第67話 初日の授業がとても眠い件について…
結論から言おう。
朝のホームルームまではかろうじて意識があった。
というか、記憶があるというべきだろう。
後で聞いたカスミちゃんの話によると、一応1コマ目から5コマ目までの授業中も起きている瞬間はあったようだ。
思い出せる範囲と、カスミちゃんの言葉を信じるなら、今日一日の私は次のような行動をしたようだ。
朝、寮をでてすぐに、カスミちゃんが後ろから追いかけてきた。
「アイネちゃん、おはよう!
一緒に行こうと思って部屋をノックしても返事がなかったから、先に行ったんだと思って走ってきたの」
「おはよう、カスミちゃん。
今日はちょっとわけありで寝不足なの。
ゴメンね。一緒に行くって約束していたかな?」
「ううん、約束はしていなかったけど、どうせ同じクラスだか……って、大丈夫?
なんだかまっすぐ歩けていないよ?」
「そうなの?
私としてはすごく一生懸命まっすぐ歩いているつもりなんだけど……」
「寝不足ってどれくらい寝たのよ?」
「うーん、0時間くらいかな……」
「それって完徹じゃない!
今日の授業大丈夫なの?
最初から居眠りしたら怒られると思うよ」
「自信はないけど頑張ってみるわ……
もし寝てたら起こしてね……」
「いいけど、物理的に席が離れているから、肩を揺すろうにも届かないと思うわ」
「そうね…、それじゃあサイコキネシスで私を持ち上げてみて。
姿勢が変われば起きるかも知れないから……」
「うん、分かった」
こうして私とカスミちゃんの密約が成立した。
1時間目はこの国の古典文学だった。
私は授業開始の礼の後、3秒も持たずに机のお友達と化したそうだ。
頑張ろうと誓った私の鉄の意志は、もろくも全滅したようだ。
どこかから「なに、全滅だと!3秒も持たずにか!」と謎の突っ込みが聞こえてきそうだ。
文学のトールソン先生は、私を何度か起こそうとしたらしいが、半分白目をむいてよだれを垂らしかけている侯爵令嬢らしからぬ私の表情に恐れをなして、それ以上突っ込まなかったらしい。
「ごめんなさいトールソン先生」
私は心の中で謝った。
1時間目が終わる頃には、私は死んでいるのかも知れないと言うほど熟睡していたそうだ。
起立の号令がかかっても微動だにしない私を、カスミちゃんがサイコキネシスで操って、人並みの礼を何とかしていたそうだ。
まるで幽鬼のごとくふらりと立ち上がり、全く目を開けないままふらりと礼をする私を、隣の席の男子生徒は不気味なものでも見るような視線で見ていたと、カスミちゃんから報告があった。
1時間目の後の休み時間では、机に突っ伏して爆睡する私に、2人の公爵令嬢が嫌みを言いに来ていたらしいが、カスミちゃんの席からでは距離があり、なんと言っていたのかは分からなかったそうだ。
もちろん、当の本人も全く聞いていない。
その頃私は、楽しいレム睡眠の世界を旅していたのだと思う。
ナターシャさんが最後に、
「無視するとはいい度胸だわ!覚えてらっしゃい!!」と叫んでいたのだけはカスミちゃんにも聞き取れたらしく、私は寝ているだけで更に2人のヘイトを稼いでしまったことを知ることができた。
2時間目は数学の授業だったようだ。
日本の受験地獄を生き抜いた私やカスミちゃんにとっては児戯にも等しい内容だ。
もっとも、寝ていた私は全く覚えていないが。
何度呼んでも反応がない私に対して、数学のケインズ先生は最終手段とばかりに板書した問題の解答を書くように命じた。
しかしながら、α波を出しながら熟睡していた私は全く知るよしもない。
ここでも我が心の友カスミちゃんが、サイコキネシスで私を操り、白板に黒いスミのようなチョークで模範解答を書いてくれた。
「自分で書くほうが100倍簡単だわ」
とカスミちゃんは言っていたが、さすがにサイコキネシスの精密制御は私以上の腕前であり、違和感なく私は解答を板書していたそうだ。
目をつむったまま、すらすらと正解を書いていく私を、クラスのみんなはもちろんケインズ先生も、不気味なものを見るような視線で眺めていた。
板書が終わると一言も発することなく、変な呼吸音を残して私は席に戻ったそうだ。
人それを寝息という……
机にもどった私はその授業が終わるまで微動だにせずに机に突っ伏していたという。
3時間目になると、少し意識が戻ってきたようで、周囲の国々について学ぶ地理の時間では、当てられた内容を正しく答えていたようだ。
何でも私が答えた内容は、隣の帝国の特産品についてだったらしい。
最も、私に記憶が全くないのだから確かめようもない。
周りの友達や先生は、眠りこけているようにも見えて正解を重ねていく私を訝(いぶか)しそうに見ていたらしい。
4時間目もそんな調子で昼休みはカスミちゃんが声をかけても爆睡していたらしい。
5時間目も終わろうとしたときに、累積の睡眠時間が4時間半となり、ようやく私は大きなあくびとともに目を覚ました。
本当にここで意識を取り戻せたのは幸いだった。
6時間目は護身術、剣術の実技なのだ。
眠ったままでは流石にどうなっていたことか……
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