第24話 黒い三連星ならぬ、黒い三兄弟

 倒れているノームに治癒魔法をかけるセラ。

 程なくして、ノームが意識を取り戻す。


「何故、私を治療したんですか?」

「それは勿論、カギをもらう為とぉ、この部屋から出してもらう為ですぅ」


「それだけなら、完璧に治療する必要は無いでしょうに……」

「いくら敵でもぉ、死なせちゃったらぁ、私がユウちゃんに怒られちゃうんですぅ」


「甘い方なんですね、ユーキさんって……でも、とても優しい方……」

「ユウちゃんはぁ、昔から凄く優しい娘なんですよぉ」


「昔から? 私達の調査では、あなたがユーキさんと出会ったのはつい最近の筈ですが? それも私達の調査不足ですか?」

「ンフ! これは失言でしたぁ! 忘れてくださいぃ」


「あなたとユーキさんにはどんな関係が?」

「いいから忘れなさいぃー‼︎」


 ノームの全身をくすぐるセラ。


「やあっ‼︎ ひゃひゃひゃひゃ‼︎ わ、忘れます! 忘れますからあ! ひゃひゃひゃ! や、やめてー‼︎」





 ノームが負けた事が信じられないといった様子のリッチ。


「バカな‼︎ 魔封じの結界で完全に魔法は封じた筈なのに⁉︎ 何故それで敗れる⁉︎」



「バカね‼︎ セラを甘く見るからよ! 完全にあんた達の調査不足よ‼︎」


「ぐくっ……おのれー」




(やたっ! セラも勝った! セラ、アイ君、早く帰って来てパティを助けてあげて……何でか分かんないけどパティ、魔装が出来ないみたいなんだ)



「あとはあんた達2人を倒せば、あたし達の勝ちよ!」

「倒せたらね!」

 エストが投げたクナイを杖で弾くパティ。

 

「レベル5を2人同時に相手にして、勝てるつもりかい⁉︎ しかも魔装も無しで!」

 ビストが投げた数本のクナイを、ウインドウォールで防御するパティ。


「うるさいわね‼︎ 理屈なんて関係ないわ‼︎ 何が何でも勝つのよ‼︎」

「根性論かい? スマートじゃないなー」


 エストが弧を描く様に飛ばした複数のクナイを、ホーミングアローズで迎撃するパティ。



「ハハッ! それにしてもよく凌ぐねー、パティちゃん!」

「あんた達の攻撃なんて、全然ヌルいのよ‼︎」


(それにしても、顔も魔装具も声や喋り方まで全く一緒だなんて、全然見分けがつかないじゃないのよ……魔装ができたらまとめて一気に吹き飛ばしてやるのに)



「ヌルいかどうかは、この技を見てから決めてよね!」

「エスト‼︎」

「うん‼︎」


「無限飛びクナイ、嵐‼︎」


 エストとビストそれぞれが投げた、風と水をまとった数十本のクナイが、パティの周りを囲む様に飛び回る。


「逃げ場の無い、全方位攻撃だ! かわせるものなら、かわしてみなよ‼︎」



「くっ……ストレングスアクセル‼︎」


 白と赤のオーラが、パティの全身を包む。

 全方位から襲いかかって来るクナイを、凄まじい速さで破壊して行くパティ。


「なっ⁉︎ 全部落とすつもりか⁉︎」

「まさか⁉︎ 最後まで保つ訳がない」


 

 だが、全てのクナイを叩き落としたパティ。

 驚くエストとビスト。


「いやはや……恐れ入ったよ」

「まさか本当に全て落としてしまうなんてね」


「言ったでしょ! あんた達の攻撃なんてヌルいって!」


 強い言葉とは裏腹に、苦痛に耐えているパティ。


(っつう〜! この技ってば、肉体の強さとスピードを強制的に高める代わりに、体にかかる負担もめちゃくちゃ大きいから、出来れば使いたくない技なのよねー)



「さあ! 次はどんな手で来るのかしら?」

「あ、まだ油断しない方がいいよ⁉︎」

「え? あぐっ‼︎」


 エストがそう言った瞬間に、パティの背中にクナイが刺さり、前のめりに倒れるパティ。



「パティいいい‼︎」


 ユーキの絶叫が響き渡る。




「だ……大丈夫よ、ユーキ」


 ゆっくりと体を起こすパティ。



「そうか……君は確か治癒魔法も使えるんだったね」

「なら、そう簡単には終わらないかー」



 背中の傷を治療しながら、先程の攻撃について考えているパティ。


(どういう事? あたしは確かに全てのクナイを叩き落とした……幻術? でも二人共、クナイを操っている様な素振りは無かった。自動追尾型にしては、投げてから時間が経ち過ぎている。空中に停止させておいて狙った時に動かす、なんて事が出来るの? となると、他に考えられるのは……)


 パティが杖を床につき、何やらそっと魔法を唱える。


「考えはまとまったかい?」

「それとも、諦めて降伏しちゃう?」



「バカ言うんじゃないわよ! せっかく謎が解けたっていうのに」

「謎? どういうことだい?」


「こういう事よ‼︎ ウインドソード‼︎」


 突然何も無い壁に向かって、魔法を放つパティ。


「うわっ‼︎」


 驚いた声と共に、いきなり空間から人影が飛び出して来る。


「いやー! 見つかっちゃったー!」


 その人影は、エストやビストと全く同じ顔と魔装をした人物だった。



「また増えた〜!」

 ゾッとするユーキ。



「何やってるのさ、ミスト兄さん!」

「怪我は無いかい? ミスト!」


(ミスト⁉︎ 兄さん⁉︎ って事はつまり)



「双子じゃ無くて、三つ子だった訳ね」

「せいかーい!」

「僕達は黒い三兄弟って言われてる三つ子なんだ」



(黒い三兄弟? 何だか黒い三連星みたいだな)



「つまりメル君の時も、あんたがさっきみたいに隠れて攻撃した訳ね」

「その通り! 卑怯だって言うかい?」

「いいえ……試合ならともかく、実戦での事だもの……油断したメル君が悪いのよ」


「へえ、分かってるじゃないかパティちゃん……でもどうして僕の居場所が分かったんだい?」

「魔力探知をかけたのよ! いくら姿を隠そうと、魔力を完全に消す事なんて出来ないからね」


「なるほど、君ってホントに器用だねー」



「さて……それじゃあめでたく3人揃った所で、僕達のとっておきの技を見せてあげるよ!」



(ハッ! 黒い姿の3人が揃ったって事は……ま、まさかまさか!)


 何かに期待してワクワクしているユーキ。




「エスト! ミスト! 行くよ‼︎」

「うん‼︎」

「うん‼︎」



「ジェットストリームアタック‼︎」



「来たあああああっ‼︎」


「何喜んでるのよ⁉︎ ユーキ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る