみんなユーキちゃんを王にしようとしてるってのか⁉︎」


「いやでも、みんなユーキちゃんと結婚するとか何とか言ってたけど、どういう事だ⁉︎」

「へへっ、教えてやろうか? 何でも、今回の武闘大会でユーキちゃんに勝った者は何と! ユーキちゃんと結婚出来るらしいぜ‼︎」

「何ぃー⁉︎ マジかー⁉︎」

「そうか‼︎ だからみんな優勝してユーキちゃんと結婚するって言ったのかー⁉︎」


「な、なら俺にもユーキちゃんと結婚出来るチャンスがあるって事だよなー⁉︎」

「お、俺も勝ってユーキちゃんと結婚したい‼︎」

「俺も絶対勝つぞー‼︎」

「僕だってー‼︎」

「私だって負けてられないわ‼︎」


 瞬く間に、会場中に話が広まってしまい、再び青ざめるユーキ。


(しまったあああ! 僕の顔は割れてるし、結婚の話も既に漏れてたんだったあああ! アイ君の言葉に乗せられてつい……ん? いや待てよ⁉︎ ユーキとしては知られてるかもしれないけど、マナ王女だって事はわざわざ言わなくても良かったんじゃ……? もしかして、余計な事言った?)


 ようやくアイバーンの策略に気付いたユーキがアイバーンを睨みつけると、小声でユーキに話しかけるアイバーン。


「すまない、ユーキ君! だが、これでもう君は逃げられない! 何しろこの前夜祭の模様は、参加国全てに生中継されているからね……」

「んなっ⁉︎」

(少々手荒なやり方ではあるが、私だって何としても君を統一国の王にしたいし、願わくば結婚したいのだ‼︎)


「ああそう、そうですか……みんな同じ考えですか……」


 ワナワナと震えていたユーキだったが、何かが吹っ切れる音がする。


「ユ、ユーキ?」


 アイバーンからマイクを奪い取ったユーキが壇上の真ん中に立ち叫ぶ。


「テメェら‼︎ そんなに僕と結婚したいのかー‼︎」

「え⁉︎ どうしたんだ? ユーキちゃん⁉︎」

「お、おおー」

「も、勿論結婚したいぞー!」


 ユーキの豹変ぶりに、戸惑いながらも応える会場。


「だったら僕を倒して力を示してみろー‼︎ 誰でもいいぞー! かかって来いやーっ‼︎」

「おおーっ‼︎」

「よーしっ! ユーキちゃん公認だー‼︎」

「絶対勝つぞー‼︎」

「うおおおお‼︎」



「ユーキ、完全に開き直ってるわね……」

「というよりはぁ、ヤケクソですぅ」



 かくして三度、ユーキ嬢争奪戦が勃発する事になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る