第101話 対策検討……


 アーサー君は父を亡くして落ち込んでいるキャスバル王子たちについている。


「アーサー君、緊急事態なの、騎士団長のお父上を紹介してもらえない?」

「緊急で父さんを紹介?分かった」


 アーサー君はがっちりとした中年の男性の元へ私とカスミちゃんを誘導すると、その男性に声をかける。


「父さん、こちらは友人のカスミさんとアイネリアさんだ。

 父さんに緊急の話があるそうだ」


 騎士団長は撃たれたジオニール王の遺体に付き添っていた。

「ああ、いつも息子が世話になっている。

 騎士団長をしているガレス・ド・ガリアンだ。

 このたびは、危機的な状況で私たちを転移させてもらい助かった」


 さすがは騎士団長だ。このような状況にもかかわらず落ち着いているように見受けられる。

 私は早速用件を切り出す。

「そのことと関連があるのですが、今回のような件での対応は、攻めてきた公爵家の兵を叩くのと、黒幕の兵力を叩くのとどちらの方が有効でしょうか。」


「やはりこの叛乱の影には黒幕がいるというのか……」

 ガレス騎士団長は独り言のように呟き、私はその言葉に答える。

「ええ、私とカスミちゃんはそう考えています」


 しばらく沈黙したガレス騎士団長がゆっくりと言葉を紡ぐ。

「一般論では……、末端の兵にあまり力が無い場合は、背後の大兵力を先に排除すると先端は瓦解するだろう。

 しかし、最前線で戦っている兵力が、十分な指揮能力を有し、戦力としても大きければ、こちらの損害は背後を叩く間に拡大することになる……

 こちらの兵力が十分にあるのなら両方を叩くこともできるが、両面作戦が無理なら、見極めてどちらを叩くか考える必要がある。

 どちらにしても、迅速な決断と対応が重要だろう……」


「ありがとうございます。参考にします」

 私は礼を言うと、現状に思いを巡らす。


 現状ではこちらの戦力が圧倒的に不利である。

 反乱軍はローミラールと手を組み、彼らの兵器を使用している。

 離れたところから攻撃する手段としては魔法か弓だろうが、殺傷力がある魔法をレーザー兵器よりも早く発動できる魔術師はいない。

 唯一対抗できるのは私の他にはカスミちゃんだけ……。しかも向こうに先に発見された場合、こちらが攻撃する前に撃たれれば私たちといえどもそこで終わる。


 次点で王子たちやロバ-ト君だろうが、私たちに比べると、威力は十分でも戦闘の実戦経験が違う。

 この3年の特訓でレイモンド王子、キャスバル王子、ロバート君の魔法(超能力)は間違いなくこの世界最強となっており、今では無詠唱での発動が当たり前になっているが、人を殺せる程度の威力をタイムラグなしで発動するのは不可能だ。

 それは私たちにも言えることで、敵が早撃ちの名手でなくても、引き金を引くのと、意識していない状態から集中力を高めて超能力を発動するのでは、よほど使い慣れている能力で無い限り銃器が勝つ。

 まして相手は光線兵器だ。

 銃弾なら早いとは言っても、もしかしたら対応できる速度かも知れない。

 またつまらぬものを切ってしまったと言いながら、刀で銃弾を切り落とす人の話を聞いたのは前世だっただろうか。

 が、光の速さに対応できるかどうかといえば無理である。前世を含めて、人類は未だに秒速30万キロの壁を破れていない。


 とりあえず、気づかれる前に魔法か弓で倒す必要があるが、敵がどこから来るかどれだけいるかをまだ正確には把握できていない。

 それどころか、大半の人々は反乱が起きていること自体を知らないのだ。


「カスミちゃん、どう思う?」

「とりあえず、王都が陥落するとイメージ的にまずくないかな。敵が王都を奪ったと大々的に報じれば、クーデターが成功して政権が移行したというイメージを内外に植え付けてしまうと思うの……」

「今の王都の戦力で、ローミラールの兵器に対抗して王城の防衛ができるかどうかは分からないわよ」

「城門を閉ざして決して開けないように警告し、敵を見つけたら魔法で気づかれる前に遠隔攻撃しかないでしょうね。

 けど、敵が次々増えたらどうしようもないわ」

「やはり母船を叩くのも必要ね。二手に分かれる?」

「けど、一人だと不意打ちされたとき厳しくない?後ろに注意する人間が必要よ」


 二人で相談していると、王子たちが近寄ってきた。

「アイネリア、こんなときだが状況を一番分かっているのはどうやら君たちらしい。

 手短でいい。説明してくれ」

 レイモンド王子の言葉に必要最低限のこととして、敵がローミラールであること。光線兵器があること、対抗するには魔法で不意を突くしかないこと、母船を叩く必要と王都の防衛の両方が重要そうなこと、人手が足りないことを伝えた。


「分かった。そのローミラールの母船というものがどういうものかとか、どう攻撃するかは、残念ながら僕らでは分からない。

 しかし、城の防衛なら僕らでも何とかなるかも知れない」

「俺たちを王城へ送ってくれ。やれるだけやってみる。

 その間にカスミとアイネリアは母船を叩いてくれ。

 お前たちならできるんだろ?」

 レイモンド王子とキャスバル王子はしっかりとした口調で言う。


「分かりました。それでは、王城へ帰るメンバーをお選びください。

 私とカスミちゃんは皆さんを送り届けしだい、敵の母船を叩きます。」


 結局、王子たちとロバート君、アーサー君に加え、彼らの父である騎士団長と宮廷魔術師長、それに何故かお父さまとジョーイさんも同行することとなった。

「お父さま、危ないからここにいていただけませんか?」

「そうよ、お父さんたちはそんなに魔法が得意なわけでもないんだから危ないよ」


「娘が命をかけているのに、ここで動かなければ父親失格だ」

「その通り!たまにはお父さんのかっこいいところを認識してもらいたい」


 私とカスミちゃんの説得にもかかわらず、お父さまもジョーイさんもやる気だ。

 私とカスミちゃんはため息をつき、渋々お父さまたちもつれて転移した。


「いい、みんな絶対無理しないでね!できるだけ早くかたづけてもどるから」

「あい、分かりまちた、お姉たま!」

 私の呼びかけに返事をしたのは、連れてきた覚えがないカオリーナだった。


「ちょっと、カオリーナ、あなたなんでここにいるのよ。月面コロニーからどうやって来たの?」

「お姉たまのまねをちて、転移ちまちた!」

 なんと、カオリーナはたった一回、一緒にテレポートしただけでテレポーテーションを覚えてしまったようだ。何という天才だろう。7歳になったばかりの幼児とは思えないすさまじい才能だ。


「危ないから月へかえりなさい」

「大丈夫でつ。この中ではわたちが一番強いから、わたちがみんなを守ってみちぇます。

 お姉たまたちは安心して戦ってきてくだちゃい」

 発音は舌足らずだが、言っていることはとても7歳とは思えないと思っているとお父さまがとんでも発言をした。


「さすがに姉妹だな。アイネリアも7歳にして自立し冒険者ができるほどしっかりしていたが、カオリーナもたいしたものだ。

 アイネリア、君自身が7歳のときを考えると、ここで認めてあげていいんじゃないかい」


 お父さま、前世の知識を持っていた私やカスミちゃんと、超能力が強いだけのカオリーナを一緒にしない方がいいと思います……

 心の中で反論したが、前世についてはさすがにカミングアウトできない。

 しかたない。

「分かったわ。気をつけるのよカオリーナ」


 私は一刻も早くけりをつけて、お父さまやカオリーナが無茶をする前に王都へもどってくるべく、カスミちゃんを連れて、かつて大活躍した張りぼて宇宙船へとテレポートした。






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