第14話 え? 誰?

「アイ君! あいつ複合体よ」

「ふむ……あの動きの早さと正確さ……もしや召喚士が近くに居るのかとも思ったが……複合体ならば納得だ」


「パティ君、魔石の正確な位置と数は分かるかね?」

「無理ね……いくら大きいといっても個体である以上、1体として認識され……いや……逆にこれだけ大きいなら……」


「アイ君‼︎ もう一度こいつの動き止められる? ただしさっきみたいに全体を凍らせないで……」

「足元だけ……と言う事かね? 可能ではあるが」

「じゃあお願い! こいつの上で直接探知をかけるわ!」

「了解した」




「パティってあんなに凄かったんだ……」

 岩山の隙間から戦いを見ていたユーキ。

「アイバーンも魔装したし……くそ! 僕だけこんなとこで1人コントやってる場合じゃない……早く加勢に……」


 ユーキが戦いに参加しようとしていたら、氷から脱出したワイバーンが咆哮をあげる。

「グワオオオオオオオオ‼︎‼︎」

「う……も、もうちょっと様子を見てからにしよう……うん……」

 ビビるユーキであった。




「アイスフィールド‼︎」

 アイバーンが大剣を地面に突き立てると、一面が凍り始めた。

 ワイバーンの足元まで氷が広がると、ワイバーンは足を取られ前のめりに転倒し、完全に地面に這いつくばるかっこうになって動けなくなる。


「ありがとう! 30秒だけ保たせて!」

「うむ……急いでくれたまえ」

 そう言ってパティはワイバーンの背中に降り立つ。

「ウェイブソナー」

 目を閉じ、トン……トン……と間隔を空けて何度も杖を付くパティ。

「真下に大きいのがひとつ……頭にひとつ……あとは……」


 パティが探知を続けていると、ワイバーンが体を起こそうと動きだす。

「もう保たないぞ‼︎ 離脱したまえ‼︎ パティ君‼︎」

 ワイバーンが動き出した頃、間一髪飛び立つパティ。


「どうだったね?」

「ええ、分かったわ……マークするわね」


「ホーミングアローズ‼︎」

 パティが叫ぶと、周りに6本の光の矢が現れた。

「ここと……ここ……こっちも……」

 パティがまるで指揮をするように指先を動かすと、光の矢はそれぞれワイバーンの頭・胴・両腕・両足の6カ所に刺さって行く。

「了解した」



 パティが自分の魔装衣の異変に気付く。

「ヤバっ! 魔装が解けかかってる……結構派手にやっちゃったからなー……アイ君! あたしもう魔力が限界みたい! あと頼める?」


「うむ……あとは私に任せて、休んでいたまえ」

「あ! でも魔石の分け前はユーキも入れて4等分だからね!」

「ああ! 分かっているさ!」

「……ユーキ君か……色々と確かめたかったのだが……まあ今回は致し方あるまい」




「グルルルルル‼︎」

 アイバーンを見ながら、どこか笑っているようにも見えるワイバーン。


「ん? もしかして笑っているのかね? ああそうか……先程は私に勝ったから舐めている、と言う事かね……」

「ふむ……名前が似ているので、いささか親近感もあったのだが……不愉快だよ‼︎」

 キッと目つきが変わり、魔力を高めるアイバーン。


 ブレスを吐く体制のワイバーン。

「もう一度、力比べをしようというのかね?」

「いいだろう! 私も負けっぱなしというのは、我慢ならないのでね」



「ブオオオオオ‼︎」

 ブレスを吐くワイバーン。

 刃先を下に向けて大剣を構えるアイバーン。

 ブレスが大剣に当たるが、アイバーンは微動だにしない。

「先程とは状況が違うのだよ」

 ブレスを全て受け切ったアイバーン。



 何かに気付いたパティ。

「アイ君‼︎ そいつの尻尾‼︎」

 さっきパティが消し飛ばした尻尾が再生していた。

「ふむ……地脈が集まっているせいか、再生スピードが早いようだね」

「だが既に魔石が破壊されている以上、それは形骸でしかない」



 ワイバーンがすでに再生している左腕を振り下ろして来た。

 ドォン‼︎


 アイバーンを叩き潰したと思われた瞬間、上腕部付近に現れ大剣を横殴りに振り回すアイバーン。

 左上腕部を切り裂き、中の魔石が砕け散る。

 魔石を失った左腕が消滅した。

「グワアアア‼︎」


「失礼……あまりにノロかったので、ついかわしてしまったよ」



「あの動きって……」

 その様子を見ていたユーキが、初めてアイバーンに会った時の事を思い出す。

「そうか……あれってさっきメル君が言ってた幻術の応用だったのか……」



「避けてすまなかったね……次は真っ向勝負と行こうか」

 その挑戦を受けたように、今度は右腕を横殴りに振り回してきたワイバーン。

 アイバーンに当たった瞬間、ピタリと腕が止まる。

「また私の勝ちのようだね……では右腕ももらうよ」


「インフェクションアイス!」

 大剣から発した氷がワイバーンの右腕を凍らせながら伝わって行き、魔石を破壊する。

 消滅するワイバーンの右腕。

「グギャアアアアア‼︎」



 体の向きを変え、逃げる素振りを見せるワイバーン。

「逃げるのかね? ではこの勝負、私の勝ち……という事でいいのかな?」

 だが逃げるのかと思われたワイバーンが突如尻尾を振り回してきた。


 尻尾がアイバーンを捉えた瞬間、すでにアイバーンの姿はワイバーンの上にあった。

「覚悟したまえ!」

 ワイバーンの背中に大剣を放り下ろすアイバーン。


 斬撃が伝わり、ワイバーンの背を真っ二つに切り裂く。

 その背の中から、直径1メートルはあろうかという青い魔石が現れた。

 だが魔石自体には全く傷が付いていない。

「ふむ……さすがに硬いね……これは並の技では破壊出来そうにないか……」



 その様子を見ていたパティ。

「大きい……なんて大きな魔石……蒼天石(そうてんせき)とはいえ、あのサイズならかなりの価値があるわ……」



 大技を出す為、魔力を溜め始めるアイバーン。

 だが突如ワイバーンが暴れ出す。

「この状態で動けるのか? 中々頑張るね」

 パティの近くに降り立つアイバーン。

 一瞬動いたものの、すぐに力尽き倒れこむワイバーン。



「最後の足掻きか……」

 再び魔力を溜め始めるアイバーン。

「さあ、土に帰るがいい」

 トドメをさす為に飛び上ろうとした時。


「待って‼︎」

 アイバーンの両足をタックルのように後ろから抱え込むパティ。


 ビターン‼︎

 イキナリ両足を掴まれた為に、飛び上る事が出来ずに豪快に地面に顔を打ち付けるアイバーン。


「な、何をするのかね? パティ君‼︎」

「あ、ゴメン……つい」

「ねえ、あの魔石砕いちゃうの?」

「この場所に居る限り、魔力切れで停止する事は望めない……砕くしかなかろう」

「そう、よね……」



 再び飛び上ろうとすると、またしても両足を掴むパティ。

 ビターン‼︎


「い、いい加減にしたまえ‼︎ パティ君‼︎」

「だってえー! あれだけのサイズなら売れば三千万ジェルはくだらないのよー! 砕いちゃったら価値がグンと下がるじゃないのー!」

「いや、そんな事を言っている場合ではないだろう‼︎」



 2人が揉めている後ろで、ほぼ体の再生を終えたワイバーンが体を起こす。


「アイバーン様‼︎ 後ろ‼︎」

 近くまで来ていたメルクが叫ぶ。

 ブレスを吐くワイバーン。

「しまっ……」




 直撃と思われたとき、真っ二つに割れるブレス。



「何遊んでんだ? お二人さん」


 爆煙の中から現れたのは、真っ白な鎧を纏った青い髪の青年だった。



「倒さないんならあの獲物、俺が貰ってもいいか?」




「え? 誰?」

「え? 誰?」

「え? 誰?」


 3人が口を揃えて驚く。

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