第2話 パトリシアと書いてパティと読む

 水面に映った少女を見ながら、顔を振ったり手を動かしたりしてみた。


(やっぱ僕だよなー)

 映った少女が自分自身だと改めて認識する。


「ねえ、さっきから何やってるの?」

 先程の少女が隣に来て水面を覗き込む。

「湖に何かあるの?」


「あ、いやちょっと確認を」

「……?」

 不思議そうな顔をして首を傾げる少女。



「あ、そういえば、えっと……君は?」

「ん? 名前? パトリシアよ、パティでいいわ……あなたは?」

「僕は……」

 結城大和と言おうとして、一瞬考えた。

(どうせ夢なんだし、女の子っぽい名前がいいよなー)

「ユーキ! 僕の名前はユーキだ‼︎」

 咄嗟に結城という苗字を名前にした。



「そう、よろしくね! ユーキ」

「うん、よろしく」



「さて、夢だと分かったからには何しよっかなー?」

「夢? 夢じゃないわよ?」

「うん、夢に出てくる人はみんなそう言うんだ」

「いや、言わないと思うけど……」



「よし! なら最終確認だ」


 そう言ってパティの頬に手を伸ばすユーキ。

「つねるなら自分の頬にしなさいね」

 冷ややかな目をしながら言うパティ。

 お約束のボケをあっさりスルーされたユーキ。


「確認したいなら、あたしが手伝ってあげるわ」

 そう言いながら両手でユーキを頬を横に引っ張る。

「ほへんははい(ごめんなさい)」


「これで分かったでしょ?」

 腕を組みながら言うパティ

「うん、分かった……全然痛くない、やっぱり夢だった」

「え? 全然痛くない? 嘘……かなり強く引っ張ったのに?」



「さて、最終確認も済んだ事だし……目が覚めない内に魔法を使ってみよう!」


「ねえ、パティって魔法使い?」

「え? ええ、そうだけど?」

「僕に魔法の使い方を教えてよ」

「え? 魔法の使い方? あなた知らないの? 魔装具持ってるのに?」

「え? 魔装具って何?」

「その首に掛けてる奴よ」

 ユーキの胸元を指差すパティ。


 自分の胸元を見ると、例のペンダントが掛かっていた。

「ああ、これかあ」

 ここで出て来たか、と言う感じで嬉しかった。


「で、これをどうしたらいいの?」

「ホントに何も知らないのねー」

 呆れ顔のパティ。

(知らない? それとも記憶喪失?)

 一瞬考えたが、吹っ切ったように立ち上がるパティ。


「まあいいわ! じゃあ実際にあたしがやってみるから見てて」


 そう言いながらペンダントに付いてる装飾品を引っ張ると、銀色をした魔法使いが持っていそうな杖が一瞬にして現れた。


「おおー、かっこいいー!」

 感心したように手を叩くユーキ。


「実戦ならここに魔力カートリッジをセットするんだけども」

 リボルバー風の所を指差すパティ。

「今は試し射ちだから、無しで行くわね」


 杖を構えるパティ。

 すると杖に付いてる宝石らしき物の前に、周りの空気が集まっていく。


「ウインドカッター!」

 ちょっと控えめなトーンでそう言うと風が巻き起こり、そばにあった木の枝を切断した。


「おおー! 魔法使い、いいなー」

 ユーキのペンダントが淡い光を放っている。


「じゃあユーキもやってみて」

「これ、だよね」

 自分のペンダントを手に取るユーキ。

「魔力を込めながら引っ張れば外れるから」  

 魔力の込め方はよく分からなかったが、とりあえず気合を入れて引っ張るとクサリから外れた。


 すると長さ約2メートル程の白金色のロッドが現れた。

 パティの魔装具と同じようにロッドの端に宝石、中心より少し外側にリボルバーが付いている。


 するとそれを見たパティが何故か驚いている。

「ちょ、ちょっとそれって! プラチナランクの魔装具じゃないの‼︎」

「プラチナ? 何が違うの?」

「プラチナランクって言えば、市販されてる魔装具の中では最高ランクなのよー‼︎」

「何で魔法の使い方も知らない娘が、そんな最高級の魔装具持ってるのよ?」

 最高級と聞き、100円で買ったとは言い出せないユーキであった。


「あ、ええっと……実は僕もよく覚えてないんだ」

 とりあえず誤魔化してみた。

「そう、やっぱり記憶喪失だったのね」

 何だか都合よく納得してくれたみたいだ。

「まあ別に夢なんだし、良しとしよう」



「くっ……あたしだってまだシルバーランクなのに……」

 拳を握りしめ悔しがっている様子のパティ。


「ま、まあそれはいいわ」

「カートリッジは持ってない……わよね」

 するとユーキのロッドから一個の黒いカートリッジが飛び出してきた。

「あれ? カートリッジ持ってるじゃない」

「え? いや、覚えが無いんだけど」

「ちょっとそれ見せて」

 パティにカートリッジを手渡す。


「うーん、黒いカートリッジなんて初めて見たわ……魔力カートリッジとはちょっと違うみたいね……何だろ?」

 じっと見ていたが、よく分からなかったようだ。

「よく分かんないから、まあいいわ」

 ユーキに戻された。

「丸腰じゃ危ないからあたしのを貸したげるわ」

 そう言ってブロンズ色のカートリッジを2個差し出す。


「あげたんじゃないわよ! 貸すだけだからね!」

「ランクは低いけど、結構高いんだから……」

 顔を逸らしながらボソッと言うパティ。


「じゃあ試しに一個セットしてみて」

 リボルバーにセットすると、宝石が光を放つ。

「カートリッジをセットしてるだけでも、常に魔力が供給されてるから」

「充填されてる魔力を全部使いたい時はこのトリガーを引いてね」

 リボルバーの横にトリガーらしき物がある。

「あ、でも今は引いちゃダメよ……ちゃんと制御出来ないうちは暴発する危険があるから」

「怖いこと言うなあ……」

「じゃあ、炎でも風でも何でもいいから、魔石に魔力が集まるのをイメージして」


(イメージ……初めて使う魔法と言えばやっぱ炎かな?)

 RPG的な発想で炎をイメージした。

 少しの間が空き、徐々に魔石の前に炎が集まりだす。


「お、おおー!」

 夢とはいえ、目の前のリアルな光景に感動の声を上げる。

「じゃあその玉を維持したまま投げる様なイメージで……そうね、あそこの岩を狙ってみて」


 そう言いながら50メートル程先にある岩を指差すパティ。

「んー、はっ‼︎」

 ロッドを振りかぶって勢いよく振り下ろすと炎の玉は岩に向かって飛んで行ったが、岩の手前2メートル程の所に着弾した。

「あー、外れた!」

 悔しがるユーキだが。

「いや、初めてで飛ばす所まで出来たら上出来よ」


「いやー! 興奮したー!」

「夢から覚める前に魔法体験出来て良かったよー!」







(え? この娘、まだ夢だなんて思ってるの? もしかしておバカ?)



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