第33話 レノ、決死の戦い

(セラ! お前は言葉通り、見事にマナを守りきった……今度はこの兄の番だ! 見ていてくれ、セラ!)


「人の事などほっといて自分の治療をすれば、生き延びられたかもしれねえのに、バカなガキだぜ!」

「黙れ‼︎ 我が妹を愚弄する事は、この兄が許さん‼︎」


「ならどうするよ⁉︎ 頑張って俺を倒してみるか? お前が負ければ、当然マナも死ぬ事になる。どの道あのガキがやった事は無駄だったんだよ‼︎」

「黙れと言ったあああ‼︎」


 怒りに任せ、闇雲に槍で連続攻撃をするレノだったが、それを難なくかわすカオス。


「力押しかよ⁉︎ 芸が無ぇなー!」


『そうやってすぐ熱くなるから、相手に付け込まれるんですよぉ』

「セラ⁉︎」


 レノの頭の中に、セラの言葉が響く。


『怒るなとは言いません……怒りは時に、爆発的な力を生み出す事もありますからぁ。でも、感情では怒りつつも、頭の中は常に冷静でいないとダメですぅ』

「まあ、分かっちゃいるんだがな……大切な妹を殺されて、平気な兄など居ない‼︎ 電光石火‼︎」


 雷を体にまとい、凄まじい速さで連続攻撃を繰り出すレノ。


「ほお、ちったぁマシな動きになったじゃねぇか⁉︎ だが、人聞きの悪い事言うんじゃねぇよ! 俺はマナだけを狙ったのに、テメェの妹が勝手にしゃしゃり出てきて、勝手に当たって勝手にくたばっただけじゃねぇか⁉︎」


「貴様が来なければ、マナが傷付く事も、セラが死ぬ事も無かったー‼︎」

「テメェらの弱さを棚に上げて、ほざくんじゃねぇよ‼︎」


 一連の動きの中で、一瞬動きの止まる隙を突かれて反撃をくらうレノ。


「ぐあっ‼︎」

『ほらぁ、いくらスピードが上がった所で、怒りで動きが単純化してるから、簡単に相手に読まれるんですよぉ』


 少し距離を取り、気持ちを落ち着けるレノ。


「くっ! ならどうすればいい⁉︎」

『レノの最大の武器は何ですかぁ?』

「……この肉体美、かな?」

『ぶっ飛ばしますよぉ‼︎ あなたの最大の武器はぁ、防御力でしょぉ⁉︎』

「いや、それはそうだが、防御だけでどうやって敵を倒せば……」

『それを活かした戦い方をしろと言ってるんですぅ』

「防御力を活かした戦い方……」


「テメェ、さっきから何1人でブツブツ言ってやがる⁉︎」


(防御力を活かした……普通に攻撃しても当たらない……どうにかして捕まえる事が出来れば……しかし、ただ掴みに行っても当然かわされるだろう……ならば‼︎)


「作戦は決まったか? さあ、俺を楽しませてみろよ‼︎」


 槍を構えて走り、カオスとの距離を詰めるレノ。


「何だぁ⁉︎ 結局真っ向勝負か⁉︎ まあ、俺は嫌いじゃないがな‼︎」


 しかし、ある程度距離を詰めた所で停止するレノ。


「誰が貴様と真っ向勝負などするか‼︎」

「あん⁉︎」

「バリアードーム‼︎」


 透明なドームが、レノとカオスの2人を包み込む。


「バリアーフィールドか⁉︎ だがテメェまで一緒に入ってんじゃねぇか!」

「これでいいんだよ! ディスチャージ‼︎」


 完全に逃げ場の無いドームの中で、四方八方に電撃が走りカオスに襲いかかる。


「なるほどな! 密閉したドームの中で放電することによって、当たる確率を上げようってか⁉︎ だが、当たった所で大した威力じゃないがなー‼︎」


「フッ! 確かに今はまだ大した威力じゃない。だが、俺が中で放電し続ける事によって、ドーム内を走る電撃は乱反射を繰り返し、繰り返した分だけ威力も増して行く‼︎」


 レノの言葉通り、徐々に威力を増した電撃が、少しづつカオスにダメージを与えて行く。

 

「面白ぇじゃねぇか‼︎ だが、いくらテメェが雷属性とはいえ、ここまで威力が上がった雷をくらえば、テメェだって無事じゃ済まねぇだろうが‼︎」

「ああそうさ! だからここからは、我慢比べと行こうじゃないか‼︎」

「このガキ……」



(おそらく、今こいつの体に触れるのはマズイ……帯電した電圧を一気にくらっちまうだろうからな。かといって、遠距離魔法を放っても途中でこの雷にかき消されるだろう……へっ! 一見無茶苦茶な戦法だが、中々理にかなってやがる。まあ、こいつの並外れた防御力があればこそ出来る事なんだろうが。さて……このままこいつに付き合って我慢比べをするのも面白そうだが、あまり時間をかけ過ぎてシャルの奴に気付かれると厄介だからなー)


「へっ! 雑魚かと思えばテメェ、中々やるじゃねぇか! もう少し遊んでやってもいいが、こっちは急いでるんでな! 終わらせてやるぜ‼︎」

「無駄だ‼︎ 一度このドームに閉じ込められたら、俺が解除しない限り出られはしない‼︎」


「まあ確かにこのドームを破壊するのは少々面倒そうだ……だがな! 下があんじゃねぇかー‼︎」


 そう言って、右拳で思いっきり地面を殴りつけるカオス。

 カオスが殴った場所から四方八方に亀裂が走り、地面に段差が生じた事によりバリアードームが消滅してしまう。


「何ぃ‼︎」


 そして、強引にドームを消滅させた為に、ドーム内に蓄積されたエネルギーが一気に解放され、吹き飛ばされるレノとカオス。


「おおっとぉ!」


 カオスは何とか立ったまま踏ん張るが、レノはそのまま近くの木に激突してしまう。


「ぐあっ‼︎」


 衝撃により一瞬意識が飛んだレノに、カオスが魔法弾を放つ。


「中々楽しませてもらったぜ! テメェみてぇに面白い奴は、いつもなら生かしといてやるんだがな! 今は急ぐからよ、大人しく死んどけや‼︎ パルヴァライゼーション‼︎」


 カオスの放った魔法弾がレノに襲いかかるが、依然意識を失ったままのレノ。

 もうダメかと思われた時、突如空中に現れた魔方陣にカオスの魔法弾が吸収され、そして即座にカオスに向けて反射される。


「何だとー‼︎ ぐああっ‼︎」


 まさかの反撃に加え、先程の衝撃波のダメージにより反応の遅れたカオスに直撃する魔法弾。



「ん、うん⁉︎ ……しまった‼︎ 俺は気絶してたのか⁉︎」


 ようやく意識を取り戻したレノが見上げると、そこにはセラの羽が作り出した魔方陣があった。



「セラ⁉︎」



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