第93話 真夏の抵抗(三)

「道場へ出入りしているから、お嬢ちゃんも信者なんだろ?」

「とっ、通してくだ……さい」


 ピンクのタンプトックにミニスカートをはいてる浅丘結菜が、うつむいている構図で何台ものカメラが捕らえている。


「超能力できるのなら、おじさんにも見せてくれないかな」


 結菜が動けないのは、彼女の肩に片手を置いて液晶のついた携帯電話を顔に向けている、ひげの中年男が原因らしい。


「冷たいジュースとか、欲しくない? 上げるから、超能力と称した催眠術を教えてくれないかな」

「要らない……です」

「顔上げて、おじさんの顔見てよ」


 ひげ男はかがみ込み、肩にかけた手を彼女のあごに触れて上げさせる。

 携帯電話を持った腕で、一台のカメラを呼び寄せながら質問を続けた。


「全国の視聴者に向けて話してよ。大事なことだよ。催眠術を教わっているってことを」

「……いやっ」


 結菜はひげ男の腕から顔を振りほどこうとするが、相手の腕力には逆らえない。


「知っているんだろ? 連鎖自殺の犯人を。それ教えてほしいな。誰かな。教祖でしょ?」


 結菜が抜け出すかと様子見だったが、旗色が悪く遠目のマスコミ陣営も加わって人垣ができてきた。

 これは良くないと思い、足を前に出す。


「何しているの?」


 麻衣がいつの間にか隣に来て、数歩前に出た俺の襟首をつかんで止めた。


「おおっ、来たか。見ての通り」

「えっ? あっ、あれってもしかして結菜ちゃん? マスコミに捕まっちゃったの」


 道路先の人だかりの中から結菜を見つけ声を低めて言った。


「もう、放置できないから俺が連れ出す。それで麻衣は裏から回って道場へ……」

「何言ってんの。一緒に連れ出すよ」

「何って、信者だとバレるぞ」

「もう出入りに、何人ものマスコミ取材陣に見られているわよ。TV出演もしちゃったしね。行くよ」

「おっ、おお」


 麻衣が先んじて横断歩道を渡っていくので、俺はすぐ隣に並び取材陣の輪の中へ割り込んでいった。


「すみませーん」


 二人で結菜の真横について腕を取ると、彼女の顔は憂いから解き放たれた。

 中腰のひげ男は、かがみ姿勢から立ち上がり、俺たちに携帯電話を向ける。


「おや、君たちも信者かな。だったら、無視を決め込まず、我々の質問に答えて欲しいな」


 俺はひげ男の話を無視して、結菜の腕を取り、麻衣と目線で合図を送りマスコミの輪から出ようとした。


「自殺の幇助したの?」


 マスコミの一団から声が入り、思わず足を止めてしまった。

 麻衣も振り向いて、話した男をにらんだが、マスコミ関係者たちが道場側に移動して進めなくなる。


「あっ」


 麻衣と結菜が小さな声を漏らすが、たたみかけるようにカメラを持った男たちが肉薄してきた。


「インタビュー受けてくださいよ。でなければ、疑いは濃くなるだけですよ」

「それとも本当に連鎖自殺の犯人?」

「どうなんだよ」

「みっ、道をあけてください」


 俺たち三人の周りに取材陣が殺到してきて、麻衣と結菜を両手でかばうが身動きが取れなくなる。


「幻覚能力って嘘なんでしょ」

「話せないってことは、幇助したってことになりますよ」

「言えよ。それともやっぱり犯人か」


 イラっときながらも、囲まれて焦りがでてくる。


「殺人集団なのか、聞いてるんだ。答えな」

「あけてください!」


 俺の大声に合わせて、壁になった人だかりから声が上がった。


「つめて……」

「何だーっ」


 マスコミ関係者の壁が急に崩れたと思ったら、水が頭、顔、ポロシャツにかかっていた。


「うわわっ」

「あらら。ごめんなさいね」


 道場側から作務衣姿の彩水がホースを持って立っていた。

 歩道まで出てきて水撒きをしたらしく、まともに水が顔へかかったようだ。

 人垣が割れたので、俺たち三人は彩水の横を通って道場の敷地内へたどり着く。

 マスコミ関係者は、水のかからない位置まで下がってから罵倒しはじめた。


「何しやがる」

「思いっきり濡れたぞーっ」


 その台詞に彩水のホースは高く上がり、水が広く飛ぶと男たちは、カメラにかからないように散っていった。


「暑いから、打ち水よ。涼気をとるためよ。悪い?」

「背中が濡れて汚れたぞ。シャツのクリーニング代払え」

「そのシャツが? あれー、もう乾いてますね。汚れも見えないし綺麗ですね。それではクリーニング代払えないわ、ごめんなさいね」


 彼女の発言のあと、一斉に写真を撮る音が取材陣の垣根から轟いた。

 そんなマスコミの注目に動じない彩水は、ホースをうしろにいた同じ作務衣の今村陽太と佐々岡直人に渡し、濡れた手を叩いて水を払う。 

 ホースを受け取った二人は、水栓を閉めて粛々と後始末をしだす。 

 戻ってきたツインテールに、俺はグッジョブと親指を立ててお礼を言う。


「彩水、サンキュー。よくやった」


 結菜も俺に真似て、グッジョブとポーズを取ってから彼女に抱きついた。

 麻衣も溜息混じりに言う。


「たすかりました」

「そろそろ出入り口付近のマスコミを追い払った方が良いと思ってたからね」


 そう言って胸を張ると、玄関先から見ていた泊まり込みの信者たちから拍手をもらう。


「水撒きで少しは頭が冷えただろう」

「暑くてみんなイライラしてたから、冷えてよかったんじゃない」

「そうね」

「家の前に張り付いてシャッターチャンスを待っているマスコミに対し、不快感を水撒きで表すのは当然だよ」


 それぞれが今の出来事を言いながら、道場の中へ入る。


「しかし、あのヒゲ男は酷いな」

「ええ、ホントよ。結菜ちゃん大変だったね」


 彩水が抱きついてきた結菜の頭を撫でる。


「幻覚出して逃げようと思ったけど、やっちゃ駄目だって彩水おねーちゃんが言ってたから我慢したよ」

「うん、偉いぞ」


 俺も彼女の頭を撫でてやった。


「さっきの男は、毎朝新聞のお抱えジャーナリストの森本ですよ」


 俺の言葉に、車椅子の栞が高田さんに押されて廊下の奥からやってきた。


「ほう、もう調べてたのか?」


 わずかに高田さんを見てから栞に向く。


「はい、 遠隔視オブザーバーで見てきましたので」

「じゃあ、本格的に攻略しに来たってわけだ」

「強引な行動もその一環ってわけでしょう」

「ますます出入りの行き来が、難しくなってきたね」

「裏の路地も、今日から取材陣が張り付いてきたので、面倒になってきたわ」

「じゃあ、情報の餌を上げれば、居なくならなくとも少なくできないか?」


 先ほどの、谷崎さんが話していたマスコミへの声明発表、必要性がでてきた。


「ハッ? 情報の餌?」

「広告係が必要な状態じゃね?」

「いらないです」


 栞が一刀両断した。


「うん? じゃあ、なぜ無言を貫くんだ?」

「希教道とは関係ないじゃないですか。そもそも何もやってな……宣言すら必要ないです」


 栞は、一瞬TV局の強風騒動を思い出したようだ。


「そうよ。しつこいマスコミ取材に対して、声明発表なんて負けてるみたいで絶対に嫌だわ」


 言葉を濁す栞と、キレ気味で突っぱねる彩水。

 んんっ、さすが教祖たち、意見の一致をみた。


「こんなに騒ぎになってしまったからには、主張や訴えを声で発した方がこれからは良いと思います」


 栞のうしろに立っていた高田さんの進言に、二人は黙る。


「ホームページで寛容な連鎖自殺の無関係報告はしましたが、新たな訴えや詳しい説明など追加しましょうか?」


 そこへネット管轄の直人が口を出した。


「それは、そうね。今回の酷い取材の様子を中心に良いわ。誰か写メ撮ってない?」

「サイトはいいんかい。それとも広告係になりたくない?」    

「広告塔は、幹部の仕事よ」


 彩水が側にいた二人に声をかけると、今村陽太が余計なことを言う。


「そういえば、広瀬先輩は幹部なのに仕事してませんね」

「んっ? 少しはやっているぞ」


 俺は周りの空気に反応して一歩後退するが、栞と麻衣が言葉を続けた。


「そうよ。忍君やって」

「いいわね。忍。広告塔ってやつでしょ? やりなよ」

「おおっ……おう? ちょっと待て!」

「うん。忍ちゃ~んで決まりだ」


 一瞬にして全会一致で可決されてしまった。


 マスコミに向け声明文を読むことになり、慌てて別室で作務衣に着替えて応接室に戻る。

 そこですぐ声明文を受け取ることに。


「もう書いたのか?」


 栞と彩水がその場で書いた声明文は短文で焦る。


「じゃあ、頑張ってください」

「これからかよ?」

「善は急げよ」

「みんなのため。少しは取材陣がいなくなるかもしれないし」

「さーっ、行ってこよう」


 彩水たちに背中を押されて、仕方なく道場の外へ一人出る。

 歩道に出て大勢の人の目に触れながら、手にした声明文を持ち上げて言う。


「これから希教道の発表をいたします」


 すると多くのマスコミ関係者が、目の前の路上へ集まってきた。

 交通の車などお構いなしで、見回りの警察官が慌てて車を止め交通整理に回る。

 液晶のついた携帯電話やマイク、報道カメラが数十と目の前に向けられて、冷や汗が流れだす。


「君、広瀬君だね。去年『T-トレインサークル暴行事件』の被害者でしょ?」


 やべっ、あのサークル事件の関係者ってばれてるのか。


「さっきの彼女。同じく被害者であった『十七歳美少女姉妹』の浅間麻衣さんでしょ? 彼女にインタビュー欲しいから呼んでよ」

「おおっ、浅間麻衣。彼女も希教道信者だったのか?」

「あの事件も、希教道が関わってたのか?」

「おおおっ!」


 サークル暴行事件が、希教道パッシングの材料に上乗せされそうだ。

 またマスコミが騒ぎだし俺の周りに詰め寄り、もう頭を抱えたい状態になるが、だが、ここはあえて無視し、声明文を読み上げることに徹した。


「『事件を斬る』の番組で言われ問題とされた連鎖自殺、そしてて、て、六年前の教祖と患者の死亡は無関係です。いっ、いい以上」


 と短文なのに噛んでしまった。

 我ながら棒な読み方で腐るが、その間は黙っていた記者たちが、また騒がしく「十七歳美少女姉妹の浅間麻衣を出せ」と求めてきた。


 俺じゃ駄目なのか? っと言うより、誰が 危険な狼マスコミの前に彼女を出させるか。

 そのあとの質問は受け付けず戻ろうとしたら、集まった取材陣の背後が騒がしくなって怒鳴り声が響いた。


『希教道は謝罪しろーっ!!』

『自殺者の家族に謝れーっ』

『希教道は罪を認めろ!!』


 マンションの角で一つのグループが拡声器を持って非難し始めたので、めまいが起きそうになる。

 俺の声明文に対しての反応っぽくて、気分悪く道場に戻った。


 なお、俺が読んだ声明文の映像は、翌日のTVチェック組みの確認で流れなかったそうな。

 棒で噛んだせいか無視されたのか?


 「忍は学生だからじゃない?」


 麻衣が悩んでる俺を慰めてくれたが、それならモザイク映像になるはず。

 逆にそのときの撮影者不明の俺のアップ写真が、ある一文を添えネットに出回っていて、珍事になっていた。

 例の希教道を扱った報道番組に、俺が幻覚で魔法少女彩水に化けたシーンも入っていたらしく、それを特定されて『男の娘』でなく、『男の魔女っ娘』っとしてネットでいじられ笑われていた。

 彩水を笑いの種にしたのに、俺が笑いの種? 

 なんてこった、因果応報ではないか。 

 笑われていた『男の魔女っ娘』が希教道の公告塔をやったので、騒ぎになり人気が広がり、コラージュ画像まで出回って、この二日ほど絶賛ヒット中である。

 いや、そんな人気いらないから……。

 それを聞いて酷く落ち込んだのは、言うまでもない話。






 拡声器を振り回していた男は、毎朝新聞とタッグを組むプロ市民の団体代表。

 東京からの団体メンバー数人、自殺者二家族とその弁護士たちも動向していたので、ちょっとした団体人数になっている。 

 外の騒がしさが鳴りを潜めたら、その市民団体から代表数人が抗議に道場へやってきた。

 その代表団に二人の黒スーツで腕章をした男が合流してきたが、そこに見知った顔を見る。

 道場主が出てきて彩水と二人で代表になり、プロ市民の代表団と応接室で対峙した。

 代表の男は、サイコロ顔に黒メガネをかけたインテリ風壮年男で、押見と名乗る。

 ただそのうしろに待機している、白いポロシャツを着たやせた男の目が、やけにくぼんでいたのが印象に残った。

 他にも若い弁護士代表が一人いて、外にも弁護人が十名待機していると自慢げに言う。

 十名? 弁護士の人数の多さに戦慄を覚えたが、すぐありえないとハッタリと感じ取る。

 俺たち幹部は脇の壁につき状況を見守る中、道場主が言葉を切り出す。


「そもそも、政治市民運動家がなぜ我々のところへ?」

「希教道は知り合いの政冶家を二、三人知っているんでしょ?」


 押見代表は、道場主と栞が体を窮屈そうに動かす反応を見て薄笑いした。


「いやね、今日は別件ですよ。希教道と連鎖自殺の関係性を、この家族の方々。東京から来てもらったんですが、つまびらかに教えてもらいたい」


 代表野々田の脇にいた中年の男女が立っていて、自殺者家族の関係者だと静かに告げる。


「内の息子は歩道橋で自殺する前に、おかしなものが見えると言っていました」


 続けて若い弁護士と代表が割って入る。


「希教道メンバーは幻覚の催眠術に長けていると、うかがっていましたが?」

「希教道の幹部が、その歩道橋に見かけたとの証言がありますよ」


 道場主や彩水が俺を見るので答える。


「それは、俺たちが東京に行って、現場が近くだったので見に行きましたが、それは亡くなられた翌日ですよ」

「翌日なら、前日にいてもおかしくないのでは?」

「それはないです。東京じゃなく柳都にいましたから」

「ほーっ。自殺の日に目撃したって方がいて、証人になってくれるそうですよ」

「はっ? それは何かの勘違いでしょう」

「調べればわかるんですよ。そのとき事件に加担してたんでしょ? それとも……」


 駄目だこの人、本当に弁護士か?


『エセ弁護士ですね。十名の弁護士も本当かどうか疑問です』


 栞からの零感応エアコネクトが入った。


 ――最近は誰でも弁護士になれるようで、余っているんだな。

『これは、ゆすりに来てますね』

 ――希教道が金づると認識されたのか?

『市民団体と弁護士はグルで、犯人に仕立ててちょっと脅せば金になると思っているのでしょう。ただ、この人たちにE電広が絡んでいれば、ロイ・バイアウトの差し金でしょうけど』

 ――E電広は、公告だけしてればいいのに、こんなことまでして……。

『騒ぎ立てて、希教道を解体に追い込みたいのでしょう』

 ――能力保持者のたまり場が目障りなのか?

『能力保持者の存在は、企業的にアウトでしょうから、分からなくしたいのが本音でしょう』

 ――IIM2を売っていれば、これからも能力保持者増え続けるだろうに。いや、薬を今のうちに売り抜けようって算段かな。

『十分考えられます。そうなれば問題になったとき、谷崎製薬の上層部役員全員追い出せますからね』

 ――バイアウトの完全乗っ取りなら、会社名も変わりそうだな。まあ、問題になれば大勢に訴えられて賠償金で倒産する未来しか思いつかないけど。

『IIM2の研究成果を総取りしたいのが本音じゃないでしょうか』

 ――ああっ、そうか。


 もともと栞の父親の研究だったから、彼女も思うところがありそうだ。


「連鎖自殺に希教道は、いっさい関係を持ってません」


 少し感情的になった道場主が言った。


「本当ですか? あとでばれたら大変ですよ」


 代表の押見は、手にしていた携帯電話のモニター部分をこちらに向けて、会話の録音をしていることをほのめかす。


「何を無断で録っているんですか!!」


 彩水が前のめりで抗議するが、道場主が手で制して立ち上がる。


「もう話すことはないですな。お帰り願おう」


 不快そうに言放つと、団体メンバーも立ち上がりしぶしぶ応接室から出て行く。


「絶対後悔しますよ」


 押見代表が大声で捨て台詞を言い、外へ出て行った。


「塩撒け、塩。いいや、バーニングを叩きつけて」


 彩水がソファから立ち上がって不満を言ったが、直人にいさめられる。


 プロ市民の一団を見送ったあと、ソファのうしろで対談を見守っていた男たち二人が、俺たちの前に出てきて名乗りを上げた。


「柳都公安課部長の佐々木だ」

 公安の身分証を提示されて、周りの幹部がお互いを見合って凄いのが来たと白目を向きそうになる。


「市民団体の付き添いで来たのですか?」


 佐々木に対峙した道場主が聞いた。


「いや、抗議デモ申請の有無を聞いただけで、押見の団体とは関係ない」

「隣の方も?」

「そうです。初めまして、と言っても何人か見知った人物がいますが、SP公安警察の森永です」


 森永が俺や麻衣、栞を見渡していくと、それで合点がいった彩水が言う。


「東京出張組みね」

「ああ。でも、SPの森永さんがどうしてここへ?」

「ははっ、私は影武者。老師が動かなければ普段の任務ですよ。たとえば、今回のような出張が回ってきます」


 最初に名乗りを上げた佐々木が話を切り出す。


「それで、今回は未成年拉致事件とのかかわりや市民の不安もあって、希教道への視察にきた」


 少し高圧的な物言いに幹部がいきり立つ。


「視察ってことは、捜査ですね?」

「裁判所の礼状見てないよ」

「身分証は提示している。これは視察であって、保管されているものを確認するだけだ」


 憮然とする公安部長から、出張の森永が付け加える。


「何も持ち出すことはないですよ」

「写真は撮る。教団のパンフレットがあれば徴収する」


 不審と不快の目になる幹部一同。


 二人の視察は、道場主と彩水が先導して内部を紹介して回った。

 血気盛んな筋肉質のおっさんと、それをなだめる背の高い爺さんと言う感じで話し合っている。

 栞の部屋も入って確認していると思うと、なぜかまずいような恥ずかしくなるような気分になっていく。

 何事もなく終わり、玄関へ出て行く二人を見送る一同。

 敵対したプロ市民の一団と違って、中立を保つがしっかりと忠告はしてきた。


「何か起きて連鎖自殺のように死傷者がでれば、希教道に破防法が適用されるからな」


 佐々木部長の高慢な物言いにまた憮然とする幹部たちだが、よくわからない。


「破防法って何?」


 隣にいた麻衣が俺に聞いてきた。


「延焼を阻止する江戸時代のあれじゃなかったか?」

「それは破壊消火の法でしょ?」


 駄目だし喰らったので栞に目をやる。


破防服ボディアーマー規制法じゃないかしら?」


 うん、意味不明だが、栞の次に道場主が口を挟んだ。 


「組織の破滅を防止する法では?」

「いえ、正式には破壊活動防止法です。暴力的破壊活動団体を抑えるものですね」


 公安の森永さんに意味を告げられて、全員赤面した。


あの力・・・を行使するなら、自衛隊出動要請も適用するとのこと。そこは政府や指南役は本気です」


 続けて森永さんが言った、自衛隊発言に俺は驚愕した。

 あの力とは勾玉使いに間違いないだろうが、栞は案外冷静に受け止めている。

 なぜか周りの幹部たちも、みんな栞に目を向けていた。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る