第72話 魔法の進化が判明した件について……


 さて、ようやく目が覚めた6時間目は魔法の講義と訓練だ。

 魔法の練習場は特に丈夫に作られているという話なので、少々大きな石をぶつけたくらいで壁に穴が空いたりはしない。


 魔法が苦手な生徒もいるため、教官のサマンサ先生は基本から丁寧に教えている。

サマンサ先生のフルネームはサマンサ・ド・エドモンズで伯爵家の三女らしい。

 政略結婚を嫌って学園の教師になり、25歳という若さで宮廷魔術師を超える魔法の使い手ということだ。


「魔法はイメージが大切です。

 イメージがしっかりしていれば発動しますが、あやふやな状態では発動しません。

 呪文はイメージを固定する上で重要な役割を果たしますが、最新の研究では簡略化や無詠唱も可能なことが分かっています。

 要はイメージをしっかりと持つことができれば魔法は発動するのです」


 サマンサ先生のお話から、私が胎児期に読破した魔法大全の頃から比べるとかなり進歩していることが分かる。


 無詠唱で発動できる人間は限られていると思っていたが、今の先生の話からすると、もっと一般的なのかも知れない。

 私は質問してみることにした。


「はい、サマンサ先生、質問です。

 今、無詠唱で魔法を使える人は多いのですか?」


「そうですね…

 昔に比べると多いと思いますが、そもそも魔法を発動できる人の数がそれほど多くないので、無詠唱で発動できる人は更に少数でしょう。

 実際この国でも私を含めて10人いるかどうかではないでしょうか」


 確かに魔法大全の執筆時よりは多いようだが、それでも圧倒的に少数派のようだ。

 やはり、私たちの魔法についてはある程度隠す方が賢明なのではなかろうか。

 私は斜め後ろの方を振り返りカスミちゃんとアイコンタクトを取る。


 カスミちゃんもこちらを見ていたので、視線を合わせて頷く。

 伝わっただろうか…

 本当にテレパシーが使えないことがもどかしい。

 もっとも、この世界にテレパシーという能力があるのかどうか分からないが…


 そうだ、分からなければ聞いてみよう。

 私は質問してみる。


「サマンサ先生、私の自宅にある魔法大全という本に、火風水土の4属性とそれに分類できない魔法があると書いていたのですが、分類できない魔法ってどんなのがあるんですか」


「アイネリアさんはあのヘイゼンベルグ家の出身でしたね。既に魔法大全を読んだことがあるとはたいしたものです。

 私も魔法大全の写本を読んだことがありますが、四属性以外の魔法は本当にその魔法使いのオリジナルのものが多く、分類不能な魔法がほとんどです。

 現在知られているものでは空間転移魔法が有名ですが、魔力を大量に消費するため長距離の移動を転移で行うのはお勧めできません。

 他には重いものを軽くする魔法などもありますが、これもかなりの魔力を使いますので、長時間の使用や大質量の物を軽くすると魔力切れの心配があります」


 どうやらテレポーテーションと重力制御は認知されているようだ。

 もっとも重力を制御して軽くしているのかサイコキネシスで持ち上げて軽くしているのかは、今の先生の話だけでは判断できない。


 私はもっとも聞きたかったことを質問してみる。

「それでは、声に出さずに考えを伝えたり、相手の考えていることが分かったりする魔法はありますか?」


 先生はちょっと考えてから答えてくれた。

「それに近いものは聞いたことがあります。

 感情を読み取る能力ですね。

 何を考えているのかは分かりませんが、怒っているのか、隠し事をしているのかなどが何となく分かる能力ですね。

 勘がいい人なら分かる程度のものから、かなり正確に感情が分かるものまで様々ですが、特に親しい人の間では感情が伝わりやすいと言われています。

 考えを伝えたり読み取る能力は、相手に触れている状態で声が聞こえたという報告はありますが、離れた相手の心は読み取れないはずです」


 どうやらエンパシーは一般的な能力の一つのようであり、テレパシーの方は接触している必要があるようだ。

 これは是非後で試してみよう。

 そんなことを考えていると、授業は魔法の実践練習に移ることになった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る