第11話 夢見るユーキ、番外編(ユーキと天使と悪魔と猫)

 ユーキを降ろすパティ。

「ほら、待っててあげるから、早く傷を治しなさい」

「う、うん」


 傷の治療を始めるユーキ。


「しかし、どうもユーキ君は何か焦っている様に見える」

「焦り、ですか?」

「ああ、第4戦までは冷静に戦略を練って闘っていたようだが、今回に限っては不用意過ぎる……特に先程のアローズにしても、おそらくはパティ君に特性を聞いただろうに、ろくに加速も強化もせずに放った」

「そう言われればそうですね」


「相手がパティ君だから動揺しているのか、もしくは魔力がもう……」



 アイバーンが危惧していた通り、突如ユーキの魔装が解ける。

「くそ! 保たなかったか……」



「ああっとー‼︎ 傷の治療をしていたユーキ選手の魔装が解けてしまったー‼︎ これはもしや魔力が尽きたのかー‼︎」



「やはり魔力が限界だったか……」

「ユーキさん、せっかくここまできたのに……」



「やっぱりこの辺が限界だったみたいね……ユーキ‼︎ 魔装無しじゃ勝ち目はないわ、降参しなさい!」

「やだっ‼︎」

「どうして? このまま続けても無駄に怪我が増えるだけよ?」


「僕はこの闘い、絶対に負けられないんだ‼︎」

「何でそこまで……」

「…………」

「そう……言えない理由があるのね……分かったわ、なら最後まで闘いましょう」

 大見得を切った以上、今更ゲーム機の為とは言えないユーキであった。



(とは言ったものの……魔力が尽きた以上、とてもじゃないが勝ち目はない……何か……何か手は無いのか?)

 色々考えていると、ある作戦を思い付くユーキ。

 だがそれを実行するには、かなりの抵抗があった。

(いや、さすがにこれはマズイよねー)


「いいじゃねえか、やれよ」

(え? 誰?)

 ユーキの脳内イメージで、悪魔風の姿のヤマトが囁きかけてくる。

(もしやこれは、漫画とかでよくある、心の中の悪魔? と言う事は……)


「そんな事をしてはいけません」

 天使風の姿のユーキが現れる。

(やっぱり出た!)


「何だよ、どうせこのままだと負けるんだ、ならやるしかねえだろ?」

(うん、確かに)


「しかし、試合である以上正々堂々と闘うべきです!」

(それもそうだ)


「正々堂々? さっきパティは卑怯にも後ろから攻撃して来たぞ?」

(はっ! そう言えば)


「あ、あれは勝負である以上、警戒を怠ったこちらが悪いんです」

(まあそうだよねー)


「そ、それに先程はパティに命を救われたではありませんか」

(うん、あれは助かった)


「ああん? そもそも空中戦になるよう仕向けて来たのはパティなんだぜ?」

(言われてみれば)


「大体最初の力比べだってパティから提案して来たんだ……まんまとパティのペースに巻き込まれたんだよ」

(そ、そうだったのか)


「彼女の戦闘センスが上だったと言う事です」

(パティ、センスあるもんなー)


「だからってこのまま負けていいのか? ゲーム機を諦めるのか?」

(諦めたくない)


「それは、そうですが……でもそんな事をしたらパティ、怒りますよ?」

(パティ、怒ると怖いもんなー)


「大丈夫だって……パティはユーキにベタ惚れなんだぜ? 後で謝れば許してくれるって」

(許してくれるかなー?)


「でも恩を仇で返すような真似は……」

(したくないよねー)


「今、この機会を逃したら、今度はいつ手に入れられるか分からないんだぜ?」

(分からないよねー)


「そうニャ! やるなら今ニャ!」

(いや、お前誰だよ?)

 いきなり猫耳のユーキが割って入ってきた。


「あたし? あたしは猫ニャ」

(いや、天使と悪魔は分かるよ……猫って何だよ? 猫って)


「猫も知らないのかニャ? 4足歩行でニャーと鳴く、この世で1番愛らしい生き物ニャ」

(いや、猫の説明を聞いてんじゃねーよ! てか何だ? こいつの喋り方、妙にイラっとするんだが?)


「何だか面白そうな事してたから、邪魔しに来たニャ」

(邪魔するんなら帰れ!)


「ああ、楽しい会話だったニャ……また来るニャ……っておいっ! どこかの新喜劇みたいな事やらせるニャ‼︎」

(自分で勝手にやったんだろ)


「うるせーぞ猫! 引っ込んでろ!」

「フニャ!」

「そうよ、引っ込んでなさい!」

「こっちもニャ?」

(ややこしくなるから引っ込んでろ!)

「ユーキまでニャ!」


「せっかく来たのに、酷い扱いニャ」

(いや、そもそも呼んでねーし、関係ねーし)



「さあ、決断しろ! ユーキ」

「決断するニャ!」

(うーん……やっぱり欲しい!)


「なら可能性に賭けようぜ!」

「賭けてみるニャ!」

(うん、賭けてみる! てか猫うるせー!)


「もう、どうなっても知りませんからね」

「よし、やれ!」

「やるニャ!」

(やるぞ! そして猫邪魔!)

 悪魔の誘惑に負け、猫の喋りにイラつくユーキであった。



「さあ、最後まで闘うと言うのなら、かかって来なさい! ユーキ!」



「ユーキ選手、最早魔力も尽きて勝ち目はないと思われますが、まだ闘うつもりなのか?」



「ぐっ! うあああああ‼︎」

 突然胸を押さえて苦しみ出すユーキ。

「え? ユーキ、どうしたの?」


「あっと、これはどうした事か? ユーキ選手、苦しそうに胸を押さえている……大丈夫なのか?」



 崩れる様にして、仰向けに倒れるユーキ。

「ユーキ‼︎」

 慌ててユーキの元に駆け寄るパティ。

「ねえ! 大丈夫なの? しっかりして、ユーキ‼︎」



「な、何と! とうとう倒れてしまったユーキ選手‼︎ 今、レフェリーが確認を取りに行きます‼︎」



 観客も心配そうだ。

「どうしたんだ? 大丈夫なのか? ユーキちゃん」

「何か苦しがってたぞ? どこかダメージ受けたんじゃないのか?」

「早く助けてあげてー‼︎」


「アイバーン様‼︎ ユーキさんが大変です‼︎」

「ん? あ、ああ……だがどうも不自然だったのだが……」



 ユーキのそばまで来たパティ、だが次の瞬間、両足でパティの胴を挟み込むユーキ。

「フハハハハハ‼︎ 掛かったなパティ‼︎」

「え? ユーキ? ええ? 何これ?」


 いきなりの事態に驚いているパティ。

 その隙を突いて、パティの片腕を取り、首に両足を絡ませて三角絞めの体勢に入るユーキ。

「ぐっ! 絞め技?」



「ああっとー‼︎ 何とユーキ選手、死んだフリだー‼︎ パティ選手も我々も見事に騙されましたー‼︎」



「ユーキ君、何て作戦を……」

「なりふり構わず、ですね」



「こんな物! すぐに解いて……」

 パティが脱出しようとすると、ユーキが何か小声で魔法を発動させる。

 その直後、体からガクッと力が抜け崩れ落ちるパティ。



「もしかしてユーキさん……パティさんの魔力を吸収してるんじゃ?」

「ユーキ君……それは邪法だ……」

 頭を抱えるアイバーン。

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