第14話 さらわれマスター! ユーキ

「さあ、覚悟しろ! キスパー!」

 大剣を構えるアイバーン。

 だが、戦う素振りを見せないキスパー。


「貴様! 何故構えない?」

「ユーキたんが戦っちゃダメって言うなら、僕は戦わないでフ」

「キスパー……」


「くっ! だ、だが貴様が戦おうが戦うまいが、私が貴様を殺す事に変わりはない‼︎」


「だから待てって……」

 背後からアイバーンの胴に腕を回してロックするユーキ。

「ユーキ君?」

「言ってるだろー‼︎」

 そのままジャーマンスープレックスで後方に投げるユーキ。

「ぐふうっ‼︎」




 後頭部を押さえ、フラつきながら起き上がって来るアイバーン。

「い、いきなり何をするのかね? ユーキ君!」


「少し落ち着いて話を聞けー‼︎ キスパーは作ったって言っただけだろー? 僕達を襲ったとは言ってないだろ!」

「む、むう……」




 座って居るアイバーンの後ろから、頭部に治癒魔法をかけるユーキ。


「ユーキたんも怪我をしてた筈でフ……早く治療した方がいいでフ」

「え? ああ、そういえば……痛みが無いもんだから、すっかり忘れてたよ」


 治療しようと、自分の傷口を見るユーキだったが。


(あれ? 治って、る? 何で? アイ君の治療してたから、一緒に治ったのかな……? まいっか)

 



 落ち着きを取り戻したアイバーンが、キスパーに事の真相を問いただす。


「さて、キスパーとやら! 改めてその辺はどうなんだ?」


「ユーキたんの言うとおり、僕は依頼されて魔獣を作っただけでフ……召喚した後、すぐに所有権は依頼主に譲渡したでフ」


「その依頼主とは誰だ?」

「どこの誰かまでは分からないでフ……でも自分が召喚した魔獣がどこに居るかは分かるので、気になってずっと隠れて見てたんでフ……だからいつどこで、どの召喚獣が戦ったかは知ってるんでフ」


「ふむ……一応辻褄は合っているか……」

「ほらー! やっぱり誤解だったじゃない!」

「むう……いいだろう! ここはユーキ君に免じて、剣を引こう……後の裁定はメルク本人に任せる」


「ありがとうでフ……ユーキたんも、庇ってくれてありがとうでフ」

「お礼なんていいよ! 僕の友達同士が殺し合うなんて嫌だからさ……そんなの、楽しくないじゃん!」




「俺達と遊べば楽しいぜ?」

「何?」

 またしてもザウスと部下達が現れる。


「貴様は……ハウス!」

「そうそう! 最近は地震が多いから、ちゃんと耐震構造にしとかないとなー……いやハウスじゃねー! ザウスだ‼︎」

「意外とノリのいい奴だ」


「何を漫才やってるんだい? リーダーさん?」

 エストとビストも合流してしまう。


「くっ! あの双子まで来たか……」

「ユーキ君、もしかしてあの2人も?」

「ああ、四天王のエビスだ」

「ちょっとー! 似てるからって、名前を合体させないでくれるかなー? 七福神みたいになってるじゃないかー」


「エストとビスト……双子だよ」

「どっちがどっちか分からないんだが?」

「見た目は一緒だから、どっちでもいいよ」


「失礼だなー、僕がエストで」

「僕がビストだ」

「だから見分けつかないっての!」


(それにしてもおかしい……何でこうも簡単に居場所が分かるんだ? 誰かに見られてる?)


「ユーキ君! お互い合流したのなら、いっそここでケリをつけた方が良いと思うのだが?」

「はあ……魔力使いたく無かったけど、仕方ないかー……」


「キスパー! 君も戦力として考えていいのかね?」

「僕はユーキたんを守る為なら戦えまフ」

「そうか……ならば期待させてもらう」


 すぐに居場所がバレる事もそうだが、ユーキとアイバーンの2人にはもう一つ気になる事があった。


「ユーキ君、四天王のもう1人は見たかね?」

「いや、僕はまだ見てないよ」

「そうか……ならばどこかに潜んでいる可能性がある、警戒を怠らない様にしよう」

「うん」



 魔装具を具現化するユーキ達3人。

 辺りには、霧が立ち込めてきた。



「ユーキちゃん! 今度こそ逃さないよ!」

「逃げないよ!」

「どうだか?」


「サンダーロッド‼︎」



(霧が出て来たな……)

「ユーキ君‼︎ あまり私から離れるんじゃないぞ‼︎」

「側に居るよー‼︎」

「ならば良し」


「さあ、かかって来い‼︎ ライス‼︎」

「やっぱパンよりもライスだよなー! じゃねえっ‼︎ 俺の名はザウスだって言ってるだろ‼︎ スしか合ってねーじゃねえかっ!」

「結構乗ってくれるんだな? 中々愉快な奴だ……敵にしておくのは勿体無い」

「うるせえ! 行くぜ!」



(何だ? 急に霧が濃くなって来たぞ? これじゃ、ほとんど周りの状況が分かんない)

「ユーキ君! 居るか?」

「アイ君? ここだよー!」


 霧の中から現れるアイバーン。

「アイ君!」

「ユーキ君! 良かった、無事だったか……ここまで霧が濃くなったのなら、むしろ好都合だ。今の内に逃げよう!」

「え? また逃げるの? そりゃまあ、僕としても無駄な魔力使わずに済むなら、その方がいいけども」


「さあ、こっちだ!」

 ユーキの手を引っ張り、走り出すアイバーン。


「アイ君! キスパーは?」

「大丈夫! 彼は既に逃げた!」

「そ、そう? ならいいんだけど……」



 しばらく走った後、立ち止まるアイバーン。


「ここまで来ればもう大丈夫だろう」

「こんな霧の中、よくぶつからずに走れたね? アイ君」


 だが何も答えないアイバーン。

「アイ君?」


 振り返り、ユーキの耳元で囁くアイバーン。


「お休み……子猫ちゃん……」

「え? アイ君?」

「スリープ……」

「アイ……君……? フニャア……」


 崩れる様に眠りに落ちて行くユーキを抱き抱えるアイバーン。

 その姿が薄れ、黒いローブを被った少女に変わって行く。


「フフ、初めまして……私は四天王の1人、幻惑のノームと申します……さあユーキさん、参りましょう」


 ユーキを抱き抱えたノームが、霧の中に消えて行く。



「ユーキ君! どこだー‼︎」

「ここだよー! アイ君!」

「くっ! この霧が邪魔だ‼︎ ダイヤモンドダスト‼︎」


 苛立ったアイバーンが、周囲の霧を氷の結晶に変えて行く。

 氷の粒が地面に落ちて行くにつれて、徐々に視界がひらけてくる。

 だがそこには、キスパー以外の人影は既に無かった。


「キスパー‼︎ ユーキ君は?」

「ぼ、僕もずっと探してたんでフが、どこにも居ないんでフ」

「なんだと? くそっ‼︎ してやられた‼︎ 私とした事が、なんたる失態だ‼︎」


 地面を殴り、悔しがるアイバーン。


「キスパー‼︎ ユーキ君を探すぞ‼︎」

「ハ、ハイでフ!」


 

 その頃、宿屋に居るセラ。


「うーん……ユウちゃん、大ピンチですねぇ……まあでも、殺される事は無いでしょう……もっともそんな事は、私が絶対に阻止しますけどね」

 目を見開き、厳しい表情になるセラ。


「ん? 何1人でブツブツいってんの? セラ」

「え? あ、いやぁ……メルちゃんにぃ、どんな女装させたら似合うかなぁ? って考えてたんですぅ」


「あっ! そういえば忘れてたわ! 明日、メル君に似合う服を探しに行きましょう……それを着て、ユーキ達を出迎えないと」


「ハイ! 楽しみですぅ」


「ちょっとぉ! それまだ覚えてたんですかー?」

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