第56話 故郷への遠い道(第二話)黒幕現る… (56話)
部屋に戻るとまだお父さまは潰れていた。
これは、後々のために憂いを潰しておくいい機会だ。
わたしは、お父さまを寝かせたまま北の森の入り口に向かう。
もちろん、ハクウンとセキホウも連れて行く。
遠くから見れば地竜しか見えないので、誰が連れてきているかなど分からないだろう。
森の入り口が近づいたところで、2人の男が待っているらしい状況をクレヤボヤンスで確認し、ハクウンたちにはそのままゆっくり進ませ、私はテレポートして男たちの背後に回り込んだ。
木陰に隠れて男たちの様子をうかがう。
「やっときたようだな…」
「ああ、これで公爵様方もお喜びになる」
二人の会話が聞こえた。
おそらくハクウンたちの姿が確認できたのだろう。
しかし、注目すべきは二人目の男が言った台詞になる。
確かに二人は公爵様方といった。
やはりお父さまを妨害しようとしているのだ。
私は先日聞いた賭の相手を思い出す。
確か、ヨークシャー公爵とステットブルグ公爵だったはずだ。
二家ともうちの侯爵家よりかなり大きいので、5兆マールずつ支払っても潰れることはないだろうが、痛手には違いない。
汚い手段を用いても賭けに勝つつもりのようだ。
私はこの男たちから更に情報を搾り取るべく姿を現す。
「こんにちは。
おじさんたちもヨークシャー公爵様とステットブルグ公爵様に雇われた方たちですか?」
突然声をかけられこちらを振り向いたが、私が子供一人なのを見ると少し安心して警戒を緩めたようだ。
「ああ、そうだが、お前は誰だ」
「私も公爵様の知り合いです
それで、お伺いしたいのですが、
他にもこの旅の妨害を依頼された人はいるのですか?」
男たちは私の質問にぎょっとなる。
「なぜ、お前がそんなことを聞く? いや知っているんだ?」
私は抜剣すると一瞬で男の内の一人に詰め寄り、首筋に剣を当ててやった。
「それは、私が襲われた側の人間だからです。
おじさんたちがやっとた人は4人とも今頃牢屋の中ですよ」
「ちっ」
2人の男は飛び下がると抜剣しようとするが、そのうち一人はそこでフリーズする。
飛び下がって距離をおいたはずの私が、ぴたりと張り付いたように目の前におり、首筋に当てられた剣もそのままだったからだ。
抜剣したもう一人が警戒しながらこちらを襲うタイミングを計っているようだが、私が人質にしている男が邪魔で切り込めない。
「正直にしゃべってもらえれば命は取りませんがどうします?」
私はできるだけ優しく提案する。
「わっ分かった。
しゃべるから剣を引いてくれ」
首が人質になっている男が渋々了承の意を示す。
私は静かに剣を下ろす。
瞬間、男たちは回れ右をして逃走を図った。
本当に世話が焼ける。
回り込んでもよいが、ちょうどそのときハクウンたちが男たちの逃げる方向から来たので、二頭にお願いする。
「ハクウン、セキホウ!
そいつら悪い奴だから逃がさないでね!
けど、踏みつぶしたらダメよ!!」
「「キュイッ」」
二頭から分かったという感情が伝わってくる。
男たちは目の前の巨大なトリケラトプスに驚きながらも左右に分かれ、周り込んで逃げようとする。
そんなことで取り逃がす二頭ではない。
ここまでに私やカスミちゃんとじゃれていたのはダテではない。
ハクウンは右、セキホウは左に回り込もうとした男の腹部を一番大きな角で優しく跳ね上げた。
角が刺さらないように気をつけているのが分かる。
2人の男はこの時生まれて初めて空を飛んだ。
人類で空を飛んだのは私とカスミちゃんを除くと初めてではないだろうか。
「「あーーーーーっ」」
男たちの叫び声が聞こえる。
「「きゅいっ???」」
はじき飛ばした二頭は不思議そうに飛んでいく男たちを眺めている。
二頭にしてみれば、あれくらいの突きは受け止められて当然と思っていたようだ。
私もカスミちゃんもじゃれる二頭の角を素手で受け止めていたので、人類は皆、角での突きを素手で受け止められるものと思っていたのだろう。
私たちだって不意打ちで食らえば体重差で飛ばされるのは自明なのだが、じゃれてくる二頭はわざと動きが分かるようにまとわりついているので、踏ん張って飛ばされないようにしているだけなのだ。
私は二頭に優しく語りかける。
「よくやったわ、二人とも!
ちなみに、普通の人間はあんたたちの突きを受けるとああなるのよ。
これからは気をつけてね」
「「きゅきゅいっ」」
二頭は分かったというようにないた。
可愛い!今すぐもふりたい。
しかし、私には男たちを尋問するという重要な仕事がある。
断腸の思いで二頭に待機を命じ、森と草原の境界で目を回している2人を付近のツル植物で縛り上げると、私は男たちが目を覚ますのをまつ。
といっても優しく待つつもりはない。
大気中の水分を集め、熱運動を奪って0℃にし、男たちの頭からぶっかける。
「ぎゃっ」
「つめてーーー」
男たちは気がついた。
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