第54話 行ってきます! ヘンリー隊長… (54話)

 とりあえず食料と着替えを準備して、お得意先のお肉屋さんやステーキ屋さんに長期護衛の依頼を受けたことを連絡する。


 特にダンカンさんは残念がっていたが、お餞別に特上ステーキをもらった。


 時々自作宝石を持ち込んでいた宝石店のラスリー店長はお餞別に10万マールもくれたが、旅の途中で原石を見つけたら、よそに売らずに持ち帰ることを約束させられた。

 どうやら、これから手に入るであろう原石の手付け金の代わりらしい。


 夜に帰ってきたヘンリー隊長には一ヶ月ほどの長期護衛に出ると伝えた。


 今回の依頼を達成できたら、普通に考えれば侯爵家に戻ることになり、もうサラセリアには戻れない。

 しかし、今の私はどうしてもヘンリー隊長を現状のままで一人にできないのだ。

 ヘンリー隊長は、この街での私の親代わりだった。

 いつでも親身になって心配してくれ、食事の準備も二人でやった。

 なくなった娘さんの面影を私に重ねているヘンリー隊長をこのまま一人にすることはどうしてもできない。


 しかし、父に私の生存を知られた以上、侯爵家に戻ることになる。


 私は、この難しい問題を解決する方法を1つ思いついていた。


 その方法とは、星の時差を利用することである。


 サラス共和国とアルタリア王国は星の反対側にあり、時差はちょうど12時間。


 サラス共和国で就寝した直後に、テレポートでアリタリア王国に飛び、アリタリア王国で就寝した直後に、再びテレポートでサラス共和国に戻り、冒険者として活動する。


 24時間戦い続ける日本のビジネスマンも真っ青の強行軍である。


 もちろん、不眠不休で活動するつもりはない。

 冒険者として街の外に出てからすぐに月面コロニーで眠ってもいいのだ。


 たぶん何とかなるだろう。


 この楽天的な思考はお父さま譲りかも知れない。


 何ともならないのは、お父さまがつきっきりとなる移動中のみだ。


 侯爵家に帰れば、少し長めに睡眠時間を取ることにして、ごまかしきれるだろう。


 とりあえずは、明日から27日以内にアルタリアの首都へたどり着くことだ。




 翌朝、私は多めの食料と着替えを持ち、ヘンリー隊長と南門へ向かった。

 「行ってきます。ヘンリー隊長!

 お土産楽しみにしていてくださいね!!」

「気をつけて言っておいで

 無事が一番のお土産だよ!」


 私はヘンリー隊長に向かって元気に手を振ると、お父さまが待つ門の外へ向かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る