第4話 火魔法?を覚えました…(第4話)
あれから5日ほどかけて、私は風魔法のページ(39ページから57ページ)を読破した。
風魔法は10まであり、風を強める方法やつむじ風の起こし方、精密なコントロールによる物体の飛ばし方、果ては竜巻の起こし方、などがかいてあった。
竜巻は強い風を別方向から2つぶつけると偶然発生することがあるが、竜巻になるほどの風を2つ起こそうとすると、よほど魔力量が多くない限り魔力切れを起こしてしまい、竜巻発動前に倒れてしまうらしい。
今世ではシュッタット皇帝国の3代前の宮廷魔術師長が発動に成功したあと昏睡し、1週間目が覚めなかったそうだ。
私も試してみようとした。
部屋の中で竜巻を起こすわけにも行かず、視点を移動して迷惑がかからなそうな海上に移動し、海の上で竜巻を起こした。
結果は、サイコキネキスで2方向から風をぶつけると竜巻は起きたのだが、その大きさが把握できなかった。
海の上は海しかない。
4方が水平線の彼方まで海で、船も浮かんでいない。
大きさを比較する対象が無いため、おこった竜巻が果たして竜巻と呼べる規模なのか、小さなつむじ風程度なのか判断できなかったのだ。
そのような何もない海上を選んだのは、万一の時に被害を出さないためだ。
そして竜巻の発動とほぼ同時に魔力切れを起こした私は例の音を聞きながら眠ってしまった。
『ピンポンパンポン サイコキネキス トルネードもどき(暴風魔法・竜巻もどき)を習得しました』
『ピンポンパンポン クレヤボヤンス(超遠見)を習得しました』
本の説明と違っていたのは、どこぞの宮廷魔術師と違って私は1週間も眠ることなく、4時間後には再び意識を取り戻していたということくらいだろう。
どうやら胎児の私は回復も早いようだ。
さて風魔法は全部読んだし、今日からは次の魔法に行ってみよう。
次のページは地(土)魔法なのだが、どちらかというと火魔法を先に覚えたい。
私はサイコキネキスでページをめくり78ページの火魔法の1を読み始めた。
火魔法の1
火魔法は火をつける魔法です。
薪に点火したりランプに点火したりできます。
火をつけたいところに気持ちを集中させ、炎の大きさ、強さ、範囲を明確に意識します。
後はその場所に魔力を込めてイメージを保ちながら呪文を唱え念じ続けます。
1度の呪文で発動しない場合は、魔法が発動するまで何度でも呪文を繰り返しましょう。
なお、火魔法は燃えるものを燃やす魔法です。
最初から燃えない岩石や金属はどうがんばっても点火できません。
また、何もない空中に炎を出すこともできません。
あくまでも可燃物しか燃えません。
また、生ゴミなど湿気が多いものは、燃やすためにより多くの魔力を消費します。
呪文は個人によって多少変わりますが典型的な呪文を紹介しておきます。
他の属性魔法と同じように、達人級の魔術師は意識を集中するだけで呪文を唱えなくても魔法を発動させることができるそうです。
この本が書かれた現在、火魔法を無詠唱で発動できるのはアセット国の宮廷魔術師長だけとなっています。
いにしえの大魔法使いは戦争で敵の指揮官を焼死させたといわれていますが、人間に火をつけるような巨大な魔力を持った魔術師は現在確認されていません。
なお、集中力が切れれば何度呪文を唱えても魔法は発動しません。
10分続けても火が付かないときは一旦中断し、休憩を取って再チャレンジしてください。魔力切れに注意しましょう。
【呪文】
『真理の探究者たる我が名をもって命ずる。
万物の真理より炎を取り出し、我が前方5メートルの位置にあるランプの芯に灯火を与えたまえ。
我が名はエリットマン。ヘイゼンブルグ侯爵家が5代目なり。炎よ灯れ!』
なんか期待外れだった。
火魔法といえば手から火炎放射とかファイヤーボールを飛ばして火だるまにするとか、ファイヤーアローで魔物を穴だらけの黒焦げにするとか、派手なイメージがあったのだが、どうもこの世界の火魔法は燃やせるものに点火するだけのようである。
4属性のうち最後にかかれているのも、効力がショボイからかも知れない。
火魔法の10まで読んだが、炎を出さずに温度だけ上げる方法とか、火力を調整して美味しくお肉を焼く方法とかがかかれており、最難関の火魔法10は熱を出さずに光だけ出す方法だった。
戦闘力としては風魔法の竜巻に遙かに劣る上、現在使える魔術師はいないそうである。
難しいのにショボイため火魔法使いは少ない。
さらに国軍ではまず採用されないということである。
何か微妙な魔法だが、マッチなしで火がつけられるならいいかと思い、書斎のランプに意識を集中した。
まずはランプの芯に意識を集中し、燃えやすいように空気中の酸素をランプの芯の周りに集める。続いて水蒸気を周りから取り除き、集まった酸素とランプの芯を構成しているよった糸のセルロース分子の熱運動をサイコキネキスで強制的に激しくしていく。
すると、着火温度を超える熱運動が得られた瞬間にランプに火が付いた。
よかった。
風魔法の時と違い事故は起こっていない。
ランプの芯の周り1センチほどに限定して着火したため爆発などは起きなかった。
次は消火だ。
メイドさんが掃除に来たときにランプが付いていてはおかしいので、火魔法の9に書いていた消火の魔法をアレンジしながら使用する。
魔法大全ではひたすら消えろと炎に向かって念じるだけだが、私は燃えている炎の周りの空気の対流をサイコキネキスで止め、発生した二酸化炭素を炎の周りに集め、とどめに周囲の空気の熱運動をサイコキネキスで弱め気温を下げた。
結果、火はあっという間に消えた。
実に上手く行った。
こんなに上手く行くともっと大規模に試したくなるのが人の常である。
私は視点を外に移動させた。
しばらく移動させると収穫間近のジャガイモのような作物をほじくり返しているイノシシモドキがいた。
畑の持ち主は離れた場所で農作業にいそしんでいるのだろうか。
影も形も見当たらない。
ここは一つ、覚えたての火魔法で畑を荒らす害獣を追い払ってみることにしよう。
私はイノシシの毛皮に意識を集中するとイノシシの周りに酸素を集め、イノシシの毛のタンパク質分子と周囲の酸素分子の熱運動を加速した。
瞬間、イノシシが燃え上がった。
丸焼けである。
このままだとジャガイモまで燃えかねない。
下手をすれば山火事だ。
ちょっと脅かすだけのつもりが大変なことになった。
私は焦ってしまい10秒ほどフリーズしたが、何とか正気を取り戻すとランプの時と同様に周囲に二酸化炭素を集め、熱運動を停止させてイノシシを消火した。
そう、熱運動を停止させたのである。
それは即ち、現代地球でも実現できていない絶対零度の世界。
炎は一瞬で消えると、凍り付いて霜が付いた冷凍焼きイノシシが畑に転がった。
私は、突然の炎に驚いてかけてくる畑の持ち主のおじさんを見ながら、眠気に襲われた。
『ピンポンパンポン クレヤボヤンス(微細視)を習得しました』
『ピンポンパンポン サイコキネシス(精密制御)を習得しました』
『ピンポンパンポン サイコキネシスからパイロキネシスが派生しました』
『ピンポンパンポン パイロキネシス(点火)を習得しました』
『ピンポンパンポン パイロキネシス(消火)を習得しました』
『ピンポンパンポン サイコキネシス アブソリュートゼロもどき(絶対零度もどき)を習得しました』
何か予定していなかった魔法まで聞こえるが、今回はやたらとたくさんメッセージが聞こえる。
私の眠気は限界だった。
私は夢の世界へと旅だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます