ひめてん〜姫と天使と悪魔と猫〜

こーちゃ

序章 魔法使いと言ったら美少女でしょう

第1話 魔法使いと言ったら美少女でしょう

「結城さん、明日からもう来なくていいから」

「はあ……そうですか……」


 僕の名前は結城大和(ゆうきやまと)

 周りからよく、どっちが苗字? なんてからかわれたりするが、結城が苗字で大和が名前だ。

 35歳、独身、男ーーいわゆるおっさんって奴だ。



 趣味はアニメ鑑賞とゲーム。

 数々の派遣会社を渡り歩きながら日々を過ごしていた訳だがーー

 その派遣会社をたった今クビになった所だ。


 元々仕事よりも趣味を優先するタイプなので、ついつい仮病を使って仕事を休み趣味を楽しむーーなんて事をよくやっていたので、まあ自業自得なのだが。



「うーん、ヤバイ……生活費が……」

頭を抱えて凹む……が数秒後。

「まいっか! これでしばらく時間が出来たから遊びまくろっと‼︎」


 よく落ち込むが、立ち直りも人一倍早いのである。




「さて、ゲームの情報誌でも買って帰るか! あー、あと求人誌ももらって帰ろ」


 仕事探しは二の次である。




「ありがとうございましたー‼︎」



「さー、とりあえずは帰ってアニメ見よっと」

 本屋を後にしながら帰ってからの計画を色々考えていた。それだけでワクワクである。




 とある古本屋の前を通る時に、ふと気になって店の中を覗いてみる。

「古本屋かー、何か掘り出し物があるかも、ちょっと見てみるか」


 何かに引き寄せられるように奥の棚に行き、一冊の本を手に取った。

 全体が黒色でそこそこ厚みがあり、表紙には魔法陣らしき物が描かれている。

「あなたも魔法使いになれる」

 胡散臭さ爆発のタイトルだったが、何故か物凄く興味を惹かれた。


(ん? (魔力が込もったペンダント付き)? 古本だから付いてないかも)

 一応本を開いて確認してみた。


(お、ちゃんとついてるじゃないか)

 本の古さに反して、ペンダントはとても綺麗なケースに入っていた。しかもケースを開けたような跡も見当たらない。


(本だけ読んでペンダントは取り出さなかったのかな?)

(はっ‼︎ まさかめっちゃ高い本だから、価値が下がらないように未開封のまま売りに来たとか?)

(うーん……これ、いくらするんだろ?)


 本を見回しても値札がどこにも無かったので、レジに座ってる店主らしきおじいさんに聞いてみた。

「あのー、すみません……この本っておいくらですか?」


「はい、いらっしゃい……ちょっと待ってねー」

 そう言いながら本をグルグル見回すが。

「あれー? 値札付いてないねー……まあ、かなりボロボロだから100円でいいよー」


「100円⁉︎」


 あまりの予想外の安さに変な声を出してしまった。


「どうしますか?」

「あ、はい……買います」


 本自体の胡散臭さは置いといても、あのペンダントだけでも100円以上の価値は充分あるだろうーーこれを買わない手はない。



 家に帰り当初の予定通りにアニメを見、買ってきたゲーム雑誌を読み、求人誌をパラパラっとめくるーーそんなに本気で見てる訳ではないーーちゃんと仕事探してるよっ、と自分に言い訳する為である。



 夜中の2時を過ぎた頃、睡魔が襲ってきたーー昨夜も2時頃までゲームをやっていたうえに、朝は仕事の為5時に起きていたーー完全な寝不足である。


「ふあーあ、そろそろ寝るか」


 早起きする必要が無くなったから別に起きていてもよかったのだが、今日の所は寝る事にした。


 布団に横になった時、ふと古本屋で買った本を思い出した。


「あ、そういえばあの本まだ読んでなかったな」

 明日にしようかとも思ったが、何か気になったのでちょっと読んでみる事にした。



「何々? 子供の頃、魔法使いになりたいと思った事はありませんか?」

「うん、あるね」


『魔法は実在するんです』

「ホントかよ」

『ホントなんです』

「返事した? いや、偶然ハマっただけか?」


『30歳まで童貞を守っていれば魔法が使える! なんていう話を聞いた事はありませんか?』

「あるね、未だに使えないけど」

『え? あなたその歳で童貞? 引くわー!』

「うるせーよ‼︎」

 思わず本にツッコンでしまった。



『そんな天然記念物的な童貞君でも』

「ほっとけ!」

『そうじゃない方でも、この本さえあれば誰でも魔法使いになれるんです』


「やっぱり胡散臭いなー」

『今、胡散臭いなーって思ったあなた‼︎』

「心読んでんじゃねえ」


『騙されたと思って試してみて下さい!』

「まあ、やってみるけどね」


『あ、その前にまず魔法についての事を色々説明しますので読んでみて下さい』


「えー、この分厚い本全部読むのー めんどくさいなー」


『めんどくさい?』

「めんどくさい」

『読まない?』

「読まない」


『そっかー、じゃあ仕方ないなー……』

「てかさっきから何で会話みたいになってるんだよ‼︎」


『折角頑張って考えたのになー』


「ん? 今、考えたって言った⁉︎ 考えたって何だよ? 魔法についての設定を考えたって事か? さっき魔法は実在するって言ってたよな?」


『あ……えーと、考えたっていうのは魔法の事をどういう風に説明したらいいかなー? って事で……テヘッ!』


「いや、だから会話すんなっての!」

 何なんだ? こっちの考えを予測して書いてんのか?


『では、説明を読むのがめんどくさいっていうダメダメな人は……』

「ムカつく!」

『実践してみよう‼︎ のページへお進み下さい』


 指示されたページを開き、説明を読む。


「えっと……ペンダントを取り出し首にかけてください……と」

 ケースを取り出して回りを見てもやはり開けたような跡はどこにも無い。

「おー、ホントに新品じゃん、こりゃ得したな」


 ケースを開けペンダントを取り出すーー色は銀色っぽくて、宝石のような物が付いている。


「純銀製? いや、まさかな」

 貴金属の知識など皆無なので、確かめようもない。


『次に仰向けになり、ペンダントの上に本誌を置き、その上に両手を組んでください』

「そして目をつぶり、あなたがなりたいと思う魔法使いをイメージして下さい……か」


「ん? 注意?」


『イメージ中は余計な事は考えないでね』

「余計な事とは?」


『例えば、あのアニメキャラ可愛いなーとか』

「ふむふむ」


『付き合うならあの娘かなーとか』

「うん、よく考える」


『結婚するならあの娘だろーとか』

「彼女と嫁は違うんだよねー」


『あの娘は妹タイプだよねーとか』

「うん、そうそう!」

『え? やだ、キモーい!』

「破り捨てるぞ‼︎」


「まったく‼︎ 何なんださっきからこの本は……ケンカ売ってんのか?」


『ゴメンゴメン、そんなに怒んないでよー』

「怒る事前提かよ‼︎」


『まあとにかく!』

『余計な雑念がみんな反映されちゃうから、気をつけてって事……分かった?』


「それは分かったけど、何かさっきから口調が馴れ馴れしくなってないか?」


『はっ! これは失礼しました……気分が乗ってきたもので、ついつい気さくにちゃべっ……』


「噛んだ」


『か、噛んでないもんっ‼︎』


「だから会話すんなっての」


『えーそれでは、楽しい魔法ライフを、どうぞ楽しんで下さい‼︎』


「楽しい2回言った」


『もー! うるさいなー‼︎』




「何と言うか……こちらの返しを予測して書いてるなら天才的だなー」



「ま、気を取り直してとりあえずやってみっか」


 本の説明通りに横になり、イメージを始めた。


(魔法使い……魔法使いか……魔法使いといえばやっぱり可愛い女の子だよなー)

(年齢的には……小学生、ではちょっと子供過ぎるし高校生、では少し上過ぎるか……)

(やっぱ中学生ぐらいがベストかなー……?)




「おっと‼︎ いかんいかん、寝落ちしかけた」


 パッと目を見開き辺りを見渡すーー

 まだ暗いので時間を確認すると30分程経っていた。

「ちょっと寝ちゃったか、よし! 改めてイメージイメージ」

 再び目を閉じてイメージを始める。


(んと、さっきは何をイメージしてたっけ……? まいっか! じゃあどんな魔法具がいいかなー?)

(リリ◯ルな◯はみたいに、魔力をカートリッジに込めて装填できたらカッコイイよなー)


(そんで使う魔法は…………)




「おおっと‼︎ いけね、また寝落ちしかけたよ」


 そう言いながらガバッと体を起こした。


「キャッ‼︎」


 先程と同じように目を開き辺りを見渡すと、明るい昼間の草原が見える。

「あちゃー! 朝まで寝ちゃったかー⁉︎」


 だんだん頭が冷静になってくるにしたがって、幾つかの違和感に気付く。


「ちょっとー!」


 明るいのは夜が明けたのだろうから分かる


「ねえってばー!」


 だが場所がおかしいーー部屋で寝ていたはずなのに、ここは明らかにサバンナの様な草原なのである。


「もしもーし! 聞こえてますかー?」


 そして先程から聞こえるこの声ーー


 恐る恐る声のする方向を向くと、そこには黒をベースにしたゴスロリと魔法使いを合わせた様な服を着、ストレートの黒髪で17、8歳ぐらいの美少女が居た。


「やっと反応した」


 1つの結論が頭に浮かんだ。

(なるほど、これは夢だな……魔法少女をイメージしながら寝たもんだから、こんな夢を見てる訳だ)


「ねえ、こんな所で何してるの?」

「あ、いやまあ……寝てた?」

「呆れた……こんな所で寝てたら野盗や魔物のいいエサよ?」

「はは……そうです、ね」


 そしてもう1つの違和感は妙に高い、そして可愛らしい自分自身の声である。


「ちょ、ちょっと失礼」

 そう言いながら立ち上がり、近くにあった湖を覗き込む。


 そこに映ったのは、歳は14、5歳くらいーー

 肩口まで伸びたピンク色の髪をした、ハッキリ言って僕の好みドストライクの美少女だった。



「女の子なんだから気をつけなきゃダメよーっ‼︎」





「うん、夢確定‼︎」




















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