第59話 故郷への遠い道(第五話)最後の刺客… (59話)

 その後は至って順調に推移した。

 一日2000キロを超えて移動し、街でアイテムとスタンプを集め、また移動する。

 ちなみにスタンプは特大の羊皮紙にその国の御用商人の本店のスタンプを押してまわっている。

 現在スタンプ数は19個、あと1つでコンプリートだ。

 サラセリアを立って20日、あと7日で期限となった今日、私たちは最後の訪問国であるゲルマノイル帝国の首都リンベルに来ていた。


 早速リンベル特産のソールンゲル社製サバイバルナイフを購入する。

 本店直売のマーク入り逸品だ。

 ソーリンゲル本店のスタンプをもらえばコンプリート!

 事情を話して羊皮紙に来店記念スタンプをもらおうとしたとき、問題が発生した。


「申し訳ありません。実は今日の午前中、何者かが固定の鎖を切断して記念スタンプを盗んでしまったんです。」

 スタンプ台の場所を聞いたとき、若い店員のお姉さんが申し訳なさそうに言った。


 やられた。

 どこの悪ガキのいたずらかとも思ったが、子供の力で切断できるような鎖ではない。

 これはもしかして、件の犯罪者ギルドの仕業かも知れない。


 私は早速そのときの様子を聞き込みする。

 防犯カメラなど無いこの世界では、聞き込みこそが操作の基本だ。


 どうやら、スタンプ泥棒は怪しい4人組の男だったようだ。

 戦士風の出で立ちで、皮鎧に長剣、黒マントの4人だ。


 以前、観光客の子供連れにスタンプを盗まれることが何度かあり、チェーンをつけた経緯があるこの店では、子供がいたずらや出来心でスタンプにちょっかいを出すことは想定していたが、大の大人4人がスタンプ泥棒を働くとは思っておらず、警戒もしていなかったらしい。

 男たちが、何も買わずに出て行ってしばらくし、子供連れがスタンプを押そうとしたときに今回の件が発覚したという。


 「私は、見習い冒険者のアリア・ベルといいます。

 よろしかったら、スタンプの捜索と奪還を請け負わせてください」


 思わず私は店員のお姉さんに申し出ていた。

「あら、あなた冒険者だったの!

 可愛い冒険者さんね。

 それじゃあお願いしようかしら。

 怪我しないように気をつけてね!」


 なんかあっさりと了承された。

 店長さんとかが出てきて正式な依頼になるかと思っていたのだが、少し拍子抜けだ。  まあ、話が早くて助かるのだが…

「了解しました。

 それでは行ってきます」

「言ってらっしゃーーーい。

 気をつけてねーーー」


 店員のお姉さんの応援を背に、私は捜索を開始する。

 事件発生は今から30分ほど前、そう遠くに入っていまい。

 私は路地に入り込むと人気が無いことを確認し、クレヤボヤンスを発動する。

 上空から、慌ただしく移動している4人組を探す。

 店から街の外までおよそ3キロ、早足で急げばそろそろ街から抜け出す頃である。


 クレヤボヤンスの視点を上空高くにし、街の周辺を探す。

 奴らがこの街にアジトを持っていて潜伏されていたらやっかいだが、それなら、目立つ旅の戦士風の姿であったことが説明できない。

 必ず脱出して、依頼主に証拠の品としてスタンプを届けるはずだと踏んで、街の外周を探すと、予想通り西門から怪しい4人組が聞いたとおりの戦士風旅姿で現れた。


 クレヤボヤンスで追跡を続け、人気が無いところまで4人が進むのを待ってテレポーテーションで先回りする。


「待ちなさい!」

 私は4人の進路に姿を現し、正面から声をかける。

「何だ、お嬢ちゃん。

 俺たちに何かようか」

私が子供だと思ってなめきっているようだ。


「盗んだスタンプを返しなさい」

 精一杯すごみをきかせて威圧してみたが効果は無いようだ。


「お前何者だ?

 何でそんなことを知っている。

 話によっては無事には帰さんぞ!」

 逆にすごまれた。


 よほど腕に自信があるのか、私がなめられているのか。

 まあ、おそらく後者だろうが…


 鑑定魔法があれば彼我の戦力差が分かるのに何とかならないものかと思いつつ、抜剣しながら答える。

「それは私がハイゼンベルグ公爵家に雇われた冒険者だからよ。」

 どうだ。少しは恐れ入ったかと睨(にら)めば、笑い飛ばされてしまった。


「はっはっは!

 いよいよあの侯爵家も落ち目だな!!

 こんなチビしか雇えないとは。

 しかし、それを聞いては、お前を無事に帰すわけにはいかんな。

 さんざん嬲(なぶ)った後、売り払ってやるからありがたく思え!

 いいか、やろうども、見た目に派手な傷はつくるなよ。

 値段が下がるからな」


 どうやら犯罪ギルドの犯罪者らしい。

 容赦は無用のようだ。


 4人の犯罪者は一斉に剣を抜くと私に斬りかかってくる。


 おそいっ!


 私は先頭の男の剣を受け流すと、みぞおちに中段蹴りをたたき込み、後続の男たちの方へ吹き飛ばす。


「ちっ、以外とやりやがる。

 お前たち、フォーメーションJだ!」

「「おう!」」


 みぞおちを蹴られて伸びている男以外が返事をし、3人が1列に並ぶ。

 連携技だろうか?


 私の体裁きを見ても実力差が分からないような奴らが何をしても無駄だとは思うが、何かとんでもない必殺技や魔法があるかも知れないので一応警戒する。


 男たちは一列になると、二人目以降の男が私から死角になるようにして駆け寄ってくる。


 こっこれは!

 もしや、某国民的アニメで三人組が使っていた技ではなかろうか!!


 私は上段から剣を振り下ろす一人目の男の振り切る瞬間を待って、その男の肩と頭を踏み台にし上へと飛ぶ。

 離脱時に後頭部へのけりももちろん忘れない。


「おっ俺を踏み台にしやがるとは…」

 どこかで聞いたことがあるようなないようなセルフをはきながら、一人目の男は意識を失い倒れていく。


 飛び上がった私に対して、二人目の男が土魔法の石つぶてを発動してきた。

 空中ではよけられないと思っているのだろうが、私はレビテーションで更に高く飛び、逆に剣のさやを投げつけ、サイコキネシスで加速して二人目の額を打ち抜く!

「マッチョッ!

 おのれ、こざかしいまねを!」

 最後のリーダーらしき男は下段に構えた剣を私に向けて投げつけ、予備の短剣を抜剣する。

 私は自分の剣で飛んできた剣を打ち払い、跳ね返した剣で、逆にリーダーの右肩を突き刺してやった。


「ぐっ。

 ガキだと思って油断した」


 肩を負傷し、握っていた短剣を取り落とした男は、自分に刺さった剣を左手で抜くと、まだ戦闘をあきらめていないようで、私に剣を向ける。

「強さの差は歴然なんだけど、まだ続けるのなら容赦はないわよ」


「ちっ降参だ!」


 忌々しげにリーダーは武器から手を離すと両手を挙げて降伏した。

 他の三人はまだ伸びており、意識が無い。


 私は手近なツルでリーダーに他の三人を縛り上げさせ、リーダーは私自らが縛った。

 さて尋問だ。


「あなたたちは犯罪者ギルドの構成員で間違いないわね」

 私は唯一意識があるリーダーを問いただす。 

「ああ、そうだ」


「誰に雇われたの?

 それとも、依頼主のことは殺されてもしゃべれない?」

「そこまで依頼主に義理はない。

 俺たちを雇ったのはご想像の通りさ。

 賭の相手のヨークシャー公爵とステットブルグ公爵だ。

 ちなみにアルタリアではこの史上空前の額をかけた勝負に話題沸騰中だ。

 間に合うかどうかで賭をはじめる奴まで現れている。

 今回の件の成功報酬で一人100万マール。

 スタンプを捕ってくるだけでこれだけもらえるなら御の字だ」


 やはり、賭の相手による妨害だった。これだけ汚いまねをするのに十分な金額がかけられていると言うことなのだ。


「それじゃあ、あんたたちはこの国の兵士に引き渡すことにするわ。

 奪ったスタンプを出しなさい」


「分かった。

 一番向こうに倒れている奴の左ポケットに入っているはずだ。」


 私が教えられた男のポケットを探ろうと移動し、かがみ込んだそのとき、突然リーダーが叫んだ。

「今だ!やれ!!」


 縛られて倒れていたはずの男3人が突然短剣を持って立ち上がり襲いかかってくる。

 リーダーが縛るときにわざとほどけるように縛っていたのだ。


 しかし、それも想定内だ。

 私は男たちに最後のチャンスを与えたつもりだった。

 おとなしく捕縛されるならよし。

 抵抗するならどうせ犯罪者ギルドの犯罪者だ。罪を償ってもらおう。


 どうやら男たちは破滅の道を選択したようだ。

 私はエリアテレポートを発動し、4年ぶりに国境近くのマッドウルフの群れの元に飛んだ。


 突然草原から森林へと移動し、男たちは一瞬戸惑う。

 私はその隙を見逃さず3人の襲撃者の両手両足を剣の腹で叩いてまわり骨折させる。

 リーダーは私が念入りに縛ったので未だに拘束を解けずに地面でもがいている。


 周囲には4年前より集団が大きくなったオオカミたちがいた。


 半数は私を見ておとなしくいているが、残り半分はうなりながら威嚇している。

 どうやら、この4年で新たに集団に加わった若いマッドウルフのようだ。

 さてどうするかと思っていると、一際大きな個体が私の前にやってきてふせの姿勢を取った。

 4年前のキングマッドウルフだ。

 なんだか、あのときよりもう一回り大きくなっているような気がする。

 あのとき人を襲わないように言ったのを覚えているだろうか。

「久しぶりね。ちゃんと約束を守って人間を襲わなかった?」

「くーーぅん」

 私が聞くとキングマッドウルフはその図体には似つかわしくない可愛い声で泣いた。

 あのときは何となくしか分からなかったが、エンパシーを完全にものにしている今なら分かる。

 このキングマッドウルフはどうやら私を自分のボスと思っているらしい。

 命令を守って褒めてもらいたいという感情が伝わってきた。


 私は伏せている大きなオオカミに近寄ると、その顔を全力でもふりながら褒める。

「よしよし、いい子ね。

 ご褒美にこいつら食べてもいいわよ!」

「うぉん!」


 大きなオオカミは嬉しそうに鳴いた。

 反対に状況が飲み込めてきた盗賊ギルド員からは悲鳴が上がる。

「まて!俺たちを食べるとスタンプの場所が分からなくなるぞ!」

 そうだった。確かにスタンプが行方不明のままではまずい。

「仕方ないわね。それでどこなの!」

 私が聞くと今度は盗賊リーダーの顔色が悪くなった。

「その前に俺たちの安全を保証しろ!」

「それは状況によるわね…

 スタンプはどこ?」

 私は盗賊のリーダーの様子に違和感を覚え、安全に関して確約するのを控える。

 するとリーダーは目を泳がせやたらと自分の胸ポケットを気にしている様子でしどろもどろになりながら喚(わめ)く。

「うっうるせぇ!! 

 スタンプがどうなってもいいのか!!!!」

「怪しいわね…」


 私はリーダーが気にしていた胸ポケットをまさぐると、そこには壊れたスタンプが入っていた。


「仕方がなかったんだよ。

 公爵から奪ったらすぐ壊して持ってくるように言われていたんだ」


 盗賊は泣きながら訴える。


「これで、情状酌量の余地はなくなったわね…

 あとはオオカミたちに任せるわ。

 それじゃ、さようなら」


 私は後始末をマッドウルフたちに任せると聞き苦しい命乞いには耳を貸さず、テレポートでその場を後にした。

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