第8話 女ったらしとはよく聞くけど、男ったらしってあまり聞かないね

「今回はかなり苦戦しましたが、何とか勝ちましたユーキ選手……これで3人勝ち抜き成功です‼︎」



 倒れているユーキの元に近付いて来るバルカン。

「これじゃどっちが勝者か分かんねーな……ほら、立てよ」

 ユーキに左手を差し出すバルカン。

「うん、ありがと」

 手を取り起き上がるユーキ。



 バルカンの肩の傷を見て。

「あ、早く止血しないと」

 傷を治療しようとするユーキを制止して。

「俺はいい……治癒魔法が使えるんなら、自分の傷を治しな……お前だってボロボロじゃねえか」


「あ、じゃあせめて肩を貸すよ」

「いや、それもいい……」

 バルカンの腕をとったものの、2人の身長差があり過ぎて、肩を貸すと言うよりも、まるでユーキの肩を抱いているような状態だった。

「……あまり意味は無いようだから」

「あー……ごめん……」

「いや……」

 気まずそうな2人。




「ヒーリング!」

 控え室に戻ってきたユーキは、自分の傷を治療し始めた。

「何とか勝てたけど、かなり危ない試合だった……こんなのがあと2戦も続いたらヤバイなー」



 治療を続けていると、次の対戦相手がモニターに映し出される。

 だがそこに映っていたのは、先日見せ物小屋でユーキに告白をした男だった。


「え? あいつは……」


「さあ、ユーキ嬢の次の対戦相手が決まりましたー! 紹介させていただきます! 名前はブント、23歳男性、クラスは盗賊、魔装具はナイフタイプ、魔力レベルは1、魔装具ランクは素材1プラス魔石1のランク2でございます」


「ブントって名前だったんだ……知らなかった、ハハ……あれ? でもあいつ、魔装具は持ってなかったはずじゃ?」



 治療を続けていると、スタッフが呼びに来る。

「ユーキ選手、お時間です! 闘技場までお越しください!」

「あ、うん……わかった!」

「やばー、まだ完全には治療終わってないのに」



「ああー‼︎」

 パティがいきなり大声を上げる。

「な、何だねパティ君? 急に」

「あいつ、何か見覚えあると思ったら、ユーキをさらった連中の1人よ!」

「ああ、そう言われれば確かに居たような」


「あいつー! まだユーキを狙ってるの? やはり息の根を止めておかないと!」

「やめたまえ、パティ君」

 パティの首根っこを掴んで制止するアイバーン。


「でも彼って確かあの時、魔装具は持ってなかったですよ?」

「そう言えばそうよねー」



「さあ、出てまいりましたユーキ選手! 今回も勝って4人抜き達成なるかー!」



 ブントと対峙するユーキ。


「ねえ君って、魔装具は持ってなかったんじゃないの?」

「こ、これは……き、今日ここに来たら、ユ、ユ、ユ、ユーキさんが、さ、参戦して……」

「そ、そしたら、ユ、ユ、ユーキさんに、か、勝てば……か、か、か、か、彼女に、で、出来るって聞いて……」

「そ、そ、それで急いで、み、店に行って……あ、兄貴にも、お、お金か、貸してもらって……け、契約し、して来たッス」


「え? じゃあさっき買って契約して来たって事?」

「そ、そ、そうッス」



「何と、驚愕の事実! ブント選手! 魔装具を契約したてのホヤホヤだったー‼︎」



「あいつ……舐めてるわね」



「えー……ブント選手には失礼ですが、これはもう結果が見えた気がします……あ、いえ、勝負は何が起こるか分かりません! それでは、ユーキ嬢争奪戦第4試合……始め‼︎」



「い、行くッスー‼︎」

 魔装具を具現化させて、ユーキに突進するブント。


 間合いに入るが、クルリとかわして背中に一撃を加えるユーキ。

「グフッ‼︎」

 ダウンすると、あっさりテンカウントが数えられた。



「しゅ、瞬殺ー‼︎ 予想通りと言うか、当然と言うか、一瞬で試合を決めましたユーキ選手ー‼︎ これで4人抜き達成でございます‼︎」



「すげえ‼︎ 一瞬で終わったよ!」

「やっぱりユーキちゃん強いー!」



「まあ、当然の結果よね」

「当然だな」

「当然ですね」



 意識を取り戻すブント。

「は……お、おいら……やっぱり負けたッスか? 儚い夢だったッス」

 落ち込んでいるブントに近づいて、手を差し伸べるユーキ。


「その……何だ……い、いきなり彼女とかは無理だけど……まあ友達、ならいいよ」

「ほ、ほ、ホントッスか?」

「うん」

「や、やったッスー‼︎ やっぱりユーキさんは女神様ッスー‼︎」

 そう言いながらユーキを拝むブント。

「拝むな!」



「フフ……ユーキ君と闘った男達は、みんなユーキ君のとりこだね」

「もう! ユーキの男ったらしー!」



 控え室に戻って行くユーキに声援が飛ぶ。


「頑張れ嬢ちゃん! あと1人だぞー‼︎」

「絶対勝てよー‼︎」

「ユーキちゃーん‼︎」

「ユーキー‼︎」


「うん、ありがと……僕頑張るよ‼︎」

 声援に手を振って応えながら、控え室に戻って行くユーキ。



「何だかんだ言いながら、結局魔装もせずにここまで来れたんだ……大したものじゃないか、ユーキ君は」

 ユーキを褒めるアイバーンだったが、隣のパティが何やら小声で呟いている。


「ダメだわ……こんなんじゃダメよ……もっとユーキの強さを見せつけないと……」

 そう言ってスッと立ち上がり、歩いて行くパティ。

「ん? パティ君? どこに行くんだ?」

「お腹でも空いたんでしょうか?」



 控え室のユーキは治療を続けていた。

「ふう……良かった……今回はダメージも受けなかったし、魔力もほとんど使ってない……傷の治療さえ終われば何とかなるかも」

「よしよし! ゲーム機が見えて来たぞー!」


 嬉しそうにガッツポーズをするユーキ。

 そして最後の相手がモニターに映る。



「皆様、お待たせしました! ユーキ嬢争奪戦、最後の挑戦者は、とんでもない大物が現れましたー‼︎」


 モニターを見たユーキが驚愕する。

「ええええええええー‼︎」


「知ってる方も多いんじゃないでしょうか! 風の魔道士、パティちゃんだー‼︎」



「え? 嘘? パティが、何で?」

 驚いた後に厳しい現実を思い知るユーキ。



「あ……ゲーム機が……ハ、ハハ……ハハハ……」

 夢と消えた野望に涙するユーキであった。




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