第61話 帰郷… (61話)
王都での一件が片付き、私とお父さまはすぐに領地へと戻ることにした。
ハクウンとセキホウがすっかりお気に入りとなったレイモンド王子とキャスバル王子は、冒険者として活動していたときの話が聞きたいと随分私にまとわりついてきたが、母が待っていることを考えると4年振りに発見された私を一刻も早く自宅に連れて帰りたいという父の意見が通り、その日のうちに自宅へ向けて出発することとなったのだ。
ハクウンとセキホウに乗って自宅へと向かう。
この国は王都を中心に8つの公爵家がその周辺に領地を構え、その周りに16の侯爵家、更に外側に32の伯爵家、その外側が64の子爵家、最も国境に近いところが128の男爵家によって領有されている。
栄枯盛衰によって、現在は王家の直轄管理担っているところや、他の貴族が代替統治している場所もあり現在では領地を持つ貴族総数が232家である。
この他に、領地を持たない騎士爵や準男爵、爵位だけ持ち政府の要職に就いていたり首都や大きな街を中心に商業活動などをすることで家名を残している伯爵、子爵、男爵などもかなりおり、貴族の総数は1000家近い数に上る。
国土の総面積はアメリカ合衆国にほぼ匹敵する6角形に近い国土だ。
海より陸が多く、表面積が地球の4倍ほどあるこの世界では、それでも中規模の国と言える。
北東にあるゲルマノイル帝国は我がアルタリア王国の3倍の面積を持つ大国だ。
私たちはヨークシャー公爵領を通る街道沿いに進み、途中の街で一泊した後、翌日の夕方には懐かしの自宅へ帰り着いた。
自宅では予想通り皆に歓迎されたり泣かれたりと大変だった。
特にお母さまの喜びようはすさまじく、そのまま離してくれないのではないかと心配になるほどだった。
しかし、私が地竜を従えるほどの冒険者になっていることを知ると、
「アイネリアは人より苦労して人より早く大人になったのね」と少し寂しそうに言って解放してくれた。
それとは逆にハクウンとセキホウをみて狂喜乱舞したのがロイドお兄様と弟のジークだ。二人は喜んで二頭にまとわりついていた。
とりあえず二頭には、お兄様たちを踏みつぶさないように注意しておいた。
一番驚いたのは、私に妹ができていたことだ。
名前をカオリーナ・フォン・ヘイゼンベルグというらしい。
少なくとも、私の記憶では前世でプレーしたゲームには出てきていないキャラクターだ。
モブキャラだったのだろうか。
私が家出して1年後に生まれた8最年下の妹だ。
そして、何故かカオリーナだけが喜びに溢れる我が家のロビーに姿を現していないのである。
私はお母様に尋ねてみた。
「お母様、妹のカオリーナにも早く会いたいのですが、今、昼寝中なのでしょうか?」
お母様は少し困ったように表情を曇らせ言葉を濁す。
「いえ、たぶん起きているとは思うのだけれど、カオリーナはちょっと人見知りが激しいから…」
「マリア、アイネリアも家族なのだから、正確に知っておいた方がよい。
それに、アイネリアは冒険者として強くなったのだから、つらい事実も受け止めきれるはずだ。」
言いよどむお母様に、お父様が説明するように促す。
「わかりました、あなた。
アイネリア、それでは説明するけど、驚かないで聞いてね。
実はカオリーナは生まれて少ししてから魔力が暴走してしまったまま元に戻らないのよ。
だから、ミルクやおむつのお世話も大変な状況なの…。
今は、あなたが使っていた部屋を改造してそこでやすませているわ。
刺激を与えると暴走してしまうからよ」
私は気になって聞いた。
「それはどのような状況なのでしょうか?」
「部屋のものが勝手に飛んだり、ぶつかったりするのよ。
まるで、見えない悪霊が操っているように…」
「それは、どんなときによく起こりますか?」
「カオリーヌの機嫌がわるいときよ。」
「このようなことは世間でもよく起こるのですか?」
「あまり聞いたことがないけれど、魔力の強い子供が過去に似たような現象を引き起こしたらしいわ。
中には、誰も近寄れずに飢えて死んでしまった子供もいたそうだけど、カオリーヌは機嫌さえ良ければ何も問題ないから、ミルクはその隙に与えているの。」
これは、噂に聞くポルターガイスト現象ではないだろうか。
悪霊の仕業か、若しくはサイコキネシスの暴走によって周囲のものが飛ばされるといわれているあの現象だ。
妹は魔力がとても強く、感情のままに近くのものを動かしている可能性がある。
それほど魔力が強いなら、もしかして、妹も転生者かも知れない。
私は是非妹に会ってみたくなり、渋る両親を説得して妹の寝ている部屋へ行くことにした。
以前私が使っていた部屋のドアを開けるとそこには鉄格子があった。
というか、部屋全体がの内装が鉄格子で覆われ他状態となっており、壁などには直接触れられないようになっている。
その部屋の中の真ん中にベッドがあり、棚や机など一切ない。
床には所狭しとぬいぐるみなどのやわらかいおもちゃが並べられている。
どうやら、妹の魔力でものが飛んでも被害がないようにしているらしい。
ベッドの上に青髪碧眼の3歳児がちょこんと座ってこちらを見ている。
私よりも少し目元がたれ目に近い他は、私が3歳のころに酷似している。
私は心配する両親をよそに、部屋の中へと入ると、妹に話しかける。
「こんにちは、カオリーヌちゃん。
初めましてだけど、私がお姉ちゃんだよ」
優しく話しかけたつもりだった、人見知りが激しいという妹は、みるみる瞳に涙をためると泣き顔へと表情を変えていく。
それと同時に部屋のぬいぐるみがふわりと浮かび上がろうとする。
すかさず私はサイコキネシスを発動し、ぬいぐるみをその位置に固定し浮かび上がらないようにする。
すると、妹の泣きそうになっていた顔が驚きの表情へと変わる。
どうやら、自分が自分の意志でサイコキネシスを使い、ぬいぐるみを持ち上げようとしていたということは分かってやっていたようだ。
いつも通りに動くはずのぬいぐるみが突然動かなくなったので、不思議がっているように見える。
私は、カオリーヌに近づくと、部屋の入り口に控えている両親には聞き取れないような小さい声で話しかけた。
『カオリーヌ、あなたも転生者なの?』
もちろん日本語である。
当然反応があるものだと思っていたが、きょとんとしている。
『Do you have a memory before you are born?』
生まれる前の記憶を持っていないか英語で聞いたが、反応しない。
『Haben Sie eine Erinnerung, bevor Sie geboren werden?』
ドイツ語もダメ。
『你有你的内存在出生前?』
ダメだ。もう、私が知っている言語がない…
どうやら転生者ではないようだ。
私は普通に今世の言葉で話しかけた。
「私はあなたの姉のアイネリアよ。
これからよろしくね」
目を見つめながら話しかけながら優しく頬に触れる。
カオリーヌは私に興味を持ったのか、私を見てニコッと笑った。
その様子を後ろで見ていた両親は本当に驚いたようだった。
「カオリーヌが初対面の人間に懐いた…」
お父さまがつぶやいている。
「やはり姉妹で通じるものがあるのかしら…」
いえ、お母さま。それを言うなら、超能力者同士で通じるものがあるんだと思います。
もちろん言葉にはできない。
この日から、カオリーヌの教育係は私になった。
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